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chapter 8-10「取り戻した平和」

 王位継承戦争の終戦からしばらくの時が過ぎた。


 久々に王都ランダンへと赴くと、女王陛下の戴冠式を祝い、女王陛下からたくさんのご褒美をもらってからピクトアルバへ戻った。


「あっ、アリス。おかえりー」


 迎えてくれたのはスーザンたちだった。


 ザッハトルテを食べて元の大きさに戻ったラットは、あのままの大きさがよかったと嘆いていたが、凶悪なモンスターと勘違いされて討伐される恐れがあったため、結局元に戻ることに。


 本当によく活躍してくれたわ。


「ただいま。姉さんも入って」

「姉さん?」

「私、過去の記憶を全部取り戻したの」

「そうなの? よかったじゃん!」


 みんな記憶が戻ったことを自分のことのように喜んでくれていた。


 姉さんはピクトアルバで私たちと共に住むことを決意した。


 私たちは7年ぶりに元の生活を取り戻した。もう二度とこの平和を乱すことのないよう、錬金魔法で新たなモンスターを創ることが法律によって正式に禁止されたものの、生活に役立つ錬金魔法自体は大いに奨励されることとなった。


 これは女王陛下による私への配慮でもあった。


 同じくランダンへ戻ったレイモンド様、実は女王陛下のスパイだったジェームズ様から大臣になってはどうかと推薦されたけど、私には田舎でのんびり暮らす方が向いているとお断りした。


 クリス様はスカンディア王国からの親善大使としてピクトアルバに残ることに。


 別荘を売地にしたかと思えば、私の家に引っ越すと言って聞かなかった。まあ人手が増えるから別にいいけど。


「ねえねえ、ランダンで何してきたの?」

「女王陛下からご褒美貰ったんでしょ~。土産話もいっぱい聞かせて~」


 クリス様を始めとした面々が私を囲み、ランダンでの出来事を聞いた。


 ランダンではロクな思い出がなかったけど、今回ばかりはいい思い出になった。


「分かったわ。それよりお腹空いた」

「あー、そっか。長旅で疲れたもんね」

「ランダンからここまで5分かかってないけどねー」

「嘘っ! そんなに早く移動できるようになったのっ!?」

「まあね。だからいつでもどこでも行けるわ。それにご褒美も貰ったし」

「「「「「!」」」」」


 私は青袋から白金貨100枚を取り出し、みんなその額の大きさにぽかーんとしている。


 王位継承戦争における最大の功労者であるとして、女王陛下は私たちの一生分に当たる額のご褒美を下さった。しかもロリーナと一緒に貴族資格であるデイムの称号までくださった。


「私たちはもう生活のために理不尽なことを我慢したりする必要はないの。これからは自由に楽しくのんびり暮らしましょ」

「ふふっ、アリスらしいわね」

「姉さん、お願いがあるんだけど」

「なあに?」

「これ、姉さんにプレゼント」

「プレゼント?」


 私は青袋に白金貨をしまうと、正四角形のケースを姉さんに手渡した。


 ケースの上の部分はドーム状になっており、プレゼントには最適の箱だった。


「うん。開けてみて」


 姉さんが言われるままケースを開けると、そこには宝石がはめ込まれたペンダントがあった。


「――これって」

「姉さん、このペンダント欲しがってたでしょ。今まで苦労かけてごめんね」

「アリス……」


 姉さんは片手で口を押さえ、その目からは涙が止まらなかった。


 私は自分の記憶だけでなく姉さんと一緒に過ごした過去も全て思い出していた。


 記念日には必ずプレゼントを贈っていたことを思い出し、ランダンからの帰り際に宝石屋へと足を運んだ私は、密かに姉さんへの誕生日プレゼントを買っていた。


「……ありがとう。アリス、ありがとう」


 姉さんが私の胸に飛び込んでくると、私は姉さんの頭にそっと手を置いた。


 微笑ましい光景となりながらも、スーザンたちも涙目になっていた。


「姉さん、私はもうどんな困難にも負けない。だから姉さんも負けないで」

「うん……アリス、私からもプレゼントがあるの」

「えっ……」


 そう言って姉さんがバッグの中から小さくて可愛いピンクの帽子を取りだした。


「この前可愛い帽子が欲しいって言ってたでしょ。受け取って」

「姉さん……」


 こんな偶然があるのだろうか。2人揃って同じ日にサプライズを仕掛けようとしていたなんて。


 私の目からも大粒の涙がほっぺを伝い、さっきまでの姉さんと同じ感情を共有した。


 サプライズプレゼントって……こんなに嬉しいものだったのね。一本取られた気持ちになりながらも姉さんの胸に飛び込んだ。


「姉さん、ありがとう」

「よしよし、アリスは昔っから甘えんぼさんなんだから」

「そ、そんなことないわよ。私はもう子供じゃないし」

「私にとってアリスはずっと可愛い妹だよ。ふふっ」

「ずるいっすよ。こんな感動的なところを見せるなんて」

「そうよ。泣いちゃったじゃない」

「なんか昔のアリスと全然違う。本当に明るくなったと思う」


 セシリアが私の変化を敏感に感じ取るように言った。


 それは多分――大きな困難を乗り越えたからだと思う。


 翌日――。


「それじゃー、無事にアリスたちも戻ってきたことだし、やっと全員集まったみたいなので、うちでも戦勝記念パーティを開催したいと思いまーす。カンパーイ!」

「「「「「カンパーイ!」」」」」


 私たちはバーに集合し、それぞれの武功を称え合った。


 うちの家の人たち、それからエドにエミにシモナにハンナにエレナにニコラといった人たちが集い、いずれも王都ランダンにいなかった人たちと共にできなかった戦勝記念パーティを行った。


 さっきまで静かだったバーがあっという間にざわざわと賑やかになった。


 私はこの人たちと一生平和にのんびり暮らしたいと心底思った。


「アリス、本当にありがとう。全部君のおかげだ」

「私は当然のことをしただけよ」

「たとえそうであっても、君は本当に大した救世主だ。見てみろ。アリスはこれだけ大勢の人を笑顔にして1つにまとめている。みんなアリスに感謝してるんだ。君はもう1人じゃない」

「――エド、私たちって、友達よね?」

「当たり前だろ。何ものにも代えがたい大事な友達だ」

「ねえアリスー、せっかくだからアリスの武勇伝話してよー」

「そうよ。みんなアリスが大好きなんだから」

「ふふっ、分かった。じゃあ最初っから話そうかな」


 ここは、とても平和な魔法の国、メルへニカ王国。


 私たちの幸せで楽しい暮らしは、まだ始まったばかりであった。

本編はこれで最終回です。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

番外編ももうすぐ終わります。

気に入っていただければ下から評価ボタンを押していただけると嬉しいです。

読んでいただきありがとうございます。

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