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chapter 6-7「井戸水の異変」

 数日後――。


 私は女王陛下を通じてどうにかバートを説得し、ホテルを建てるに相応しい場所を見つけるか、白金貨10枚を支払うかすれば許すという比較的寛大な処分となった。


 白金貨は1枚集めるだけでも大変なのに、ましてや10枚なんて冗談じゃないわ。


 家を売らずには住んだけど、この問題をお金で解決するのは私の中にある道理が許さない。


 せめてワンダーツリーを植えた場所よりもずっといい場所を見つけることこそ、勝手なことをした分の償いであるべきだと思う。


「アリスがそう言うなら、私たちも喜んでつき合うわよ。ねっ?」


 メロディが片目を閉じたまま言った。協力の意を示してくれるだけでも嬉しい。


 他のみんなも同様に頷いてくれた。私らしさなるものを知っていたのか驚きもしない。


 仕事ができずにバーバラに怒られてばかりの5人だったけど、飲み込み自体はかなり早い方だし、丁寧に教えればすぐに習得できるのだから、あれは完全に教える側の問題ね。


 そんなことを考えていた時だった――。


「アリスっ! 大変なのっ! ちょっと来てっ!」


 誰かが無断で扉を勢いよく開いたかと思えば、声の正体はシモナだった。


「どうしたの?」

「いいから早くっ!」


 シモナは私の手を引っ張り、外へ連れ出したかと思えば、街の中央にある井戸へと連れて行かれた。


 いつもであればこの時間になる頃に長蛇の列ができ、ロープに吊るされたバケツを下へと垂らしていき、くみ上げた水を1人ずつ持ち帰るのだけど、今日は周辺に近所の人々が興味本位で集まってきただけで、井戸の水を利用しようとする者は誰もいない。


 いつも水質確認をする人が朝1番に水の状態を確認し、万が一異常があれば井戸を封鎖した上でエドに報告するのが決まりになっている。


 目の前でエドと話しているのはレベッカ・ストック。


 黒髪のロングヘアーを後ろにまとめているこの街の水質管理人である。


 水資源に乏しいピクトアルバでは真水が何より貴重であるため、かなり重要な仕事を任されていることが分かる。彼女が井戸を封鎖するということは、井戸水に異常があったということだ。


 エドの【分析(アナリシス)】によれば、井戸水にヘドロのような猛毒が入り黒く濁っているとのことだが、このままではピクトアルバの住民全員が深刻な水不足に陥ってしまい、緊急時に備えてある貯水タンクの水がなくなってしまうのだという。


「アリス、君が持つ浄化掃除(クリーニングスイープ)でこの井戸水を浄化してくれないか?」

「それは別に構わないけど、いくら浄化したところで、ここに流れてくる地下水が猛毒に侵されている原因を突き止めないと、根本的な解決にはならないわ」

「そうねぇ。誰がこんなことをしたのかは知らないけど、許せないわ」

「この猛毒は人為的なものではない。少なくとも人の魔法で作れる毒ではないからだ」

「レベッカ、ここの地下水はどこからきているの?」

「ここの水は全部西にあるフレス湖から地下を通ってきているの。もしかして、そこに何か原因があるっていうの?」


 レベッカが憶測を言い当てるように言った。


 フレス湖は私が以前行ったことのある西にある大きな湖で、常に新鮮で清らかな水が大量にあることから、雪原のオアシスとも呼ばれている。


 ピクトアルバを始めとした北方に住む人々の生活を支える水はそこから供給されており、いつもそれを井戸水としてくみ上げていた。


 もし湖に何らかの異常があるなら、他の街にも被害が及んでいるはず。


「その可能性は否定できないな」

「だとすれば、結構まずいわよ。他の街もフレス湖の水を利用しているのよ」

「エド、私はフレス湖を調べるわ」

「駄目よ。フレス湖には凶悪なモンスターがいるのよ」

「アリスに限って言えば心配ねえよ」


 いきなり頭上から笑いながら話す声が聞こえた。


「ラット、あなたいつの間にいたの?」

「さっきからずっといたんだけどな」

「まあいいわ。レベッカ、他の街にも被害が出てないか、女王陛下に調査するよう依頼して。エドとシモナは私についてきて」

「分かったわ。行ってくる」

「アリス、手伝うのはいいけど、確信はあるのか?」

「人の手で作れる毒じゃないなら原因はモンスターのはずよ。きっと湖で何かあったんだわ」

「もちろん協力するに決まってるじゃない。みんなの生活が懸かってるんだから」


 俄然やる気を見せるように両腕をぎゅっと握りしめながらシモナ言った。


 何の因果なのか、またしても西へと赴くことになっちゃったけど、何かに呼ばれた気がした。以前西へ行った時も、女王陛下の夢の中で見た湖にも、水面に何か巨大な影が映っていた。


 あの巨大な影がこの問題のカギを握っているとしたら。


「で? 何でハンナとクリスもいるの?」


 箒に乗って湖へと向かう中、私の右隣をハンナが飛行し、左隣では空飛ぶ馬車にエド、シモナ、クリス様が座りながら乗っている。馬車は機械仕掛けでクリス様の意向に従うだけの鉄でできた馬であり、スカンディア王国では当たり前の乗り物なんだとか。


 これほどの魔法技術を誇る国がすぐそばにあることを考えれば、スカンディア王国とは仲良くしておいたほうがよさそうね。女王陛下もこれを知っていたからこそ、クリス様を保護の対象としている。ここは私が何としてでも守ってさしあげないと。


「あー、そうそう。最近お父様から手紙が届いたの。エリザベス女王陛下をメルへニカの正式な女王として認め、わたくしを友好の証として預けるんですって」

「えっ、じゃあスカンディア国王陛下はエリザベス女王陛下に味方したってことなの?」

「ええ、そうよ。メアリー女王はわたくしを無理やり大臣たちとくっつけようとしてたの。王宮の人に乱暴に扱われたからピクトアルバまで脱出したって言ってやったわ。本当はアリスに会いたくて出てきたんだけど、正直あんなギスギスしたところに戻りたくないし、アリスの下で一緒に過ごしたいの」


 それ……結構まずい状況じゃない?


 ここにいてくれるのは嬉しいけど、そのために王都ランダンはスカンディア王国から国交断絶を言い渡されたという。


 スカンディア王国はかなりの影響力を誇る大国、そんな国に見放されれば他の国もメルへニカと一切の貿易を行わなくなる。


 これでランダンが周辺国から貿易停止に追い込まれ、その影響で孤立無援となり資源を失えば――切羽詰まった軍事国家がする行為はただ1つ。


 嫌な予感が的中しないといいけど……。

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