chapter 7-2「ケーキ騒動」
エドは王都で暴れているモンスターの1体を分析し、魔法実験によって生み出された王国の生物兵器であることを見抜いた。
しかもそれがメアリー女王が作り出した生物兵器であることも。メアリー女王はエドの固有魔法を知っていたために狙われた。
メアリー女王は王位継承戦争中、魔法実験も兼ねて生物兵器によって殺戮の限りを尽くした。
見た者はエドとエミを除く全員が殺され、王都でそのことを知るのは一部の者だけ。
彼の話をまとめるとこんな感じね。でも生物兵器なんてどうやって作りだしたのかしら?
それにエドが言っていた少女――色々と引っかかるところはあるけど、今はあのケーキの材料を探しに行くとしますか。
その日の夜――。
「なあアリス、何作ってんだ?」
「自分の大きさを変えるケーキよ。何かと便利だと思ったから、いくつか作っておこうと思ったの。勝手に食べちゃ駄目よ」
「へいへい、分かったよ」
みんなには庭と内装の整備を進めさせている。誰かに働いてもらうのは楽だけど、その分生活費がかかるから継続的に稼ぐ必要があるけど、当分はこの前の報酬で生活ができるから問題ない。
湖の汚れ掃除の件、意図せずホテルの建設場所を提供した件、これらを同時に達成したことで、前者では女王陛下から白金貨10枚とワンダーツリーのある土地一帯の所有権をいただき、後者ではバートから湖周辺の掃除代として金5枚を貰い、大々的な宣伝広告を張ってもらった。
お陰様で継続的に仕事が舞い込むようになり、私たちは定期的に掃除番の仕事を承った。
さて、そろそろケーキを作らないとね。
目の前にはケーキの材料が潤沢に用意され、何種類も作れるくらいに豊富だ。あくまでもアイテムだからみんなにご馳走することはできないけど、これだけあれば十分ね。
えっと、食べた者の大きさを変える原料となるのがサイズパウダーで、組み合わせた食材と分量によって効果が変わるとのこと。
キルシュトルテは縮小化、ザッハトルテは正常化、ヘレントルテは巨大化ね。
自分の服や持ち物を巻き込んで大きさを変えるにはマジカルエキスで魔力を調整すればいいのね。子供でも分かるように物凄く丁寧に書かれてあるけど、もしかしてちょっと馬鹿にされてる?
長期保存ができるように魔草をすり潰してできたリーフエキスを投入と。
魔草とは魔力がこもった薬草であり、食べ物や飲み物に薬味を追加する際に使われる食材だ。
もちろん、魔草の種類によってその効果も変わる。今回使っているのはセーブラウンという薬草を東の森で採取したもの。食品の長期保存のために使われる一般的な薬草ね。
後はそれぞれの材料を緑袋に投入して振るだけね。
合計で3種類のケーキがあっという間に完成する。
何時間も焼く作業がこれのおかげですぐに終わるから本当に便利ね。
――あっ、そうだ。確か庭に赤袋を置きっぱなしにしていたのを忘れていたわ。そろそろ取りにいった方がいいわね。
家の庭に出ると、そこに置かれていた赤袋が【自動掃除】によって雑草を次々と穴の中へと放り込まれていく。
赤袋を異空間へとしまい、庭の掃除を終えたスーザン、メロディ、リゼットの3人と共に家の中へと入った。
目の前にはカットされたケーキをつまみ食いしていたセシリアとミシェルがいる。2人は2階で掃除を終えて降りてきていたのだ。
彼女らは慌てて顔を私の方へと向けた。
口周りに白いクリームのついたセシリア、そしてその隣にはチョコレートで口の汚れたミシェルがしまったと言わんばかりの表情で固まっている。
「! 何してるの?」
「えっ、だってこれ、みんなで食べるものじゃないの? ――ええっ! ち、小さくなってる」
「ええっ!? なっ、なんすかこれ!? 体が大きくなってるんすけど。痛っ!」
セシリアは段々と体が縮んでいき、ラットと同じくらいの大きさとなり、対照的にミシェルは天井に頭をぶつけて四つん這いにならないと窮屈なくらいに体が巨大化していく。
幸いにも家は壊れなかったけど、ケーキはしまっておくべきだったわね。
「2人とも大丈夫っ!?」
「だ、大丈夫っすよ。ちょっと狭いっすけど」
「大丈夫じゃないよぉー。アリスぅー、何とかしてよー」
ミシェルは戦闘訓練を受けているだけあって冷静ね。
スーザンはわけも分からず涙目になり、小さい体のまま慌てふためいている。
ラットが私の頭上から飛び降りると、セシリアと背比べをする。
「うわー、お前ちっちゃいな」
「あんたが言うなっ!」
「2人とも、このザッハトルテを食べて。元に戻るから」
私はザッハトルテを2切れ手に取ると、巨大化したミシェルはその1切れを一口で平らげてしまい、セシリアは体と同じくらいのサイズに見える1切れを少しだけ食べた。
すると、2人共元の大きさに戻り、ホッと一息ついた。
私はきょとんとしている2人に黙って近づいた。2人は殺されると言わんばかりに怯えながら両方の肩を持ち、体を震わせながら恐怖を訴えているようだった。
両手で2人の肩の上に手を置いた。
「「ひいっ!」」
そのまま優しく2人を抱きしめると、2人はまたしても顔をきょとんとさせる。
「無事でよかったわ」
「……アリス?」
「怒らないんすか?」
「何で怒らないといけないのよ? 無事に元の大きさに戻ったんだから別にいいじゃない。これに懲りたらもうつまみ食いはやめることね。あなたたちに何かあったら……とても悲しいから」
そっと愛想笑いを浮かべながら言った。
すると、2人は感極まって私に抱きついてきた。
「ごめんなさい……」
「もうしないっす……」
「ふふっ、何で泣くのよ? ちょっと注意喚起したくらいで泣いてるようじゃやっていけないわよ」
「違うの。昔だったら真っ先に怒鳴られてるところなのに、アリスはケーキよりも先に私たちの無事を心配してくれたのが嬉しくて」
「私も……いつも雑に扱われたっすから」
「そんなことしないわ。大事な仲間だもん」
「あーあ、せっかく俺と同じ背丈の仲間ができたと思ったのによ。俺もこれ食ったらみんなみたいに大きくなれるんだろうなー」
「ラット! 話聞いてた!?」
「冗談だよ冗談――うわっ! やめろって!」
「あなたの言葉は冗談に聞こえないのよ」
調子に乗っているラットはやってきたシャインにつたで遊ばれながら慌てふためいている。ふふっ、彼にはいい薬ね。
私はセシリアが残したザッハトルテを食べ、笑い顔のままケーキを青袋にしまうのだった。
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