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chapter 7-8「無償の愛」

 私が記憶を失った理由はロリーナも知らない。


 1つ確かなのは、当時の私がジャバウォックを倒そうと出かけてから発見されるまでの間に記憶を失ったということ。


 ジャバウォックに相手の記憶を消す能力を持っていたか、戦いの最中に何かが起こって私の記憶が失われたかのどちらかであると推測できる。


 ピクトアルバへと戻った私はジャバウォックについて調べ始めた。


 ロリーナはスーザンたちと仲良しそうに話しながら自己紹介をしている。


 ラットともシャインともすぐ仲良しになっているし、私とは対照的ね。どうやったらそんなに友達を作ったりできるのかしら?


「じゃあ、ロリーナってアリスのお姉ちゃんなの?」

「記憶が戻るまで確証はできないけど、とても嘘を吐いているとは思えないのよねー」

「でも彼女、もう帰る家がないって言ってたよ。しばらく泊めてあげたら?」


 すっかりロリーナを気に入ったスーザンが提案する。


「まあ、私について知っていることを全部話したらしばらく泊めるって約束だから、それは別にいいんだけど、いまいち腑に落ちないところがあるの」

「腑に落ちないところ?」

「スーザンはいきなり見知らぬ人から姉ですって言われたらどう思う?」

「ちょっと怖いかも」

「私はまさにその気分なの。でも辻褄は合ってるから、事の真相を突き止めるまでは泊めるつもり。だからしばらくはロリーナから目を離さないでほしいの」

「分かった。アリスがそう言うなら、引き受けるわ」


 しばらくは監視下に置いた方がよさそうね。


 それに変装が得意というなら、今のロリーナの姿も変装かもしれないし、はいそうですかとすぐに信じる勇気はなかった。でもうちの仕事を手伝ってくれるのであれば泊めるくらいどうってことない。


 その日の夜、私は監視も兼ねてロリーナと一緒に寝ることに。


 彼女と共に夜空の星々を見ながら床に就いた。


「アリスと一緒に寝るの、何年ぶりかな」


 ロリーナが過去を思い出しながら言った。


 私はその時に何をしていたのかが真っ先に気になった。自分の過去なんて思い出すのも嫌だけど、それを知的好奇心が勝ってしまうのが私の悪いところね。


「ロリーナ、昔の私はどんな子だったの?」

「今のアリスとほとんど変わらないよ。曲がったことが嫌いで、何か問題が起こればそれを解決せずにはいられないお節介焼き。だから結構嫌われてたけど、その一方でアリスを慕う子供もいたし、両親は恨み言の1つも言わずに私たちを育ててくれたの」

「とてもいい両親だったのね。私はいつから錬金魔法を使ってたの?」

「アリスが錬金魔法を使うようになったのは王位継承戦争の後よ。どんな汚れでも浄化できる掃除道具たちを次々と生み出して周囲を驚かせたの。でも錬金魔法は危険だと教わっていた周囲は私たちを避けるようになった。両親から引き継いだ魔法アイテムショップにも人が立ち寄らなくなって生活が困窮したの」

「どう考えても私のせいね」

「――そんなことないわ」


 私が5歳の頃、王位継承戦争が勃発し、両親がジャバウォックに殺された。


 当時の私は両親の墓まで行くため、いつも掃除に使っていた箒に飛ぶかもしれないと思い魔力を込めた結果、今の箒が生まれた。


 初めての錬金魔法にロリーナは驚いたという。彼女は慌てて隠そうとしたが、私はそれを近所にもひけらかしてしまった。それが事の発端だった。


 そして私が8歳の頃、ジャバウォックに対して復讐心を抱えていた私はジャバウォックのいる場所を突き止めた。そこから先は記憶をなくす前までの私のみぞ知る。


 ジャバウォックが私の記憶を奪ったと思ったロリーナは、戦争が終わって落ち着いた様子のメアリー女王の戴冠式に忍び込み、見事ジャバウォックを倒したという。


「変装していたとはいえ、私はとても王都にはいられなくなった。もし変装を見破られたらただでは済まないし、アリスの身にも危険が及ぶと思ったの。そこで私は記憶を失っていたアリスをブリストル孤児院に預けて事情を説明して、私はメルへニカ各地を逃げ回っていたの」

「でも最終的に王都に戻ってきたよね。どうして?」

「アリスが心配になったから。それに私、ある人に雇われてメアリー女王のスパイ活動に参加することになったの。メイドたちに紛れていれば気づかれない。でも女王陛下がお戻りになられるまでは段々と当初の目的を忘れつつあった。アリスが言っていた忘却の実の影響でね」

「思い出した後は活動を再開して、王都の情報をここに持ち帰ったわけね」

「ええ、そうよ」


 ロリーナが微笑みながらそう言うと、抱き枕のように私の体に抱きついてくる。


 暑苦しくはない。むしろあったかいくらいで嫌という感じはしない。


 たとえ騙されていたとしても、私はロリーナを信じたくなってしまった。一応仮定の話として頭の片隅に置いておくけど、いつかこの人を家族のように思える日がくるのだという想いが頭の中をよぎった。


 近い内にこの人の歓迎会をしないとね。


「ロリーナ」

「どうしたのアリス?」

「騙されたと分かるまでは信じることにするわ」

「ふふっ、本当のことなのに信じるも信じないもないでしょ。何が起ころうと、貴方が私の可愛い妹であることに変わりはないんだから」


 ロリーナは終始私の姉という立ち位置を崩さなかった。


 下手をすれば正体を見抜かれ、命の危険まであるにもかかわらず私を見守ってくれていたのが事実だとしたら、それは無償の愛以外の何物でもない。


 記憶を失う前の私にとって、ロリーナが母親代わりであったことはよく分かった。


 同時に新しい目的を持った。


 それは完全に記憶を取り戻すこと。それだけが今の私の壮大な目的となった。どうすれば記憶を取り戻せるのかを辿る必要があるわね。


 ジャバウォックを調べればどうにかなるかもしれないけど、未だにその方法は分からない。一度エドに聞いてみるのがいいかもしれないわ。


 もっと仲間を頼るべき。このロリーナの忠告を私は素直に受け入れた。

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読んでいただきありがとうございます。

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