chapter 8-6「突入作戦」
実験成功を確認後、ラットにザッハトルテを食べさせ、元の大きさに戻ってもらった。
今日の内にクイーンストン奪回作戦の準備を整えるべく、それぞれが行動を開始する。
エリザベス軍にとって今日と明日は最も忙しい日になるだろう。兵を半数に分け、作戦を伝え、エド、レイモンド様、ハンナ、シャルルを始めとしたエドワード隊は南口へ回ってもらった。
私、ロリーナ、クリス様、シモナを始めとしたアリス隊はエドワード隊の動きを確認した後、正面の北口からタイミングを見計らって侵入することに。
幸いにも南口には注意が向いていない。エドワード隊は昼の間に気づかれないくらいの距離を保ちながらクイーンストンを迂回し、南門近くの平地で泊まることに。
アリス隊も同様に北門近くの森の中に泊まった。私たちは北と南からわざとクイーンストンの城に向かって銃弾を撃ちまくった。戦闘になったら退避して戦い、戦闘がなければそのまま床に就く。これで敵は夜襲を恐れて一晩中眠れなくなるとレイモンド様が教えてくれた。
クイーンストンに居座っているメアリー軍の兵士たちがざわざわと騒ぎ立てながら混乱している様子が聞こえてくる。
だが外には出てこない。迂闊に外に出れば討ち取られるからだ。
終始賑やかな様子だとこっちまで眠れそうにないが、騒ぎが聞こえなくなるくらいに距離をとって眠るから問題ない。
翌日――。
昼を迎え、早速エドワード隊が作戦を開始した。
定期的に外からの発砲を繰り返していたため、敵兵たちは睡眠不足でへとへとの状態だ。
南からの攻撃に対応するため、クイーンストンにいる敵兵の人口が段々と南側へ集中していく。
「ラット、あの城の屋上に侵入したらこれを食べて大きくなるのよ。私が届けるわ」
「ああ、分かったぜ。対空設備を破壊し尽くせばいいんだろ。任せとけって」
「それができるかできないかで勝つか負けるかが決まるわ。頼りにしてる」
私はラットを見つめながら微笑んだ。
その隣では不満そうな顔のクリス様とロリーナが私を睨みつけながらほっぺを膨らませている。
ラットとばかり話している様子が気に入らないのか、自分も構ってほしいと甘えてくる始末。その内私がいないと呼吸すらできなくなりそうね。
「アリス、無茶だけはしないでよ」
「分かってる。ロリーナもね」
私はブレードモードとなった【女神の箒】を構え、仲間たちと共に北口から突撃を開始する。
敵の背後を突く形となり、敵兵の疲労もあって次々と討ち取っていく。
中でも飛び抜けて実力を発揮していたのがシモナだった。
早撃ちによって次々とヘッドショットを決めていき、突撃する味方を力強くサポートする。銃の音が鳴る度にまた1人また1人と赤い軍用服を着た敵兵が倒れていく。
「シモナ、メアリー女王の位置を特定できる?」
「やってみるわ」
すぐにシモナの【探索】によってメアリー女王の位置を把握する。
「――見えた。メアリー女王はあの城の屋上よ」
「屋上って、対空設備のある場所じゃない」
「アリス、私が城門を破るわ。あなたはすぐ中に入って」
「それじゃ作戦と違うわ」
「戦闘中に作戦変更なんてよくある話よ。見て」
「!」
ロリーナに言われるまま城の周辺を見てみると、城の屋上にある兵士たちや対空設備や銃口から青く細長い光線を放ち、味方ごと地上を攻撃し始めた。
戦場はさらに荒らされ、見るに見かねたハンナが翼を広げて地上から羽ばたき、対空設備の狙いを地上から逸らした。
「ハンナっ! 今すぐ降りろっ! 狙い撃ちされるぞ!」
エドがハンナに向かって叫んだ。だがハンナは聞く耳を持たないまま空高く飛び上がった。
「【空爆新星】」
両翼の翼から羽を次々と赤い城の屋上へと飛ばし、自らも対空攻撃を何度も受けた。
段々と体がボロボロになっていくハンナを私たちは見ているしかなかった。
ハンナが地上に撃ち落され、赤い城の屋上にあった対空設備と敵兵は全滅した。これを見たレイモンド様は後方に待機していた空軍を呼んだ。
私とシモナは倒れているハンナに駆け寄った。
「ハンナ、大丈夫!?」
「私は大丈夫だ……シモナ、これで……敵にいた時の借りは返したぞ」
「馬鹿言わないでよ! 死んだら意味ないでしょ! カッコばっかりつけて……」
「すぐに治すわ。【浄化掃除】」
ハンナの全身の傷が塞がっていき、彼女は何食わぬ顔で立ち上がった。
「ありがとう。シモナ、私に乗って援護してくれ」
「分かったわ」
シモナがハンナの背中に乗ると、そのまま再び空へ飛び立つと、敵が繰り出してきた空軍兵士らとの戦闘が始まった。
巧みに攻撃をかわしながらシモナがハンナの死角から迫ってくる飛行兵を撃ち落としていく。
エド、レイモンド様、クリス様も自らの剣で敵と剣を打ち鳴らし合い、次々と倒しながら赤い城へと迫っていく。
城門の前には赤い城を死守しようと兵士たちが待ち構えている。
ロリーナはとても大きくて重そうな【破壊の金槌】を片手に持ち、そのまま城門の前の敵に向かって突撃する。
「そこをどきなさい。【破壊神の鉄槌】」
鉄槌が城門前の地面に思いっきり打ちつけられ、そこから生じた衝撃波によって城門ごと兵士たちを吹き飛ばした。
しかし、その後ろから大勢の敵兵が大波のように迫ってきていた。
「アリス、ここは僕に任せろ! この国の未来はアリスにかかってる!」
エドが敵兵がいる方向に剣を構えながら力強い声で私に言った。その目からは死ぬことさえいとわない覚悟が伺える。
「……分かったわ」
「アリス、俺にヘレントルテを食わせてくれ」
「それはいいけど、どうするの?」
「でかくさえなれば敵を食い止めるくらいはできる」
「――死んじゃ駄目よ」
「分かってるって。俺がいない世界なんてつまんねえだろ」
ラットはカッコつけながらそう言うと、私の手に平にあったヘレントルテを食し、敵兵を阻まんとする壁の如く、段々と巨大化していった。
「俺のアリスに手を出そうなんて、100年早いぜっ!」
ラットは背中を丸くして迫りくる敵兵に向かってゴロゴロとその巨体を盾に回転させながら全力で体当たりを決めた。
「オラオラオラオラオラオラオラオラ!」
敵兵は次々と巨大な毛玉と化したラットに弾き飛ばされ、戦闘不能になっていく。
城門には私とロリーナの2人のみ。外を味方に任せ、私たちは赤い城へと突入した。
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