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chapter 6-1「古巣の戦友たち」

 数週間後――。


 女王陛下はしばらくの間、安全確保のためピクトアルバで預かることに。


 全員が元の歴史の記憶を取り戻したことでメルへニカは再び北と南に勢力が分かれ、王位継承戦争が再開するかと思われたが、メアリー女王は別の問題を抱えていたのか、すぐには動けないらしい。


 ピクトアルバには私が作った寒冷耐性のある肥料が普及し、食糧問題から解放されつつあった。


 女王陛下とクリス様がいらっしゃることもあり、徐々に人口も増えていった。


 エミを始めとした加工職人たちは大忙しとなり、人口は5000人を超えた。


 その全てがメアリー女王に反発する者たちばかりであり、女王陛下は民衆たちから人気のある心優しい王族であったことが浮き彫りとなった。すぐにラバンディエも王都ランダンに反発する形で女王陛下を正式な後継者とする形で王都宣言をした。


「エドって元々帽子屋だったのに、何で忘れていたの?」

「僕が帽子屋の後継者として腕を磨いていた頃、特に僕を贔屓にしてくれていたのが、エリザベス女王陛下だった。それで女王陛下にまつわる記憶になってしまった。だから真っ先に書き換えられたんだ。僕はまた帽子屋に戻ることにするよ。アリス、みんなの大事な記憶を取り戻してくれてありがとう。君には感謝してもしきれない。採取の時はいつでも協力しよう」

「――ええ、これからもよろしく頼むわ」


 私はそう言いながらエドと抱き合った。


 本来であれば、ダークデッドから出てきたモンスターの剣だって、知らぬ存ぜぬで一切のかかわりを持たずに見過ごすこともできたはず。


 でもエドたちはそんな私を助けてくれた。


 彼らは間違いなく私の友達、大切な仲間、血の繋がらない家族。


「ちょっとアリスぅ、わたくしだってちゃんとアリスに貢献したのにぃ」


 そう言ってクリス様がほっぺを膨らませた。その周囲ではエドたちがジンを嗜んでいる。


 まだお酒は飲めないけど、今日のご飯は特に美味しいわ。


「ふふっ、クリスもありがとう」

「みんなアリスが大好きなのよ。あなたはここにいる誰よりも献身的で、仕事を通じて多くの人々を救ってるのよ。あなたがここに来てから食糧難から解放されたし、定期的な掃除による衛生管理のおかげで病気になる人がいないから暇だってお医者さんが嘆いてたわ」

「ふふっ、医者や軍隊が暇になるのはいいことよ」


 クリス様は王族なだけあって、こういうところまでちゃんと見ていらっしゃるのね。


 あれからしばらくしてスカンディア王国から通達が届き、無事にクリス様を保護しているとして、エリザベス女王陛下を正式なメルへニカ女王として認めた。


 私たちはバーで女王陛下の正式な女王認定を祝うパーティをしているところだった。


 だがそれは同時にメアリー女王を刺激する行為でもあった。


 再び南側から軍を派遣してくる事態に備え、ラバンディエでは鉄壁の防衛ラインを敷いており、レイモンド公爵がラバンディエの宰相として任じられた。


 ピクトアルバの最果てにあったエドたちの隠れ家であった古城は女王陛下の別荘として建て替えられ、そこに数多くのメイドが雇われると共に、クリス様も一緒に暮らすことに。


 周囲が忙しくなる中、バーに見覚えのある顔が3人もやってきた。


 かつてメイド部隊で共に戦ったミシェル、メロディ、リゼットの3人だった。


 揃いも揃って部隊用の服装は戦闘でボロボロ、体の所々から流血し、肌は空腹で痩せこけ喉が乾き、オシャレに気を遣う余裕もないほど髪がボサボサになり、今にも倒れてしまいそうだった。


「あの、水だけでもくれないすか?」


 ミシェルが弱々しい声でエレナに言った。


 見るからに大怪我してるし、早く何とかしないと。


「3人ともどうしたの?」

「――もしかして、アリス?」

「そうよ。エレナ、彼女たちに水と食事をお願い」

「分かったわ。アリスの知り合い?」

「はい、いつもお世話になっていたっす」

「ミシェル、何があったのか教えて」


 彼女はミシェル・オクレール。灰色の姫カットと全身の白と黒を基調とした軽装が特徴で、メイドの墓場と言われたメイド部隊の中でも特に腕の立つ女の子。


 それから肩に届くくらいの朱色の髪が特徴のメロディ・ルフェーヴル、青髪のシニヨンヘアーが特徴のリゼット・バイヤールはミシェルの友達。


 彼女らもまた、あのバーバラに騒動の全責任を押しつけられ、見捨てられる格好となった。


「はぁ~、私がいなくなってからも全然変わってないわね」

「でも王宮の様子はかなり変わっていたっす。メイド長も大臣たちも大慌てで、アリスが抜けた穴を必死に埋めようとしていたっす」

「自業自得よ。ねえ、3人ともよかったらうちで働かない?」

「働かせてくれるんすか?」

「ええ、今人員募集中なの。掃除屋の仕事だけじゃなくて、喫茶店もやりたいの。王宮メイドだった頃に紅茶の淹れ方を習得したでしょ。それを活かせると思ったの」

「喜んでやらせてもらうっす」

「私も喜んで」

「私もやります」


 これで私とスーザンとセシリアと合わせて6人確保できたわ。


 掃除屋の仕事だけだと全員を養いきれないし、ハンナはシモナの家で働くことになっちゃったし、ちょうど良かったわ。


「アリスを貶めるから痛い目に遭うのよ。わたくしならそんなことはしないわ。アリス、もしよければわたくし専属のメイドとして特別待遇で雇ってあげてもよくってよ」

「気持ちは嬉しいけど、外で伸び伸びと生きる自由を知ってしまった今、もう誰かに仕える気はないの。でも耳掃除ならいつでも言ってね。人の体の掃除も、掃除番の仕事だから」

「じゃあ、一緒にお風呂に入ってくれない?」

「……ええっ!?」


 突然の申し出に私は戸惑ってしまった。女の子同士でお風呂なんて……いつ以来かしら。


「人の体の掃除も掃除番の仕事なんでしょ?」


 ニタニタした顔でクリス様が言った。これは回避できそうもないわ。


「分かったわ。でもその前に3人の怪我をお掃除してからよ。【浄化掃除(クリーニングスイープ)】」


 聖なる光が3人を包み込むと、あっという間に3人の体の傷が癒えていく。


 ミシェルたちはバーにあるパーティ用の料理を片っ端から食べ尽くしていく。


 ふふっ、よほどお腹が空いていたのね。

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