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chapter 6-8「漆黒の湖」

 私たちはフレス湖へと辿り着いた。


 湖の周囲には森が広がっており、上空から見れば森に囲まれている場所に湖はある。まるで川みたいに細長いけど、定義上は湖と見なされているらしい。


「――なっ……何があったっていうの?」


 おぞましい光景が真下に広がっているのを目の当たりにした。湖の水質は肉眼で確認できるほど穢れ、水中の生物たちが全く見えないほどに酷く黒ずんでいる。この汚れ方は明らかに常軌を逸している。しかもドロドロしてて気持ち悪い。


 ここを縄張りにしているモンスターでさえ近寄り難く臭いもする。


 すぐに地上へと降り立ち、エドが【分析(アナリシス)】で湖全体を覆っているドロドロとした黒い泥のような物体を調べた。


 以前見た時は水の表面は底が透けて見えそうなくらいに水が澄んでいた。


 黒く濁った井戸水と同じ色だし、やはりここだったのね。


「……間違いない。出処は間違いなくここだ。恐らく周囲の街にも被害が出ているはずだ」

「そうね。クリス、周囲の街に原因は湖の異常だって報告してくれない?」

「わたくし、アリスと一緒にいたいのにー」

「そう? じゃあ私と一緒にピクトアルバに戻って報告する?」

「ええ、それならいいわ」

「待て。ここの浄化作業はアリスが適任だ。報告には僕とハンナが行く。シモナはここに置いてクリスの警護を任せた方がいい」

「でもそれじゃ――」

「アリス、クリスに怪我を負わせたくないのは分かるが、彼女は戦闘のプロだ。だから同行することを許可した。彼女は王族である前に信頼すべき仲間だ。そうだろう?」


 エドは私の意図を見透かしているようだった。


 そう、私はクリス様を帰らせることで危険を回避させようとした。人里離れた場所にいればいつモンスターに襲われても不思議ではない。怪我なんてさせようものなら女王陛下の管理責任が問われ、スカンディア王国を敵に回す可能性すらある。


 私の意図を知ったクリス様はこっちを見ながらウルウルと目を震わせたかと思えば、そっぽを向いたまま低い声で口を開いた。


「わたくし、そんなに信用ないの?」

「信用の問題じゃない。あなたの無事を守る。それがクリスを預かった私たちの義務だからよ」

「……嘘。本当は王族であるわたくしに何かあった時、自分の責任を問われるのが嫌なだけでしょ。あなたは責任逃れがしたいだけ。王宮にいた時もそう。みんなそう言ってわたくしを一歩も外に出そうとはしなかった。あなたたちにとってわたくしは人形? 宝石? ……ふざけないで! わたくしは生きた人間なのよ! そんな扱いを受けるのはもうたくさんよ! わたくしがここに来たのは、他国の文化を勉強して、知見を広めるためでもあるのよ」


 クリス様が今まで抱え込んでいた想いを一気に放出するように言った。


 その迫力の前に思わず息を飲み、誰1人としてロクに言い返せない。この前の騒動でも大いに活躍したことからもなおさらだ。


「クリス……」


 私は彼女の名前を力なく口にすることしかできなかった。


 ――今までそんなことを思っていたのね。


 他国の王族故、まるで貴重品のように過保護にされ、彼女はそれを自らが生きた人間であることに対する否定と捉えていた。


 言われてみればそうね。信頼すべき仲間というより、背中に抱えた重りのようだった。彼女はあくまで1人の人間として共に戦い、ともに喜びや悲しみを分かち合える仲間でいたかった。エドはそれを分かった上で彼女を信頼し、ここまで連れてきたのね。


 私がクリスに一言謝ろうとした時だった――。


「何だありゃ?」


 ラットがいち早く湖の様子に気づいた。


 湖の中央にある水面からボコボコと泡の音が鳴り、その場所からもじゃもじゃで丸い印象の全身を持つヘドロの塊のようなモンスターが現れた。


 しかも複数のドロドロとした黒い触手が丸い体からボコボコと出現する。


「みんな気をつけて!」


 警戒しながら箒を召喚し、エドたちもそれぞれの武器を構えた。


 その中でも特に印象的なのがクリスだった。彼女が戦うところを見るのは初めてだ。この前も活躍したって話は聞いたけど、エドが太鼓判を押すなら問題ないわ。


「こいつはスラッジャー、海底から現れては水質を汚染するモンスターだ。水辺に現れては無数の触手から猛毒の弾を撃ち出すから気をつけろ」

「分かったわ」


 すると、いきなりスラッジャーの手にヘドロの塊が現れ、それを私たちに向かって投げつけてきた。私は箒で空を飛びながらかわし、エドたちも攻撃を避けたつもりだったが、飛び散ったヘドロがエドたち全員の脚にくっつき、その場から動けなくなってしまった。


 ねばねばとしたヘドロがなかなか離れず、地面と一体化したままだ。


 まずい、早くクリス様を助けないと。


「くうっ、わたくしから離れなさいっ!」


 そう言いながらクリス様は作り出した剣でヘドロを華麗に真っ二つに切った。


 身動きが取れるようになったクリス様はスラッジャーに飛びつき、その触手を次々と切り裂いていく。だがスラッジャーも黙ってはいない。クリス様を触手で捕まえようと一気に触手を1ヵ所に集め、1つの大きな触手となりクリス様に襲いかかる。


 それをクリス様が切り裂こうと切りかかった。


 しかし、触手は簡単に切れなかった。そればかりか触手が剣を取り込んでしまい、クリス様は剣を離してしまった。


「しまった!」


 クリス様が丸腰となり、そこに巨大な触手が襲いかかった。


「きゃあああああっ!」


 そこに一発の銃弾が炸裂して爆発を起こした。


「どう? 私のグレネードの味は?」

「シモナ! ナイスフォローよ!」

「喜んでる場合じゃないでしょ。早くクリス様を保護するのよ」

「あっ、そうだった」


 私はスラッジャーが怯んでいる内にクリス様を保護してから箒の後ろに乗せるが、そこにスラッジャーが猛攻を仕掛けてくる。


「お掃除の時間よ。【爆破掃除(バーストスイープ)】」


 魔力の塊が前を向いている穂先から勢いよく発射されると、それがスラッジャーの頭に命中し大爆発を起こした。力尽きたスラッジャーが頭から湖に沈んでいく。


「倒したの?」


 私の後ろにまたがっているクリス様がボソッと呟いた。

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