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chapter 6-4「ワンダーツリー」

 やりたいことが多すぎて忙しい日々が続いた。


 畑を耕したり家の中を喫茶店に改装したりしているものの、ホテルを建てるのに最適な場所を早く見つけないと家を土地ごと持っていかれてしまう。


 みんな色々とアイデアを出してくれたけど、どれもこれも最適な場所を提供するには至らなかった。ホテルってことは、やっぱりピクトアルバ名物の見える場所がいいわよね。


 そんなある日、ワンダーツリーと名づけられた巨木の前にはエドが立っていた。


 巨木の上の方には様々な色彩の木の実が生えていることが分かった。他にもまるで接ぎ木したかのように様々な種類の植物の枝が生えているし、とても神秘的だわ。


 ちょうどいいと思った私はエドに話しかけた。


「エド、あの木に登って調べたいんだけど、つき合ってもらってもいいかな」

「上るのはいいけど、箒で高い所まで登る必要はない。そこに穴があるだろう。そこから入って上まで行くんだ。中は空洞になっているから大丈夫だ」


 エドが指差した根っこ近くの場所には小さな穴がある。


 ――まさかとは思うけど、ここから入る気なの?


「あるにはあるけど、私たちの大きさだと入れないわよ」

「これを食べてみろ。調査をするなら中身を調べないと」

「それ、キルシュトルテじゃない」


 エドが帽子から出したのはとても美味しそうなレッドチェリーの入ったキルシュトルテだった。


 私は召喚した手袋をエドに渡した。壁をよじ登りながら移動できる便利な手袋だけど、箒で上るだけではちゃんとした調査ができないとのこと。


 私はエドにキルシュトルテの一部を手渡されると、2人揃ってその場で食べた。


 すると、見る見るうちに周囲の景色が大きくなっていき、さっきまで小石のように小さく見えていた根っこの穴がドラゴンの巣穴のように大きくなっていた。


「ワンダーツリーがさらに大きくなってるわ」

「そうじゃない。僕らが小さくなったんだ。このケーキには体を小さくする作用がある。着ている服と一緒に小さくできるように魔力の調整をしていたんだが、思ったより時間がかかってしまった」

「ただでさえ時間がないのに、本当に呑気ね」

「ホテルの件は君の課題だろ。僕は個人的にこのワンダーツリーに興味があるだけだ」

「どこまでもマイペースね」


 自分本位なくせに、何だかんだで結構助けてくれる。


 本当に何を考えてるか分からない。ていうかこれ、元に戻れるのかしら?


 今さら嘆いても遅いわね。どの道ワンダーツリーの中が気になっていたわけだし、さっさと入ってみるとしますか。


 私たちは正面にある根っこの穴からワンダーツリーの内部へと入った。


 箒を召喚するにしても、箒は元のサイズのままだし、ちゃんと乗れなければ飛ぶこともできない。手袋も同様なら使えないわ。


 中には壁を中心に様々な花が咲いており、その甘く心地よい香りに私たちは魅せられた。まるで花の世界へとやってきたみたい。


 植物のモンスターが仲良しそうに手を繋ぎ、全身から神々しい光を放ち、光合成をしながら大地に実りを与え、このピクトアルバを支えているように感じた。


 そんなモンスターを見ながらエドが【分析(アナリシス)】で解析を進めている。


「なるほど、この巨木は魔法の木だ。生命力に溢れたあの種には膨大な魔力が眠っていた。その魔力が土に埋められたのを皮切りに外へ伸び始めた。根っこから無尽蔵に魔力が供給され続けているのを感じる。どうやらフェアリウスはアリスの世界に実りを与えるためにあの種をくれたようだ」

「だから私たちの助けになるって言ったのね」

「妖精には相手の気持ちを汲み取る能力がある。多分アリスの気持ちを汲み取ったことで、この世界には植物の実りが乏しいと分かったんだろうな」

「ちゃんとお礼を言わないとね」

「だが1つ問題がある。バートがこの木を切り倒そうとしているんだ」

「そんな……ありえないわ」


 ――じゃあ、この平和な光景が人間の手で潰されようとしているっていうの。


 この木ができてからはピクトアルバの畑が豊作に恵まれるようになった。木の中で活動をしているモンスターたちがここ一帯の土を活性化させているのだとしたら。


 もしここを切り倒したりなんてすれば、街の畑も打撃を受けるわ。


「ちゃんと種を植える場所を選ぶべきだったわね」

「いや、そうでもないぞ。街から離れた場所にあの種を植えていれば、外部から侵入したモンスターがここを荒らしていた可能性が高い。ここのモンスターたちは天敵に食べられることを想定していない。僕らを見ても全く警戒しないのが証拠だ。アリスの選択はモンスターにとっては正しかったわけだ」

「だったら絶対にここを守らないと。保護するべきだわ」

「そうだな――上にはどうやって上る?」

「それなら、あれを使えばいいんじゃない」


 少し遠くに見える木の枝にモンスターが掴まると、木の枝が上へとゆっくり移動していく。ちゃんと上に上るためのシステムがあるのね。何だか縦に長い家の中にいるみたい。


 私とエドは上に移動する枝を両手でぶら下がるように掴み、木の上の方へ移動していく。


 ここの住民であるモンスターにはそれぞれ役割があり、木の鮮度を保つための活動をするマッシュルームのようなモンスターや、木の実を育てて分け与えるリーフのようなモンスターまでもがいた。


 このワンダーツリー自体がモンスターを育てるための家だったのね。


 巨木の枝分かれしている階に辿り着くと、そこにも多くのモンスターたちの住処があり、木でできた巣が街並みのようにびっしりと並んでいる――ここは恐らく木の中枢ね。


 ここにも地上と同様に外へと続く穴があった。


 私とエドは外から聞こえる風の音に誘われ、穴の向こう側へと走っていった。

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