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chapter 8-8「最終決戦」

 箒をスイーパーモードに変更すると、穂先がラッパのような吸い込み口へと変わった。


 私は吸い込み口に魔力を集中させ、通常よりも強大な威力で技を放とうとした。だがメアリー女王はそれを阻止しようと触手を一斉に振るってくる。


 ――ま、まずいっ!


 その時だった――。


「私の妹に手を出さないでっ!」


 ロリーナが私の前に背を向けて立ちはだかり、ハンマーを盾に触手の攻撃を受けた。


「ロリーナ」

「アリスは私たちが守る。あなたはメルへニカ最後の希望なんだから」

「おのれぇ! そこをどけぇ!」


 メアリー女王の触手についた刃物が一斉にロリーナに襲いかかる。


 しかし、エドの聖剣とシモナの銃弾がそれを阻み、ハンナの羽がメアリー女王の顔付近に命中したことで大きな隙が生まれる形となった。


 エドも屋上に着地すると、すぐさま私たちに合流する。


「ぬぅ!」


 メアリー女王の魔力がさらに強大化されていくのを察知すると、触手がすぐに復活し周囲のエドたちを縛りつけた。


「!」

「アリス、今だっ!」


 エドの叫びに応えるように私は穂先を前方へ向け発射態勢に入る。


「お掃除の時間よ。【爆破掃除(ブラストスイープ)】」


 穂先に込められた大きく丸いエネルギー弾が勢いよく発射された。


 エネルギー弾がメアリー女王に直撃すると共に大爆発を起こし、屋上の大部分が炎に包まれた。私自身も爆風で壁にまで吹き飛ばされてしまった。かろうじてこらえたものの、溜め撃ちは極力避けようと思わせるほどの一撃だった。


「ぐおおおおおぉぉぉぉぉっ!」


 メアリー女王とその触手は黒焦げとなり、段々と収縮して元の大きさへと戻った。


 私、エド、ロリーナ、クリス様、シモナ、ハンナは彼女のそばへと近寄り、憎しみと憐みが混ざり込んだような目で見つめた。


 力尽きた暴君の姿は赤黒く焼き尽くされ、墨色に染まった薔薇のようだった。すっかりと枯れ果てているようにぽかーんとした顔で仰向け倒れたまま空を眺めていた。


「――何故だ? ……何故誰も余に従わぬ?」

「いくら力があっても、そこに世の平和を願う気持ちや民への愛がなければ人はついてこないわ。あなたは力づくで人々を従わせようとした北風よ」

「全てはメルへニカのためと思うて即位したが、余は負けた。神は味方になった者を決して敗北などさせぬ。余の計画は……間違っておったというのか。もはやこれまで。アリス・ブリストル。そなたがとどめを刺せ。雑兵の手でやられとうない」

「それはできないわ。あなたは生きて罪を償うべきよ」

「……情けなどいらぬ。余はもう死んだも同じ――ぐおおおっ!」

「「「「「!」」」」」


 突然、メアリー女王の姿が消えたかと思えば、その体を腹部の横から大きな大顎で噛み、あっという間に捕食された。


 上を見上げると、そこには暴君の血によって口周りを汚しているエクスロイドの姿があった。


 その姿は兵器そのものであり、鎧のような体のドラゴンの姿がそこにはあった。


 両翼には2門の大砲があり、両腕の手首付近にも3門の大砲が付属されている。しかもそれらは肌と一体化しており、人工的に設置したものではなく、生えてきた武器であることが分かるほどだった。


「なんてことを」

「ようやく見つけたぞ、アリス・ブリストル。久しぶりだな」

「あいにくだけど、私はあなたを覚えていないの。エクスロイド……いや、ジャバウォック、何故メアリー女王を食べたの?」

「我の主人ではなくなったからだ。今や我がメルへニカの王、いや、この世界の王だ」

「ジャバウォック、もう戦争は終わりよ。そっちの大将はもう負けを認めたわ」

「我は敗北など認めてはおらん」

「?」


 私は首を傾げた。言葉は通じる見たいだけど、話は全然通じないみたい。


「待ってアリス、あなたはさっき、この戦いを命懸けのチェスと言ったでしょ」

「それはそうだけど、何か問題あるの?」

「いいえ、あなたの例えは正しかった。チェスではクイーンを倒しても()()()()()()()

「――! それじゃあ……」

「あの化け物こそが、今のメアリー軍の大将、すなわちキングよ」

「私が戦うわ。みんな下がってて」


 何故だろう。この戦いだけは私1人で決着をつける必要があるように思えた。


 しかもそれは初めてじゃない。始まってからずっと終わらなかったこの戦いに終止符を打つ責任が私にはあるとさえ感じたのだ。


「アリス、7年前の決着をつけるぞ」

「――ブレードモード。ジャバウォック、あなたをお掃除するわ」


 剣へと姿を変えた穂先をエクスロイドに向け、目の前での討伐を力強く宣言する。


 救世主としての私の役目、それは暴君が残した最後の置き土産をお掃除すること。


「貴様を倒し、我が最強の王となるのだぁ!」


 エクスロイドの両腕が鋭い刀剣へと変わり、執拗に私を攻撃してくる。


 私はブレードモードとなった箒で迎え撃ち、何度も互いの刃を打ち鳴らし合った。


 何度も隙を見ては相手の体を切りつけるも、鎧のように固い体にはひびすら入らない。これじゃきりがないわ。


 そう思っていると、エクスロイドの刃と化した腕が私ごと箒を弾き飛ばした。


「きゃっ!」


 地面を大きくスライディングしながら後退し、攻撃による衝撃を受け止めた。


 すると、エクスロイドの両腕が3門の大砲へと変わり、両翼から生えた2門の大砲がこちらに狙いを定めると、いくつかの黒い弾が発射された。


「スイーパーモード。【吸引掃除(サクションスイープ)】」


 剣だった穂先が再び吸い込み口へと変わり、黒い弾を次々と吸い込んだ。


「お返しよ。【排出掃除(エミッションスイープ)】」


 さっき吸い込んだ黒い弾がエクスロイドの全身に命中すると共に大爆発を起こした。


 体の表面を覆っていた鎧がボロボロと剥がれていき、何門もあった大砲全てが破損し、もはや使い物にならない状態となっていた。


「最強の鎧も、さすがに最強の攻撃までは跳ね返せなかったみたいね」

「ならばこれでどうだっ!」

「!」


 鎧を破壊した影響からか、エクスロイドの動きが俊敏となり、いきなり目の前に拳が飛んでくる。私は咄嗟に受け止めようとしたが、攻撃が強すぎたのか、受け止めきれずに真後ろにある屋上の壁に思いっきり後頭部から叩きつけられた。


「ああっ!」

「「「「「アリスっ!」」」」」


 私は壁を引きずりながら床に落下し、今にも気を失いそうになった。目の前には鎧が脱げたエクスロイド、いや、ジャバウォックの姿が段々と近づいてくる。


 この時、私の中で何かが思い起こされようとしていた。

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