chapter 6-6「ジャムパーティ」
果実はどれも自己主張の激しい色彩を帯びていた。
食べたら間違いなく美味しそう。でも食べるのがもったいない。この果実の群れをオブジェにしたいと心の底で叫んでいる自分がいる。
「「「「「うわぁ~!」」」」」
スーザンたちが目をキラキラと輝かせながら今日の戦利品を見つめている。
「こっ、これ、本当にあの木で採れたの?」
セシリアが目を大きく見開きながら言った。呼吸が乱れるくらいに甘いもの好きな彼女たちをびっくりさせるには十分だった。
「ええ、これをジャムにすればいい朝食になると思うの」
「ジャムもいいけど、やっぱタルトでしょ」
「何言ってんの。タルトにしたらすぐ食べないといけないでしょー」
「あぁ~、そっか。じゃあジャムにしよ」
「でもどうやって作るの?」
「まあ見てて」
私は手の平に納まりきらないくらいの大きなイチゴをその手に掴み、キッチンにあったナイフで細かく刻み、砂糖と蜂蜜と一緒に瓶に詰めてから緑袋の中へと放り込み、口を閉めてから何度も上下に振った。
「そろそろいいかな」
緑袋のチャックを開けると、そこには鮮やかな赤色の粒々が特徴のストロベリージャムがドロドロとした外見を見せている。
あまりに突然の出来事に周囲は目が点になっている様子。
「これで当分は腐らないわね。じゃあ次の果実を――あれっ、みんなどうしたの?」
「アリスって……本当に凄いのね」
「これ、ひょっとして錬金魔法じゃない?」
「ええ、以前これを知ったハンナから、くれぐれも使い方には気をつけるように忠告されちゃったことがあるけど、とっても便利な魔法よ」
「どうりでアリスが料理番の時は食事がすぐにできあがったわけだー」
「全部錬金魔法だったのね」
スーザンたちの関心をよそに、私は様々な果実を次々とジャムへと変えていった。
ようやく作業が終了すると、早速みんなでジャムパーティを始めることに。
いくつものパンをスーザンとセシリアと一緒に焼き上げていく。この2人はキッチンメイドとして働く機会も多かったから料理ができる。メイド部隊出身の3人にも丁寧に料理を教えた。この3人にはキッチンメイドとしての経験がなかったからだ。緑袋が使えるとは言っても、いつも私がいるとは限らないし、料理くらいは作れないと不便だから訓練させておかないとね。
同じメイドでもできる仕事や出来ない仕事があり、私のように全ての仕事をこなせるメイドは他にいなかった。今思うと不思議な話ね。
他のメイドと同等の扱いであれば、私はここまで仕事ができなかったかもしれない。良いことも悪いことも、もしかしたら紙一重なのかも。
「んん~、美味しい~」
「ほっぺが落ちちゃうよぉ~」
みんな美味しそうにジャムパンを一口で食べている。
手持ちのちぎったパンに好きな種類のジャムを塗り、口に頬張る様はこの世の天国のようだった。毎日こんな光景がずっと続けばいいのに――。
いや、何としてでも守るしかないのよ。それ以外に選択肢なんてないわ。
「なんか王都にいた時よりずっとあったかいっす」
「ここは王都よりずっと北で寒いのよ」
「いや、そうじゃなくて……こうやって仲良く笑いながら食事したことなかったんで」
「私もよ。あの場所でみんなと食事をしてると全然落ち着かなくて、1人でよく庭に出てはパンを食べてばっかりだったわ」
「その時によく俺と話してたよな」
「ふふっ、そんなこともあったわね」
ラット、ロバア、リンネ、タビー、ビットたちもこの光景に惹かれて集まってくる。
そしてもう1匹、ワンダーツリーにいたはずの妖精がタビーの背中に乗っている。
顔はまるでひまわりのようで、二足歩行の体はまるで犬のようであり、両手は植物のつたのように伸び縮みするようだった。その愛嬌のある可愛い表情が私たちの母性をくすぐっている。
「めっちゃ可愛い~」
「あなた確か――あの木の中にいたんじゃななかったの?」
「ぎゅーい、ぎゅーい」
「アリスに興味を持ってついてきたんだってさ」
妖精を背中に乗せているタビーが言った。
普段は姿を消したまま周囲の景色にとけ込んでるから捕食される心配はなさそうだけど、やっぱり民家の方が落ち着くのかしら。
「この妖精、名前なんていうの?」
「そうね……見た目がひまわりみたいだから、うーん」
「シャインってのはどうすか?」
「シャイン?」
「見た目が太陽の光みたいだからっすよ」
ミシェルが人差し指を立てながら言った。
――そういえば、ミシェルたち3人はガリアン王国からの移民だったわね。こういう時に私たちにはない発想や思わぬセンスを発揮するあたり、やっぱり雇っておいて正解だったわ。
「それいいねー。シャインにしよ」
「賛成。私もそれがいい」
全会一致でまとまり、この子の名前はシャインに決まった。
突然名前をつけられちゃったけど、シャインはすぐにその呼び名を受け入れた。名前がないと不便だからしょうがないわね。
「おいで」
私が子供を誘うように呼びかけると、シャインはタビーの背中からジャンプして私に絡みつきながらすりすりと甘えてくる。
妖精が人間に懐くなんて、珍しいこともあるのね。
「ぎゅーい、ぎゅーい」
「アリスが気に入ったってさ」
今度はラットがシャインの通訳として言った。
言葉は話せないみたいだけど、こうしてワンダーツリーを飛び出して私に懐いてくるあたり、何だか私に似たものを感じるわ。あっちの方がずっと居心地良さそうなのに、それでも外を知りたくて飛び出してきたのね。
だったら精一杯面倒を見てあげないと。
スーザンたちもシャインが気に入ったみたい。
みんなシャインの取り合いをしながら可愛がっている。でも最終的には名づけ親であるミシェルの腕に絡みついた。
「アリス、この子は私が面倒を見るっすよ」
「そうね。名づけ親なんだから、ちゃんと育てるのよ」
「分かったっす。シャイン、これからよろしくっす」
「ぎゅーい、ぎゅーい」
シャインが外を指差しながら何かを伝えようとしている。
「日差しを浴びたいんじゃない? 植物の妖精だし」
「外に行きたいんすか? じゃあ一緒に行くっす」
ミシェルは話が通じ合っているかのように笑顔で返事をしながら頷いた。シャインのおかげか、家の中にはみんなの表情に笑顔の花が咲いていた。
でもこの時、私たちは気づかなかった。
既に新たな危機がピクトアルバに迫っていることに。
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