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chapter 8-5「先代王の遺言」

 機械仕掛けの歯車を回すように思考を巡らせ、私は1つの答えに辿り着いた。


 メアリー女王を先に倒せば仲間たちが戦う必要はない。だったら全員で攻め込む前に私がメアリー女王の居場所に忍び込めばいいのよ。


 戦力ではかつてメルへニカの全域を支配していたメアリー軍の方が圧倒的に勝っている――私たちが勝つには敵の急所を突くしかない。


「ロリーナ、これは戦争ではあるけど、本質はチェスと同じよ。私がメアリー女王のいる場所に行って討ち取ってくるわ」

「アリス、無茶を言うな。いかに君が強くても、敵は我々の10倍はいるんだぞ」

「だったら何故……レイモンド様はこっち側についたのですか?」

「……先代王からの遺言を遂行するためだ」

「遺言?」

「ああ」


 先代王は病に倒れた際、メアリー王女の妹であるエリザベス王女を後継者に選んだ。


 聡明な王であった先代王はどちらが女王に相応しいかを知っていた。だがメアリー王女は錬金魔法の力に囚われ、次第に先代王でも歯止めが利かなくなっていった。


 だがそれを知っているのは死の床についていた先代王が贔屓にしていた大臣、レイモンド様とジェームズ様のみだった。


 ジャバウォックを従えていたメアリー王女が即位を主張すると、ジェームズ様が先代王を裏切り、メアリー王女の宰相となった。


 レイモンド様は敗軍の将として北方へ追いやられ、後に罪を許されてラバンディエの市長となった。


 彼の家が女王陛下がお好きな白を基調とした家だったのは、今でも女王陛下を慕っていること、そしてメアリー女王への抵抗を意味していた。


「……先代王がそんな遺言を残してたなんて」

「先代王が亡くなられる頃には、メアリー女王は既に兵力を増強していた。だから誰も遺言を告げることができなかった。そんなことをすれば何人の首が飛ぶか分からんからな」

「アリス、あれを見て!」

「「「「「!」」」」」


 私たちは空中に留まり目の前にそびえ立つ巨大な赤い城を目撃した。


 所々に不自然な色彩が使われており、それが私たちの不安をより一層掻き立てた。


 クイーンストンにこんな城があったという話は聞いたことがない。あの色彩からして真っ先にメアリー女王の建造物であると確信する。


「これはどういうことだ?」

「おいおい、大砲で全部平地になったって言ってなかったか?」

「撤退した時には建物が全部まっさらになってた」

「酷い。街を滅茶苦茶にした挙句にあんな趣味の悪い城まで建てるなんて」

「あれは錬金魔法で作られた城だ。材料は全て壊した建物で構成されている。だから今までの城とは全く違う形になっているんだ。即興で建てたんだろうが、問題は防御力だな」

「潰れやすいってこと」

「いや、むしろ逆だ。この辺の建物は頑丈な鉱物が使われている。あれを崩すのは至難の業だ。しかも相手の戦力はこちらの10倍で守備側だ」

「そんな……」


 このままの戦力ではまず勝てないため、地上に降りてからクイーンストンの近くの森に陣地を設け、そこで作戦会議が行われた。


 シモナやハンナがいるとはいえ、この戦力差を跳ね返すにはどうすれば――。


「で? どうする? このまま突撃したところで、返り討ちにされるのが関の山だぞ」

「ハンナ、確かあんた1人で一個軍団を倒したのよね。だったらその翼で倒せるんじゃないの?」

「そうだな。一度派手に暴れてやろう。お前たちはその間に――」

「無理だ。あれを見てみろ。城の屋上に錬金魔法で作られた対空設備が備えられている。あそこから発射された弾は標的を追尾するように作られている。10年前にはあんな設備はなかった。だから空軍で圧倒することができた」


分析(アナリシス)】によってメアリー軍の城を分析したエドが言った。


 今空軍で突撃したところで全て撃ち落されるのが目に見えている。


 あの要塞を攻略さえできれば何とかなるけど、地上は10倍の兵が城を守っている。


「じゃあどうするのよ?」

「だったらあの対空設備をお掃除すればいいじゃない」

「地上の兵はどうするのよ?」

「誘い出せばいいのよ。クイーンストンは全方向に壁を敷き詰めて要塞化してる。出入り口は北と南の2ヵ所、つまり地上部隊はその2ヵ所からしか出入りができない。だからね――」


 私はエドたちに作戦を伝えた。空軍が使えないなら頭を使えばいいのよ。


「それいいかも。私は賛成よ」

「今はそれに賭けるしかないか?」

「おいおい、待て待て。エリザベス軍大将はこの私だ。勝手なことは許さん」


 レイモンド様が水を差すような口ぶりで言った。


 シモナもハンナも賛成してくれているが、最終決定権が大将にあるのが軍の難点ね。


「だったらアリスより優れた作戦を言ってみなさいよ」

「公爵、空軍を封じられている以上、まずは出入り口にいる奴らをどうにかするしかない」

「対空設備は全て屋上にある。陸上部隊を二手に分け、片方の出口に気を取られている隙にもう片方から城への侵入を試みる。それしか方法はないと思うが」

「あーあ、せめてもっと体が大きかったら、あんな対空設備なんかぶっ壊せるんだけどな」


 私の頭上でパンチやキックの練習をしているラットが言った。


 ――体が大きかったら? そうよ、大きくなれば。


「その手があったわ!」

「うわっ!」


 私はいい作戦を思いつくと共に勢いよく立ち上がったため、ラットが上空に飛ばされてしまった。


 両手の手の平に背中から落ちると、ラットがびっくりした顔のままこっちを向いた。


「ったくどうしたんだよ?」

「ラット、大きくなって暴れるの、夢だったでしょ?」

「あ、ああ、それはそうだけど――って、まさか」

「ええ、そのまさかよ」


 私は青袋から1切れのヘレントルテを取り出した。


 ラットの前にそれを差し出すと、彼はその匂いにつられ、勢いよくムシャムシャと食べ始めた。


 すると、ラットの体が私たちより少し大きいくらいの大きさとなり、あまりの嬉しさにはしゃぎながらダンスを始めてしまった。


「うおおおっ! 俺めっちゃでけえ! ていうかアリスってこんなにちっちゃかったんだな」

「小さくて悪かったわね。ラット、あなたにやってもらいたいことがあるの」

「?」


 エドたちに再び作戦を伝え、特に優良な案を思いつかなかったレイモンド様から今度は許可を貰った。ちょっと強引な作戦ではあるけど、うまくいけば空軍を使えるようになるわ。


 この戦いの勝敗はラットにかかってる。頼んだわよ、ラット。


 動物さんやモンスターを切り札にしているのは、こっちも同じなんだから。

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