表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/100

chapter 6-5「不思議な木の実」

 ワンダーツリーの枝の外へ出てみると、まるで虹のような色彩が私の目に入ってくる。


 それぞれの枝に様々な木の実が生えており、イチゴ、ブドウ、ミカン、メロン、マンゴー、プルーンといった珍しい果物ばかり。ここではまず見られないはずのものがどうして……。


 私たちが小さくなっているのか、とても大きな果実に見える。一度かぶりついたらもう止まらなくなりそうだわ。


「ここの植物たちは気候の影響を受けないようだ。ここにある木の実を定期的に採取すれば、ピクトアルバの名物として売りに出せるんじゃないか。そうすれば町長も納得するはずだ」

「なるほど、だから南の方でしか採れないような植物もあったわけね。でも何で?」

「アリスがワンダーツリーの種を植えた時、どんな肥料を使った?」

「確かここの気候でも育つように寒冷耐性を持った肥料を――あっ!」

「通常は南の暑い気候でしか育たないはずの種に寒冷耐性が付与された。だからこの木は寒さをものともしない。これは紛れもなく錬金魔法の力だ。種の受取人がアリスじゃなかったら枯れていたな」


 私はそこまで考えてなかった。じゃあ、このワンダーツリーがここまで順調に育っていったのは奇跡だったのね。


 受取人も植える場所も、結果的に全て正しかった。


 フェアリウスはそこまでを見越してあの種を渡したとは思えないけど、エドはそのことを悟っていたのか、既にこの木が錬金魔法のおかげで育っていたことを知っていた様子。


「君は本当に凄いな」

「ありがとう。でもこれは自分で習得したものじゃないの。いつの間にか使えるようになってたというか、食材がすぐ料理に変わればいいのにって思ってた時、余った食材を保存用に召喚したはずの緑袋に詰め込んだら、いつの間にか料理に変わってて、それでこの緑袋の可能性に気づいたの」

「アリスの願う力は錬金魔法さえ目覚めさせたか。君はお告げ通り、本当に選ばれし者かもしれないな。さすがは女王陛下が見込んだ女だ」

「それほどでもないわ。私は採取するけど、エドはどうするの?」

「僕はもう帰るよ。ここには鉱石がないみたいだ。それと、採取をするならこれを食べていけ。小さくなったまま採取するのは大変だろ」


 そう言ってエドが帽子の中から出したのは一切れのザッハトルテだった。


 チョコレートに挟まれたアプリコットジャムが美味しそう。


 私たちはそれを躊躇なく食べた。すると、体が段々と大きくなり、見る見るうちに元のサイズへと戻っていった。枝はとても頑丈でびくともしない。


 そこからの作業は簡単だった。


 エドは帽子を両手で掴みその足で地上へと飛び降りた。帽子がまるで風船のように膨らみ、ゆっくりと地上へ落ちていく。私は召喚した箒にまたがり、木の実を青袋に詰め込んでいく。


 木の実を採取したのはいいけど、このままだと保存がきかないわ。


 ――ん? そういえばさっき、アプリコットジャムがあったわよね。


 そうよ! その手があったわ! ジャムにすればいいのよ。そうすれば長期間保存ができるし、ここでしか味わえない味を残すことができるわ。


 そうと決まれば、早速作るしかないわね。でもその前に女王陛下にご報告しないと――。


「一応ワンダーツリーの内部まで調査しましたが、特に害はないようです。エドが言うには、ワンダーツリーがあるおかげで土壌の質が良くなっているということです」

「そうであったか。ならあの木はピクトアルバの名物として残すとしよう」

「女王陛下、1つ問題があるのですが」

「どうしたのだ?」


 周囲の執事やメイドたちが見守る中、私は今抱えている問題を女王陛下に話した。


 元々ここへ来たのは女王陛下を通してバートに抗議するためでもあった。さすがにあの堅物でも、女王陛下のお言葉には耳を傾けてくれると思った。あれほどの恩恵をもたらしてくれた木を切り倒すなんてとんでもないわ。あの木はピクトアルバを救う鍵よ。


 幸運の重なりで生き残ったあの木を何としてでも生き延びさせたい。


 勝手に人の土地に種を植えたのは申し訳ない。その責任はきっちり取るつもりであることも伝え、何とかバートを説得してもらえることに。


「分かった。妾からもバートに申し伝えよう」

「ありがとうございます、女王陛下」

「アリス、そなたはピクトアルバを――いや、この国の運命を担う救世主なのだ。困った事があればいつでも言ってほしい。妾もそなたの力になろう」

「もったいなきお言葉」


 深々と頭を下げた。極力お世話になるべきではないと分かりつつも、他に解決方法がなかった。


「あっ、アリスー。またわたくしに会いに来てくれたのねー!」

「きゃっ!」


 不意に現れたクリス様が猪突猛進しながら私に抱きついた。


 薄緑色の髪の毛からは香水のようないい香りが鼻の中へと吹き抜けていく。


 クリス様は数日おきに私の家を訪れ、耳掃除やマッサージを施されて帰っていく。その度に貰う料金のおかげでみんなの面倒を見ることができている。私にとっては貴重な収入源となっているけど、ある意味常連客ね。


「ねえねえ、また耳掃除やってー」

「クリス、アリスを困らせぬようにな」

「はーい。アリス、さっきの話聞いたわよ。わたくしもワンダーツリーの保護に協力するわ。それより採取した木の実はどうするのかしら?」

「長期保存のためにジャムにしてみようと思ってるの」

「まあ! とっても素敵なアイデアじゃない! 今度遊びに行った時に味見させてねー」

「王族が味見をするなんて、何だかシュールね」

「わたくしはアリスを信じてるもの。楽しみにしてるわね! ふふふふふっ!」

「で、では失礼します」


 やれやれ、酷く懐かれてるわね。さっきから夫人のように腕を掴んでくるし。


 女王陛下はクリス様を見ながらうっとりした表情だ。もしかして女王陛下にもそんなご趣味が……いやいや、さすがにそれはないわ。


 女王陛下の別荘を後にすると、家に戻ってから採取した木の実をみんなに見せた。

気に入っていただければ下から評価ボタンを押していただけると嬉しいです。

読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ