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chapter x-17「悲しき運命の将軍」

 王位継承戦争が終戦を迎える数日前――。


 前代未聞の革命が成立し、世界は再び平和に戻った。


 ――と思っていたのがそもそもの間違いだった。


 兵士の1人を気絶させ、()()()()()()()()()を奪って着替えた。これで誰から見てもメアリー軍の兵士にしか見えない。


 私はメアリー女王が息絶えたと思い寝床を見に行くと、そこには息絶えた暴君の姿がある。


 エクスロイドはこちらを振り向いた。私はメアリー女王の死を確認しようと死体に近づいた。


 レッドハートドレスはメアリー女王の血で染められ凝固している。私はその姿を見ながら何度も憎しみを込めて踏みつけた。


「よくも今まで私を脅かしてくれたわね。いい気味よ。あなたはもう女王じゃないわ。いいえ、最初から女王の資格もないわ」


 今まで言いたかったことを全部吐き出した。


 兵士たちが起きてくる様子はない。このことがばれればただでは済まないけど、私にとってはどうでもいいことよ。


 これで私はアリスの居場所へと案内させられる。だが肝心の居場所までは分からない。ピクトアルバにいるとは言ってもどこの住所なのかさえ分からぬまま。


「思いきった決断ね」

「我に主人はいない。約束通りアリスの元へ案内しろ」

「アリスはピクトアルバにいると思うわ。でも行き方が分からないの」

「ならお前も食べるまでだ」

「待って。だったらアリスの方から来てもらえば?」

「どういうことだ?」

「クイーンストンを制圧するの。そうすればアリスも動かざるを得なくなるはずよ。クイーンストンに誘い出してアリスを狩るの」


 私はニヤリとした顔で言った。エクスロイドもこの状況を理解している様子。


 アリス、あなたには悪いけど、こいつの犠牲になってもらうわ。


 全ては自由を得るため。もう戻る場所もないし、このまま隙を見てここから離れた後、のんびり田舎で誰かに雇われながら一生を過ごすのも悪くないわね。


 田舎ならメイドは常時募集中だし、最悪衣食住の保証をしてもらえるだけでもありがたいわ。


 今さら待遇なんて求めない。命あっての物種よ。エクスロイドとの交渉は命懸けだったけど、奴がアリスを選ぶことを読みきっての決断よ。


 私は近くに咲いていた1輪の赤い薔薇を採ると、墓花として死体のそばに添えた。


 後は兵士たちの中に紛れてしまえばもう分からないわ。


 すると、エクスロイドが私の添えた薔薇とメアリー女王の死体を浮かせた。


「エクスロイド、何をする気なの?」

「我が軍最大の味方として蘇らせる。我の言うこともよく聞く」

「あなた正気?」


 答えが分かりきっていることをつい聞いてしまった。


 こいつは最初から狂気だ。それは私もよく分かっていた。


 エクスロイドはメアリー女王の固有魔法であるはずの【融合(フュージョン)】を見事なまでに使いこなし、メアリー女王と赤い薔薇が1つになり、段々とゾンビのようなおぞましい姿へと変わっていく。


 その場にスタッと降り立つと、傷はそのままに生前のような意思はなかった。


「――国王陛下、拝謁いたします」


 メアリー女王がエクスロイドに跪きながら言った。


 一瞬、何が起こっているのかを理解できなかった。


 えっ……どういうことなの? というのが最初に思った感想である。しかもエクスロイドを国王陛下と呼んだ。


「明日、クイーンストンを占領せよ」

「かしこまりました、国王陛下」

「……」


 私は慌てて森へと逃げた。エクスロイドは後を追ってこない。


 どうやら本気でアリスを誘い出すつもりのようね。


 でもまたメアリー女王が蘇ってしまった。しかも今度はエクスロイドの従者として。このままメアリー軍が勝利してしまえば、私たちはモンスターの支配の下で生きることになる。


 この格好のまま逃げようと思ったその時だった――。


「ちょっと待ちなさい!」

「!」


 後ろから耳を突き刺すような声で誰かが私を呼び止める声が聞こえた。


 振り返ってみれば、夜番を務めていたメアリー軍の兵士がそこに立っていた。


 赤い軍用服に似合わない青色のロングヘアーにアリスと同じくらいの背丈の女性だった。明らかに戦闘に慣れており、軍用服の所々に剣や銃の傷跡がついている。


「あなた、見かけない顔ね。もしかして新入り?」

「そ、そうよ。ちょっと花を見てたの」

「ふーん、花を見るのが好きなんだ。私はキャロル・アストリー。あなたは?」

「バーバラ・サンドフォード」

「……どっかで聞いた名前ね」


 しまった……偽名を使うべきだったわ。


 でももう遅い。一度放った言葉は戻ってこない。もしこのまま元メイド長としての姿がばれてしまったらおしまいじゃない。


 後ろを向き、やばいと思いながらしかめっ面のままだった私は不安に怯えた。


「き、気のせいじゃない」

「まあいいわ。それより、明日にはあのクイーンストンを攻め落とすことになるわ」

「あそこは反乱軍が占領しているのよ。殺し合いになるわ」

「仕方ないわ。女王陛下のご命令だもの。あんな化け物を従えて堂々と闊歩されちゃ、こっちとしては従うしかないわ。誰も心底から好き好んであのお方に従っているわけじゃない。ましてや仮にも同じメルへニカ人同士で殺し合いなんて……とんでもないわ」


 落ち込みながら下を向いているキャロルが言った。


 彼女をよく見ると、胸には将軍の紋章が描かれたバッジがある。それを見た私は彼女がメアリー軍の将軍であると一発で理解した。


 味方したくもない暴君の大将として出撃せざるを得ないなんて。


 私は彼女が置かれている境遇に同情するしかなかった。


「キャロル、この戦争が終わったら、私と一緒に逃げない?」


 咄嗟に提案を試みた。私1人だけでは心もとない。せめて腕っぷしの強い誰かと一緒にいた方がずっと安全よ。


「えっ……あなたと?」

「実を言うと、私もあんまり乗り気じゃないの。それに1人や2人逃げたところでどうってことないし、実家が酒造だったから、お酒の造り方も知ってる。田舎で一緒にジンを造りながら一緒に暮らすの」

「ふふっ、素敵ね。その話乗ったわ」

「えっ、本当にいいの?」

「ええ、だって面白そうだもん」


 単純な人ね。まるでアリスを見ているようだわ。純真で好奇心旺盛で、人を疑うことを知らない真っ直ぐな心の持ち主。でも何だか嫌いにはなれない。むしろ可愛いとすら思えてくる。


 私は彼女を通して、もう一度人生をやり直すきっかけを与えられた気がした。

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