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chapter 7-3「帰還を祝って」

 ラバンディエに居住する女王陛下から一通の手紙が届いた。


 買い物の帰りにポストに伝書鳩が飛んできたので、私は伝書鳩から手紙を受け取った。


 高級そうな紙と封筒を見て高貴なお方からのものであるとすぐに分かった。紙の色は白だったから緊急案件ではなさそうね。


 紅茶喫茶を開くことになったのはいいけど、問題は茶葉の採取ね。でもこの近くには全然ないし、茶葉を買うにしてもラバンディエまで買いに行く必要があるわ。


「アリス、女王陛下は何て言ってるの?」

「ちょっと待って。えっと――アリス、そなたは息災であるか。妾は今、ラバンディエでメルへニカの立て直しを図っているところである。ついては今すぐラバンディエまで来てほしいのだ。そなたに渡したいものがある。エリザベスより」

「要するに、ラバンディエまで来いってことね」

「渡したいものって何かな?」

「行ってみれば分かるわ。ちょうど茶葉が欲しかったところだし、しばらくラバンディエまで行ってくるわ。ミシェル、私がいない時はあなたがここのリーダーよ。いいわね?」

「了解っす」


 ミシェルがそう言いながらビシッと敬礼を決めた。


 この子にはメイド部隊の隊長としての経験がある。それに1番料理に向いてないから料理係から外すという意味もある。


 彼女の固有魔法【浮遊(フローテーション)】により、人や物を浮遊させることができ、自身も浮遊できるため事実上の飛行が可能。これならワンダーツリーの採取も任せられる。よって採取にはミシェルとリゼット、買い出しにはスーザンとセシリア、メロディはお留守番ね。


 エドから買った白くつばが長くふんわりした丸い帽子を頭にかぶり、召喚した箒に乗るとピクトアルバから飛び立っていった。みんなで一緒に移動する時は手加減してたが、実はこの【女神の箒(ゴッデスイーパー)】は加速するできる。


「【暴風掃除(サイクロンスイープ)】」


 穂先を後ろにした状態にし、穂先から発生する暴風ジェット噴射により、とんでもないほどの猛スピードで飛ぶことができる。


「うわあああああっ!」


 頭上の帽子の中から聞き覚えのある声が聞こえた。


 スピードをいつもの状態に戻し、まさかと思いながら帽子の中を確認する。帽子の中には怯えながら縮こまっているラットの姿がある。


「――ラット、何故あなたがここにいるの?」

「いやー、この帽子の中が落ち着くからさー、そしたらいつの間にかここにいたんだよ」

「ラット、私はこれから女王陛下と会うの。だから大人しくしててよ」

「分かってるって。でもロバアの仕事が決まってよかったな」

「そうね。あの気まぐれロバアでも、女王陛下と妙に波長が合ってたからきっと大丈夫よ」

「おっ、ラバンディエじゃん。相変わらず賑やかだなー」


 目の前には北の大都市、ラバンディエが人々の交流によって栄えていた。


 古風な建物が建ち並ぶ中、ビーネットの襲撃があったにもかかわらず、何事もなかったかのように市場では商品の売買が行われ、まるでお祭り騒ぎのように常時ざわめいていた。


 女王陛下の居住区は山の上にそびえ立つラバンディエ城と聞いている。


 あの古城……女王陛下の夢の中に出てきたお城によく似ているわ。


 市場からも街を見下ろすように黒い城壁がその迫力を醸し出している。そんなラバンディエ城では女王陛下の久々の帰還を祝うべく、レイモンド公爵が直々に連日祝いをしているところだった。


「そんなっ! 入れないってどういうこと!?」


 私が通ろうとしたところ、いきなり白い軍用服を着たガラの悪い門番に槍で道を塞がれた。


「ここは女王陛下のお住まいだぞ。仮にも平民がここを通るというなら招待状を見せろ」


 嘘……冗談でしょ。招待状がないと入れないなんて。手紙にもなかった。


 もしかして私、弄ばれてる? でも女王陛下に限ってそんなことはしないはず。きっと何かの手違いに決まってるわ。


「……持ってないわ」

「ならとっとと帰れ! そこにいると邪魔だ」

「きゃっ!」


 門番が私の肩を突き飛ばし、黒く濁った石煉瓦が敷き詰められている地面に叩きつけられた。


「おいっ! レディに対してその扱いはねえだろ! 男の風上にも置けねえ奴だな」

「何だぁお前は? チビネズミは引っ込んでろ」

「あぁ!? 今なんつったこらぁ!?」

「ラット、私は大丈夫よ。行きましょ」


 呆れながらも一旦はお城を後にする。


 門番の言うことは正論ではあるけど、こんな理不尽なことってないわ。


 せめて本当に女王陛下が私をお呼びになったのか、それだけでも確かめたい。でもどうやったらお城に侵入できるのかしら?


 ふと、城壁を見てみると、そこには1匹の鳩が停まっており、私たちに気づくとビックリして城内へと飛んで行ってしまった。その様子には周囲の人も全く気づいていない。たった1匹で小さいのだから気づかないのも無理ないわね。


 ――ん? 小さい? ――そうよ、小さくなればいいんだわ。


 ちょうどラットもいるし、小さければ門番に気づかれずに城内に侵入できるはずよ。


 ラバンディエ城の近くにある城壁の死角に隠れると、私は青袋から取り出した1切れのキルシュトルテを食べた。


 すると、段々と私の体が小さくなり、ラットが余裕をもって背中に乗せて運べるくらいの大きさとなった。服も一緒に縮んでる。実験成功ね。1切れ分でこの大きさなら上出来だわ。でもここは人通りが多いかし、踏み潰されないように気をつけないと。


「ラット、お願い、私を女王陛下に会わせて」

「おう、そうこなくっちゃな。それでこそアリスだ」


 意気揚々とラットがしゃがみ込むと、私は毛布のような背中の上にまたがった。


 しっかりとラットの両耳をハンドルのように両手で掴むと、ラットは城壁によじ登り、壁の上に立っている。こんなに高い場所から落ちたら、間違いなく死ぬわね。


 城壁の上からは場内で帰還記念パーティが行われ、紳士服姿の男性にドレス姿の女性がおり、メイドの他に奴隷のゴブリンやオークなどが見張りを兼ねてドリンクを配る作業に従事している。


 帰還されてから時間が経ってるのに、どうして今の時期にパーティなのかしら?


 私とラットはその謎を探るべく、城内へと侵入していくのだった。

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