表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/100

chapter 6-3「保守的な町長」

 今、目の前には火山のようにカンカンに怒っている町長がいる。


 黄土色のジャケットに度数の強そうな眼鏡をかけ、カラスのような目でこちらを睨みつけているこの老人の男はバート・ウルフ。この街で1番の大富豪であり、気難しい性格から狼男と呼ばれている。


 家の中には町長室があり、部屋の奥にはそこの高そうな木造の机があり、その机を挟んだままの対話となっている。私たちは立ったまま事情を説明し、バートから許しを貰おうとしていた。既に起こってしまったものは仕方ないけど、あればかりは私も予測はできなかった。


 私とエドはバートの家で事のあらましを説明するが、それでもバートは納得がいかない様子。


 バートは机のそばにある背が高い椅子から立ち上がり、私たちに近づいてくる。


「お前がわしの土地に無断で種を植え、巨木にしてしまったせいでホテルを建てる計画が台無しだ」

「あの土地は誰も買っていなかったはずだぞ。アリスはそれを確認した上で植物の種を植えた」

「あの荒廃していた土地は誰も持っていない。つまりあれはこの街のものであり、町長であるわしのものでもある! ピクトアルバは人口も家も増え、段々と観光地としての価値が上がってきている。だからホテルを建てようと思っていたんだ! お前はこの責任をどう取るつもりだ!?」

「それがその、土地は女王陛下が買い取ると仰っていました」

「女王陛下が買い取るだとぉ!? そんな馬鹿なことがあるか!」

「本当だぜ。なら女王陛下に確認してみるか?」


 ラットがドヤ顔で言いながら親指で扉を指差した。バートはそんなラットのニタニタした顔を見ながら苦しい表情だ――ホテルを建設する計画があったなら言ってくれればいいのに。


 女王陛下が買い取るのであれば、あの土地一帯は私有地になり、たとえ町長であってもそうそう文句は言えない。


 彼はラットが嘘を吐いているとは思えず、たまらずその矛先を私に向けた。


「計画を台無しにしたことに変わりはない。女王陛下があの土地を買い取るにせよ、事の発端となったアリスには責任を取ってもらう必要がある。ホテルを建てるのに最適な場所を見つけて報告しろ。もしそれができないというなら、アリスの家の土地を売ってもらうことになる。期限は1ヵ月だ。分かったらさっさと出ていけ! ほらっ、早く出ろ」

「ちょ、ちょっと押さないでよ! 分かったわよ。出ていけばいいんでしょ」

「あんまり怒らない方が身のためだ。血圧上がるぜ、じいさん」

「うるさい!」


 私とエドはバートの家から押し出されるように追い払われた。


 ラットの余計な一言で完全に怒っちゃったみたい。扉の内側からガチャッと鍵を閉める音が聞こえた。当分は中に入れてくれそうにない。


 ああいう人ってどこにでもいるのね。ホテルを建てる場所を確保できなかったら家を売れだなんて、本当に無茶な要求をするわね。


「今度種を植える時は、誰の土地であるかを確認してからやるんだな」

「まさかバートが絡んでいるとは思わなかったわ」

「あいつは余所者にはこれでもかっていうほど不寛容だ。アリスの歓迎会の時も全然来なかったし、何であんなのが町長になれたのか不思議なくらいだよ」


 エドは頑固親父のようなバートが気に入らない様子。


 結構保守的な人にも思えたけど、ピクトアルバの人口が増えたのを見てリゾート地にすることを考えるあたり、意外と先進的なところもあるのね。


 自分が儲かりたいだけにも思えるけど――。


「「「「「ええ~っ!」」」」」

「そ、それ本当なの?」

「ああ、本当だ。あのバートっていうじいさん、なかなかの曲者だ」


 エドと別れて帰宅するや否や、家の掃除をしている最中にラットがさっきまでの出来事をみんなに話してしまったため、家の中がパニックになったまま凍りついている。


 スーザン、セシリア、ミシェル、メロディ、リゼットが私たちとお揃いかつ色違いの作業服に身を包んでおり、それぞれの作業を進めながらもラットの話に耳を傾けていた。


 リゼットの固有魔法【裁縫(ソーイング)】により、すぐに新しい服を作ってくれたおかげで、私たちはようやく王宮メイド服から卒業することができた。何だか少し体が軽くなった気がする。こっちの方が凄く動きやすいのもあるけど、何より自分たちで生活を作っていくのが楽しい。


 でもこのままだと――家を売らないといけなくなっちゃう。


 私の好奇心のせいではあるけど、どうにかして見つけないと。


「どっ、どうすんのアリスぅ」

「ホテルを建てるのに最適な場所なんて全然ないわよ。この辺りはモンスターもいるし、食糧問題が解決してからは街中に次々と建物が建つようになったし、もうピクトアルバにそんなスペースはないわよ」

「確かここから西へ行ったところに湖があるけど、そこって結構広かったわよね?」

「私たち3人は来たばかりなので、よく分からないっす」

「ま、まあ大丈夫よ。まだ1ヵ月もあるんだし、何とかするわ」


 とは言ったものの、一応周囲を探索してみたけど、ホテルを建てられるほど広い場所はなかった。


 ピクトアルバにある他の場所は既に外からやってきた住民たちが買い取ったばかりだし、ラバンディエなどから癒しの場所を追い求めてきた人たちばかりだから当分はどいてくれそうにない。まさかあれほどの繁殖力を持つ巨木だとは思わなかったわ。


 女王陛下が買い取ることになったとはいえ、しばらくはあの巨木の様子を私が見ることに。


 フェアリウスがお礼に渡したものが危険だとは思いたくないけど、あの巨木を目指してやってくるモンスターは全然いないみたいね。通常の巨木であれば、強力なモンスターが縄張りにしようとやってくるものだけど、今のところは大人しい動物さんしか寄ってこない。


 一度エドと一緒に登ってみた方がよさそうね。


 分析さえできれば何か分かるかもしれないし。

気に入っていただければ下から評価ボタンを押していただけると嬉しいです。

読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ