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chapter x-11「権威と処刑の狭間で」

 ポール様の処刑からしばらくの時が過ぎた。


 女王陛下の権威はますます強くなる一方だ。あまりに恐怖なのか、平民たちは王宮に近寄ろうとすらしないが、それは無理もない話である。


 エクスロイドの存在は公表されなかったが、王宮内であのおぞましい光景を見た一部の人がその情報を外に漏らし、王都では未知なる怪物の脅威にさらされていた。


 私は女王陛下の命により、外部に情報を漏らした者を特定するべく、処刑場に集合していた者たちを1人ずつ確認しているところであった。


 まっ、もし見つからなかった場合はテキトーに誰か1人を生け贄に差し出せばいいわ。


 メイド長室にいられる時間も短くなった。しかもポール様があれこれと口走った影響からか、大臣たちですら私に近づこうとしない。無論、貴族たちからの贈り物もなくなった。今の私にはメイド長という地位しか残っていなかった。


 私がメイド長に就任して以来、女王陛下にいただいたこのマスターキーだけど、もしかして、あの地下にあったメイド訓練所とは名ばかりの兵器製造工場や処刑場にも使えるんじゃないかしら?


 そう思ったのが間違いだった――。


 夜遅くに誰もいない処刑場まで赴き、まるで闘技場のように観客席まで用意された趣味の悪いこの場所の奥にある鉄格子を除き込んだ。


 ――誰もいないみたいね。


 その時だった。急に鉄格子が上に開き、中からエクスロイドが現れた。


「お前、何故ここにいる?」


 エクスロイドが私に尋ねた。叫びたかったけど、そんなことをすれば女王陛下にばれ、もっと身の毛がよだつ処刑方法を選ばれかねない。


「わ、私は女王陛下の命で点検をしに来たの。だから食べないで。私もあなたも女王陛下のしもべ、つまり私たちは仲間よ」

「女王陛下のしもべ、了解した」


 ふぅ、分かってくれて何よりだわ。


「お前、アリス、知ってるか?」

「え、ええ。今はここにいないけど」

「つれていけ」

「えっ、アリスのいる場所に?」

「そうだ」


 こいつ……まさかアリスに興味を示しているっていうの?


 本当にみんなアリスが好きなのね。嫉妬を通り越して呆れすら覚えるわ。


 でもこいつをアリスに押しつければ、こいつを王都から追い出しながらあの暴君を始末できるんじゃないかしら。ならやるしかないわ。


「分かったわ。じゃあまた今度出発しましょ」


 私がそう言いながら後ろを向いて立ち去ろうとしたその時――。


「痛っ!」


 後頭部に鉄の塊のようなものがこつんとぶつかり、私はその場に転がった。


 エクスロイドの防具のように堅い皮膚が私の頭に当たったのだ。こいつはその鋭い牙と餌を見つめるような眼光で至近距離まで顔を近づけてくる。


「なっ、何するの!?」

「アリス、この我が倒す。今すぐ案内しろ」

「ええっ!?」


 い、今すぐって。私にはメイド長としての仕事があるのよ。


 もし仕事をさぼってここを抜け出せば、今の女王陛下ならまず処刑を命じるわ。メイド長は私以外にいくらでもなり手がいる。


 でももし断れば、私はこいつに食い殺される。


「場所を知らないなら、お前、食べる」

「わっ、分かったわ。案内するわ。でも1つ条件があるの。話だけでも聞いて」

「条件だと?」


 エクスロイドがさらに顔を私に近づけた。そんなことを言える立場なのかと言わんばかりだ。


 しかし、エクスロイドをアリスのもとへ案内できるのは私のみ。


 今私を殺せば永久にアリスには辿り着けない。こいつがどうしてもアリスに会いたいなら、ここは私の方が優位のはずよ。


「そうよ。女王陛下はあなたの外出を知った途端、すぐにあなたを処分しようとするはずよ。そうなったらアリスに会うどころじゃないわ。もしアリスに会いたいなら、まずは女王陛下をどうにかする必要がある。主君を裏切るか、自らの役割を全うするか、選びなさい」

「……」


 エクスロイドが押し黙った。知能もあるみたいだけど、所詮はモンスターね。


 大きな翼を折りたたみ、両翼に備えられている2門の大砲が背中の内部へと収納されていく。その姿は首の長いただのドラゴンの姿。


 ――そういえば女王陛下が仰っていたわ。人間への従順さを備えたドラゴンの亜種として作り上げた試作品だが、あの大砲はいつから備わっていたのかと。ジェームズ様は顔をしかめながら存じませんと答えるしかなかった。


 あの大砲は完全に体と一体化していたわ。つまりあれは人工的に取りつけられたものじゃない。こいつ自らが生み出した兵器なんだわ。ポール様が執拗に吹き込んだアリスへの執念、それがいつの間にかこいつにも乗り移っている。


 しかも女王陛下を裏切りかねない懇願を私に対して行った。


 なんてこと――このモンスターは自我と未知なる成長を兼ね備えた、正真正銘の生物兵器だわ。


 だが同時に強さを追い求める純真な心もあるように思えた。


「アリスは我より強いか?」

「……それは戦ってみれば分かるわ」


 エクスロイドは黙ったまま檻の中へと戻り、その強靭な腕で自ら鉄格子を閉めた。


 女王陛下への従順さを優先したのか、それとも怖気づいたのかは分からない。でもあの目は諦めたようには見えなかった。何故私までアリスとの戦いを煽ったのかは分からない。だがもしアリスよりあなたの方が強いと答えていれば、私は今頃食べられていたでしょうね。


「出発の支度を済ませておけ」


 ! ――こいつ、正気なの?


 後ろから殺気とも受け取れる声が聞こえた。鉄格子の向こう側から私を見つめるエクスロイドはいつでも鉄格子を引っ張り上げ、好きに暴れることができる。


 だがそれをしないのは、アリスに会ってみたいという好奇心が勝ったから。


 エクスロイドがズシンズシンと足音を響かせながら寝床へと戻っていく。


 本当に……私はずっとあの女に振り回されっぱなしだわ。王宮がこれほどやばい状況になっているというのに一向に戻ってこない。元々はポール様の案でアリスを追い出したわけだけど、まさかポール様ご自身がその案で死ぬとは思わなかったでしょうね。


 これではっきりしたわ。アリスはこの王宮になくてはならなかった。


 なんてことをしてしまったの。もし許されるなら、早く連れ戻してあの化け物を倒してもらいたいわ。でなきゃいつか、女王陛下とあいつのどちらかに殺される。


 私は恐怖のあまり手が震え、アリスのいた日々を思い返すのだった――。

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