chapter 8-7「赤い城の女王」
赤い城の城内には少数精鋭と思われる兵士だけが並んでいた。
思った以上に人数が少ないことには驚きだけど、それ以上に驚いたのがこの城の構造である。人が住むような場所ではなく、明らかに城内に侵入してきた敵を迎え撃つ前提の構造だったことだ。
「おいおい、軍勢が入ってくるかと思いきや女2人とはな」
メアリー軍の幹部と思われる男が人を見下したような顔で迫ってくる。
「私たちはメアリー女王を倒しにきたの。そこをどきなさい」
ロリーナはハンマーを片手に持ち、それを敵の幹部に向けながら言った。
すると、幹部の男が鞘から鉄をも切り裂く長剣を抜き、ロリーナに向けた。
「ふっ、俺たちも随分となめられたもんだな。女王陛下にお会いしたくば、まずは俺たちを倒してから行くんだな」
「交渉決裂ね。いいわ。死んでも一切文句は言わないことね。まっ、死んだらそもそも口を開くこともできないけど」
「少しは骨がありそうだ。いいだろう、かかってこい」
「アリス、ここは私に任せて。あなたは屋上まで行くのよ」
「分かったわ」
「ふふふふふ、ふははははは! お前、たった1人で女王陛下とエクスロイドに勝つつもりか?」
「そうよ」
私はそう言いながらブレードモードのままの箒に乗り、屋上を目指していく。
「させるかっ! ぐあっ!」
敵の幹部が長剣から光の弾を飛ばそうとするも、それをハンマーから放たれた衝撃波で妨害された。その間に私は上の階を目指していく。
「あなたたちの相手は私よ」
「ふん、後悔させてやるっ!」
敵の攻撃をひらりとかわしながら屋上に続く階段を見つけた。
下の階ではロリーナと敵の幹部が長剣とハンマーを打ち鳴らし合いながら激しい攻防が続いている。大きくて重いはずの取っ手が細長いハンマーを軽々と扱い、小回りを利かせているロリーナに対し、敵はなかなか隙を突くことができないでいる。
みんなが私のために敵を引き受けてくれている。
ここはみんなを信じ、私は私の成すべきこと成すことに――。
屋上に続く階段の前で箒から降りると、県の部分を前に向けたまま階段を上ると、暗いと感じる程度の雲が真っ先に私を迎え入れた。
上空は今にも雨が降りそうな状態だ。
屋上は平地のように平らな地面が広がっており、床から壁に至って間での全てが不規則に敷き詰められた色彩豊かな煉瓦でできている。
「……そなたが、アリス・ブリストルか」
目の前には後ろ向きのまま落ち着いた様子で佇んでいるメアリー女王がいた。
こちらを振り替えると、腹部から背中にかけての部分が鋭いもので貫かれたように穴が開いており、そこから流れ出たであろう血液が凝固しており、その頭にはメルへニカを象徴する王冠をかぶっている。
腐った魚のような目に痩せこけた肌、まるでゾンビみたいに怖い目でこちらを見つめている。
「ええ、そうよ。以前会った時とは全く違う外見ね。大人しく負けを認めなさい」
「負けを認めるだと。無礼者め、まずはそなたを打ち首にしてやろう」
「!」
メアリーの両腕から切れ味の鋭いギロチンの刃のようなものが生え、両手と両足が植物のつるのように伸びると共に体も巨大化した。
さらには背中の後ろからも無数の触手が生えると、それらの触手も鋭利な刃物へと変わった。
「余に逆らったことを後悔しながら死ぬがよい。神が余に授けてくださった、この錬金魔法の力で、そなたら全員を打ち首にしてくれようぞ」
「やれるものならやってみなさい」
その頃、シモナが赤い城の屋上の様子に気づいた。
「! ハンナ、あれは何?」
「まさか……メアリー女王か。何だあの姿は? まるでモンスターだ」
「あれは女王でも何でもないわ。ただの化け物よ」
エリザベス軍もメアリー軍も、メアリー女王の変わり果てた姿に注目が集まると共に怖気が走り、その恐怖感を持ったまま戦闘を中止してしまった。
もうこんなの女王じゃない。もし負ければみんな一生この化け物に怯えながら生きることになる。そんなの絶対嫌よ。
「みんなー! よく聞いてー!」
私は屋上から敵味方全員を呼び止めた。エリザベス軍もメアリー軍も私を注視した。
「もしメアリー女王の天下になれば、メルへニカにはもう平和なんて訪れない。いいえ、メルへニカだけじゃない。世界中があの化け物の支配に怯えることになるのよ。あなたたちはそれでもメアリー女王に付き従うつもりなの!?」
「誰かに仕える前に、その者が統治者として相応しいか考えてみろ。お前たちが本当に敵として戦うべきなのは誰なのか、それくらい分かるはずだ。僕らはメルへニカの民、何があろうといかなる暴君にも従わないはずじゃなかったのか!?」
私に続くようにエドが周囲に呼びかけた。
今の統治者が統治者としてふさわしくないと認められる場合、国の民にはその統治者を打倒する義務が発生することを敵味方問わず説いた。
これ以上戦いが長引いては確実に負ける。
ただでさえこの粗大ごみとも言える暴君をお掃除する必要があるが、今、私たち人間の上に真の暴君が成立しようとしている。
すると、私たちの説得が効いたのか、はたまた心底に秘めていた暴君への不信感にようやく火がついたのか、メアリー軍の兵士の1人が剣を捨てた。
それを見た他のメアリー軍の兵士も芋ずる式に剣や銃などの武器を捨てた。
「貴様らっ! それでも王国の民かっ!?」
「これがみんなの答えよ。あなたに忠誠を誓う者はいないわ」
「おのれ……おのれええええっ!」
メアリー女王がさらに凶暴化し、刃物を持った触手を私の首に向けて勢いよく振り下ろした。
その時――。
飛んでいるハンナに乗ったシモナが弾を触手に命中させた。
触手の長いつるが銃弾で切断され、ギロチンの刃が私の目の前に落ちた。間一髪打ち首を免れた私は肝が冷えた。
「触手は私たちに任せて」
「みんな……」
涙が出そうになった。でも泣くのは平和を取り戻してからよ。
私には油断なんて微塵もなかった。今は目の前の敵を倒すことにだけ全神経を集中しないと。
周囲をあざ笑うような顔のメアリー女王を睨みつけると、私の覚悟が固まった。
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