表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

81/100

chapter 7-9「記憶なき家族」

 数日後、ロリーナの歓迎パーティがバーで行われた。


 まだ確証もない中、彼女が私の姉であるという認識がいつの間にか自然な形でピクトアルバの住民たちに刷り込まれていった。


 私、エミ、エレナがロリーナを見守る格好となっており、彼女が最も目立っている様子だ。人の懐に入っていくのが本当にうまい。


 シモナ、ハンナ、ニコラは少し離れたテーブル席に座り、3人で仲良く談笑している。


 あれだけ仲悪かったのに、ここには人を惹きつける何かがあるのだろうか。


「アリスのお姉ちゃん、すっごく美人だね」

「だから疑わしいのよ。私と全然違うから」

「家族っていうのは、最も距離の近い他人なの。だから違っていても全然不思議じゃないよ」


 エレナが優しく丁寧な口調で言った。ロリーナが姉であるという確信さえ持っている。


 私には家族がいた頃の記憶はない。最初の記憶が1人でブリストル孤児院にいた時だったし、未だに家族という感覚はない。


 家族ってどういうものなんだろう。


「はぁ~、疲れたぁ~」


 私の隣ではひと仕事終えたエミがカウンター席の机に突っ伏している。街が大きくなるにつれて建築の仕事が増え、オーバーワークで疲れ果ててしまうことも珍しくないんだとか。


 需要が増えるのは嬉しいけど、忙しくなりすぎるのが欠点ね。


「エミ、疲れた時は休んだ方がいいよ」

「そうしたいところだけど、湖の近くにホテルを建てる作業が思ったより手間取っちゃってね」

「それ、多分私のせいだと思う」

「アリスは悪くないよ。バートがホテルなんか建てるって言うからあんなことになっちゃったわけだし、あのワンダーツリーの方がずっと見栄えも良いんだから、あれでよかったと思う」

「そう言ってくれるだけ助かるわ」

「まさか君に姉がいるとは思わなかった」


 エドが話しかけてくると同時に私の隣に座った。


 どうやら私が頼んだ仕事はきっちりこなしてくれたみたいね。


「じゃあ、本当にお姉ちゃんなの?」

「ああ、間違いない。彼女は君の姉だ。僕の【分析(アナリシス)】が間違うことはない。彼女の証言にも矛盾はなかったし、10年前の事実にも説明がつく」

「10年前の事実って?」

「僕とエミを助けてくれたのはロリーナだ」

「「ロリーナがっ!?」」


 私もエミも思わず叫んでしまった。


 一瞬視線が集中するが、すぐにいつもの光景へと戻った。


 全員の視線が元に戻ってもなお私たちの呆気にとられた顔は戻らない。思わぬところで私とエドの間にロリーナという接点があることを知ったからだ。


「えへへ、まさかあの時の少年がまだ生きてたなんてね」

「あの時は本当に助かったよ。おかげで僕もエミも強くなれた。君なら大歓迎だ。できればずっとピクトアルバに住んでいてほしいものだ」

「それはアリス次第かなぁ~」


 ロリーナがそう言いながらこっちをチラッと見る。


「ジャバウォックの情報が分かったら考えてもいいかな」


 今1番欲しいものを言ってみせた。さすがに持ってはいないと思ったけど。


「ジャバウォックの情報なら北海の本屋にあるはずだ」

「まっ、やっぱり知らないわよね――北海?」

「そうだ。ここから北に変わった本屋がある」

「お兄ちゃんが変わったって言っちゃ駄目でしょ」

「おかしい奴がおかしい奴を咎める。それが人間だ」

「自分がおかしいことは認めるのね」

「ふふっ、なんかコントみたい」


 ロリーナが笑った。ここには自由すぎる人たちがたくさんいる。それが彼女には新鮮かつ面白おかしく見えるのだ。


 多分私もこの中の1人なのね。まるでここに来るべくして来たって感じ。


 エドが言うには、北海のそばにポツンと一軒家が立っており、ただ1人暮らしている女性がいる。エドの紹介だと言えば、簡単に通してくれるはずだ。


「で? 何でロリーナまでついてくるわけ?」


 箒の上には私とロリーナが乗っている。


 私の頭上にはラット、ロリーナの頭上にはシャインがブーケのように巻きついている。歓迎会が終わってからすぐに北海を目指して移動中だけど、段々と寒くなってくるこの気候の変化に対応できるのか、今さらだけど心配になってきたわ。


 だがシャインは一向に寒がる様子はない。寒冷耐性の肥料が効いているのね。


 ラットは寒さのあまりぶるぶると体を震わせ始めた。


「だって妹が1人でどっか行くなんて知ったら、お姉ちゃんとしては心配だもの」

「だからってラットにシャインまで連れてこなくてもいいと思うけど」

「ぎゅーい、ぎゅーい」

「アリスと一緒に飛びたいだってさ」

「ふふっ、しょうがないわね」

「動物さんには甘いのね」

「人間よりずっと可愛げがあるもの。どっちかっていうと、動物さんの相手をしてる方がずっと楽だし、人と話してる時みたいに気を使わなくていいし」

「アリスは人との間に壁を作りすぎ。もっと踏み込んでも大丈夫よ。少なくとも、ピクトアルバの人たちはすっかりアリスに気を許しちゃってるみたいだし、血が繋がってなくても、家族ってできるんだよ」

「!」


 姉に勝る妹はなしね。強いて勝てる要素を言えば可愛さくらいかしら。あぁ……ホント駄目ね。こんなことを考えてる時点で完全に負けてる気がする。


 ますます本当に姉なのか怪しくなってきたわ。でも彼女の言うことも分かる気がする。


 しばらくすると海が見えてくる。きっとあれが北海ね。海という割に表面がカチコチに凍ってるし、その上を歩けそうな気さえするわ。


 緑が段々と少なくなり、氷に覆われた水面を目の当たりにした。

気に入っていただければ下から評価ボタンを押していただけると嬉しいです。

読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ