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chapter 1-7「平原に現れし山賊」

 ピクトアルバにかなり近づいたかと思えば、まだその道のりは遠かった。


 エドが言うには、もう1つ平原を越えないと着かないらしいけど、どんだけ遠いのよ。


 さすがは辺境の地と呼ばれているだけのことはあるわね。


 エドは家業で稼げないからと、ピクトアルバから離れた都市部まで出稼ぎに行った帰りだと言っていたけど、そんなに家業が切羽詰まっていたのかしら。


 ――今頃バーバラたちは腹を抱えて笑っていることでしょうね。


 ずっと王宮の掃除をやっていた私がいなくったってメイドたちは山のようにいるんだし、誰も痛みなんて感じてないわよね。もうあんな王宮のことなんて忘れるに限るわ。


 ピクトアルバの近くにある平原には緑が広がっており、多くの草食モンスターがムシャムシャと雑草を食べ、さっきの深い森よりも安心感があった。


「ここのモンスターは比較的大人しいわね」

「人間の居住地に近いから、でかくて凶暴な奴はあんまりやってこないんだよ」

「でかい奴ならここに来るまでに何体かアリスがやっつけちまったぜ」

「ふふっ、ネズミにしては冗談がうまいな」

「冗談じゃねえぞ。アリスが本気出したらマジでやべえからな」

「はいはい。でもでかくて凶暴なモンスターを見たらすぐに逃げろ。たとえ相手が1匹でも、少女と馬とネズミじゃ勝負にならないからな」

「ああ、確かに勝負になってなかったな」


 まるで会話が成立してないわね。まあいっか。邪魔なモンスターはお掃除すればいいし。


 エドも戦闘はできるみたいだけど、上級モンスターには苦戦するらしい。私にはどれが上級でどれが下級かなんて全然分からないけど。


 家業は【分析(アナリシス)】を活かした鑑定士。でも最近は商売が不調みたいで、どうしても質屋で交換できる物が見つからない時は都市部に出て宝石店へと赴き、【分析(アナリシス)】を活かして高く転売できそうな宝石の原石を買い漁るんだとか。


「いい宝石は見つかった?」

「ああ。加工すれば高く売れそうな原石がいくつか見つかった。これで当分は食い繋げる。きっと妹も喜ぶだろうな」

「妹がいるの?」

「そうだよ。めっちゃ可愛い自慢の妹だ」


 エドがそう言いながらドヤ顔で威張ってみせる。


 偏屈でとっつきにくいけど、案外可愛いとこあるじゃん。


 そんな他愛もない話をしているところだった。いきなり目の前に汚い格好をした10人の山賊たちが現れ、彼らはあっという間に私たちを取り囲んでしまった。


「一体何のマネかな?」


 エドが冷静な顔で言った。怖くないのかしら。


「金目の物を置いていけ。久しぶりの通行人とは――」

「おっ、めっちゃ可愛い女の子いるじゃん!」

「おい待て。あの金髪女は俺の獲物だ。たっぷり味わってから渡してやるよ」


 何こいつら? まるで女を物みたいに扱うなんて、男の風上にも置けないわね。


 彼らはクスクスと笑いながら徐々に迫ってくる。これは口に出すまでもなく襲う気満々ってわけね。


「随分と無礼な人たちね。近づかないでくれる?」


 私は彼らを恐れる事なく荷台から降りて前へ出た。


「そこの少年、金目の物とその生意気な女を差し出せば通ってもいいぜ」

「おいおい、アリスに手を出そうなんて、お前らとんだ命知らずだな」


 私の頭の上に乗ったままのラットが笑い顔で言った。


「何だぁその小さいネズミは?」

「小さいとはなんだこらぁ! アリス、こいつら無視して行こうぜ」

「いいえ、売られた喧嘩は買うものよ」

「はぁ? 俺たちとやり合おうってか? はははははっ! 冗談きついぜ」

「――いいわ、その腐りきった心、お掃除してあげるわ」


 私はそう言いながら両腕を構え目の前に魔法陣を発生させた。


 そこから私の手にフィットするほど細く、私の背丈と変わらないくらい長く、杖のような形をした箒を召喚し、穂先が筆のようにピンと立ったままの箒をその手にしっかり持った。


 この箒こそ、私が王宮のメイドになってから長年お世話になってきた魔箒(まほうき)、【女神の箒(ゴッデスイーパー)】。


「なっ、何だぁ? そのヘンテコな箒は?」

「お掃除の時間よ。【記憶掃除(メモリースイープ)】」


 穂先から風が発生し、私が箒を思いっきり振るうと、風が山賊たちを次々と巻き込んでいく。


「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁ!」」」」」


 山賊たちは風に吹き飛ばされ、全員が地面に叩きつけられた。


 これにはさすがのエドも頭にかぶっている帽子を片手で支えながら呆気にとられている。ラットもロバアも開いた口が塞がらない。


「ふぅ、お掃除完了」

「アリス、今何したんだ?」

「彼らの記憶を奇麗にお掃除したの。その証拠に――ほら」


 私はのっそりと起き上がる彼らを指差した。


 エドは【分析(アナリシス)】を使い、彼らの今の状況を分析した。


「……こいつら……さっきまでの記憶がなくなってるぞ」

「マジかよ?」

「ああ、最低限の生活能力だけを保っている状態だ。しかもさっきまでの悪者オーラが完全に消えてしまっている。全く恐ろしい女だ」


 エドがこの世の終わりが迫ってきたような顔で言った。


 記憶をお掃除してしまえば、さっきまで私たちを襲おうとしていた事も当然忘れてるでしょうね。悪いことしかしないような人は、一度記憶をリセットして人生をやり直せばいいのよ。


 一度バーバラにも試そうと思ったことはあるけど、また仕事を教えるのが大変だし、王都で風なんて起こしたら、反逆罪に問われて間違いなく死刑になってるところね。


「あれっ? 俺何してたんだっけ?」

「あなたたちはさっきまで畑仕事をするとか言いながら、ここを通ろうとしていたのよ」

「えっ、そうだっけ? ていうかあんた誰?」

「名乗るほどの者じゃないわ。分かったらさっさと行きなさい」

「お、おう……」


 10人の山賊たちがとぼとぼ歩きながら私たちの進行方向とは逆の方向へと去っていく。彼らが頭でもぶつけない内にさっさと通過するに限るわ。


 強い衝撃を受けると記憶が元に戻ってしまうのだけど、それは教えない方が良さそうね。


 私たちの一行はそのまま平原を越え、ピクトアルバへと辿り着くのだった。

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