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chapter 7-6「見知らぬ過去の生き証人」

 ロリーナと女王陛下の面談は続いた。


 披露宴会場にいない時間が長引き、女王陛下と話したがっている者が後を絶たないと親衛隊の者から通達され、早々に切り上げることに。


 聞いてほしいことはなくなっていた。


 女王陛下からの返答はなく、一触即発の事態にまだ動こうとしない心優しき君主を前にこれ以上は何も言えなかった。


 手紙を書いたのが女王陛下でないことは分かった。あのお方が私を招待しなかったのは、恐らく政変に巻き込むことを防ぐため。そこまで考えられるお方なのに、私は女王陛下を疑った。


 ラバンディエ城を後にした私たちは、人通りの少ない街角で2人きりに。


「ふぅ、やっと元に戻れた」


 ザッハトルテを食べた私は元の大きさへと戻り、ラットは私の足から頭上まで素早くよじ登った。


「アリス、何か分かったことはある?」


 さっきまでの冷徹な表情とは打って変わって嬉しそうな顔のロリーナがいる。


「ええ、いくつかね。まず、この手紙の差出人は……あなたね?」


 青袋から招待状のない手紙を取り出すと、それをロリーナに突きつけた。


「――何故そう思うの?」

「女王陛下は誰かに対して何かを急かすようなマネはしないお方だわ。もし女王陛下であれば招待状を送付しているはずよ。私を知っている人で、私がここへ来ることが分かっていた人物は……あなただけよ、ロリーナ。もう白状したら?」


 外れているならそれでもいい。答え合わせをして正しい認識をすればいいのよ。


 さっきからずっと不可解だった謎が解けた。彼女は私に会いたがっていた。私の姉を名乗る不届きなところが引っかかるけど、私にだけは凄く優しい。


 誰かの家族になったことがある人にしか分からない。


 とても信じられないけど。


「……さすがね。あなたは記憶を失っても、その本質はずっと変わらぬまま。人の言ったことを真に受けながらも、心の中では常に人を疑い真相を探ろうとする。ずっと考えてたんでしょ。女王陛下や私がどんな人間なのかを」

「ロリーナ、何故私を知っているの?」

「さっきから言ってるじゃない。昔のアリスはお姉ちゃんって言いながらもっと甘えてきたのに、まあいいわ。一度あなたの家に戻りましょ」

「私はここに茶葉を買いに来たの。掃除屋の仕事をしながら喫茶店を営むつもりだから」

「どうして?」

「そうしないとみんなを養っていけないの」

「ふふっ、疑いながらも誰かのために尽くすところ、私は好きよ。でもね、アリス、あなたはもっと人を頼るべきよ。全部1人で背負いこまないで」


 ロリーナがそう言いながら私を優しく正面から抱いた。


 この人――本気で私を妹だと思ってる。馬鹿馬鹿しいとは思うけれど、嘘を吐いているようにも思えないこの感覚は何?


「本気でそう思ってるなら教えて。私は何者なの?」

「……分かったわ。帰りに教えてあげる。行きましょ」


 ロリーナと共にラバンディエの街並みを歩きながら話した。その道中で茶葉を買い、ピクトアルバで留守を預かるみんなのためにお土産も買った。


 このリボンの形をしたアクセサリーも素敵ね。スーザンたちだったら喜んでくれるかしら?


「アリスって買い物好きなんだ」

「私が買い物好きだったら悪い?」

「ぜーんぜん。可愛いと思うよ」

「私、王宮のメイドだったの」

「知ってる。メイベル院長から聞いた。アリスは真っ直ぐで世渡り下手。だからあの陰謀渦巻く王宮の中でやっていけるとは思わなかった。案の定、あなたは追い出された」

「どうしてそこまで知ってるの?」

「ずっと見てたから」


 背後からのねっとりした声が聞こえると、背中に風が通ったような寒気を感じた。


 怖っ! やっぱりこの人怖っ! まるでストーカーみたい。


 ――でも私が今まで味わってきたことの全貌を知っている。過去の私を知る唯一の生き証人であることは確か。もう少し話を聞いていたいのも私の素直な気持ちよ。


「あなたもメイドだったの?」

「いいえ、私の固有魔法【変装(ディスガイズ)】でメイドに変装してあなたを見ていたの。でもいつの頃からか、しばらくは目的を見失っていたわ。でもある日突然、女王陛下の記憶が戻った。そして当初の目的を思い出したけど、あなたはその時王宮にいなかった」

「女王陛下が歴史上から抹消されかけた時ね」

「私はメイドに変装してバーバラから全てを聞き出した。そしたらあいつ、あっさりアリスのことを全部話してくれたわ。あなたを追い出して清々したと話していたわ。まるで武勇伝のように。私がアリスの姉であることも知らずにね」


 ロリーナが両腕を強く握りながら目くじらを立てた。


 私にはただの熱狂的なファンにしか見えないけど、あくまでロリーナにとっての私は妹という位置づけなのね。その設定さえなければまだマシなんだけど。


「でも清々したのは嘘、目の奥に曇りがあった。だって明らかにあなたの抜けた穴が大きいもの。多くのメイドを遊ばせておいたツケが回ってきたのよ。ざまあみろよ」

「バーバラはメイドを通して私に戻ってきてほしいと言ってきた。でも断ったわ。だって私、王宮メイドよりずっといい生活を手に入れたもの」

「じゃあ、その王宮であなたにつきまとっていた貴族が処刑されたのは知ってる?」

「ポールが!? どうして!? 何があったのか教えて?」

「じゃあ……しばらく私をアリスの家に泊めてくれない?」


 怪しげでニタニタ顔でロリーナが言った。


 断れないって分かってるくせに。本当に趣味の悪い人ね。


「あなたが知っていることを全部教えてくれたら泊めてあげる」

「ふーん、じゃあいいわ。私ここで泊まるから」

「そう、じゃあその気になったら私に会いに来て。基本的にいつもピクトアルバにいるから」

「自分の過去が気にならないの?」

「気にならないと言えば嘘になるけど、あなたが話したくないなら無理強いはしない。あなたに辛い思いまでさせて聞き出す気はないから安心して」


 私がそう言って箒を召喚して立ち去ろうとした時だった。


 必要な物は全て買った。後は帰るだけね。


 箒にまたがり空を飛ぼうとした時、何かが箒の動きを阻止した。何かと思い後ろを振り返ると、そこには箒を掴んだまま涙を浮かべたロリーナの姿がいる。


 ロリーナ……どうして泣いているの?

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