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chapter x-9「生け贄となった貴族」

 数日後、私は突然北の女王の存在を思い出した。


 むしろ何故今まで奇麗さっぱり忘れていたのか分からない。


 しかもそれは私だけではなかった。メイドたちはもちろんのこと、王族や貴族たちまでもが北の女王を思い出し、再び捜索へと乗り出したのだ。


 特に気が立っていたのは女王陛下だ。


 ジェームズ様を始めとした大臣たちも逆鱗に触れぬよう細心の注意を払い、急いで北の女王の捕縛するよう命じられた。クリス様の救出だけでも手を焼いているというのに。


「ごきげんようバーバラ、ちょっといいか?」

「ポール様、どうなされました?」

「ハンナがアリスに寝返った。まさかミイラ取りがミイラになるとは。おまけにクリス様もピクトアルバから離れる気はないそうだ。そのせいでスカンディア王もお怒りになり、国交を断絶するそうだ。バーバラ、全ては君がアリスを追放したせいだ。君はこの責任をどう取るつもりだ?」


 ポール様が私にゆっくりと近づき、私の後ろにある壁に片手をつけた。


「そっ! そんな! 私はただ、ポール様の言ったとおりにしただけで――」

「追放するならもっと近場にしておけばよかったものを、お前はアリスを遠ざけたいがあまり、辺境の地へと追いやった。今夜、お前を王冠盗みの罪で女王陛下に報告する。あのご様子だと、間違いなく打ち首になるだろう。後悔しながら死んでいくんだな。はははははっ!」


 ポール様が高笑いしながら私の前を堂々と横切っていく。


 私は顔を震わせながら口を開け、乾いていく喉を気にする余裕もなく絶望した。


 ――冗談じゃないわ。私はずっとポール様に尽くしてきたのよ。


 それなのに……それなのにっ!


 絶対に許さないわ。ずっと耐えに耐えて、いつか必ず貴族としてのし上がれるかと思えば、こんな形で処刑されるなんて……もう私の天下は終わり?


 しかも今夜で? どうして? 何故私だけ?


 だったら……先手を打つまでよ。罪をかぶるのはあなたの方よ!


 ポール様の後ろ姿を睨みつけながら心底思った。私の復讐心を象徴するように彼の背中を貫くくらいの眼差しのまま、うちから溢れる怒りの感情を開放し、その細長い足を走らせた。


 王冠を盗んだ犯人は他でもない私だった。


 マスターキーを持っていた私は王冠室の鍵を持ち、そこからこっそり王冠を盗んでからアリスの部屋の引き出しの中に入れて王冠盗みの罪を着せた。


 指紋認証の証言も全て嘘――こんなことになるんだったら、アリスを追い出さなきゃよかったっ!


 両腕の震えが収まらない。こうなったらもうやられる前に倒すまでよ。たとえ相手が貴族だろうと関係ないわ。


 私はメイド長室の引き出しからネックレスを取り出した。これはポール様が他のメイドに貢ぎ物としてあげたものを私が取り上げたものよ。当然ポール様の指紋がべったりついているわ。


 手袋をつけてからネックレスを持つと、そのまま王冠室へと赴いた。


 昼休みは王宮にいる人のほとんどが食事をしており、私はその隙に王冠室にまんまと侵入すると、マスターキーを使い、透明ケース越しに飾られている王冠を見つけると、その透明ケースの鍵を開けてから扉を開いた。


 私はニヤリとほくそ笑んだ。


 あとはこのネックレスを引きちぎって床にばらまくだけ。


 その日の夜――。


 ポール様は王都での仕事を終え、王宮へと戻ってきたところだった。


 私もメイド長として玉座の間へと呼び出され、大勢の大臣やメイドたちにとけ込み、部屋の隅っこで平然と立ち尽くしていた。


「ポール・グリーンフィールド、そなたに打ち首を命ずる」

「なっ! ――何故です? 僕が一体何をしたというのですか?」

「今日の昼頃、何者かが王冠室へと侵入し、またしても王冠が盗まれた。メイドたちに王宮内をくまなく探させた結果、お前の部屋から王冠が見つかったそうだ」

「私は何も知りません! 今日は昼からずっと王宮の外にいたのですよ!」

「ならばこれは何だ?」

「!」


 ポール様が大きく目を見開いた。


 それもそのはず、王冠室にばらまかれたネックレスはポール様が持っている中でもお気に入りのネックレスであり、その内のいくつかをメイドたちにばらまいていた。


 これぞ決定的な証拠よ。ばらまいたのは私だけど、これでもう逃げられないわよ。お気に入りのネックレスに絞めつけられる気分はどう?


「女王陛下、先ほど、このネックレスの一部を調べた結果、ポール様の指紋が検出されました」

「バーバラ、貴様っ! この僕をはめやがったな!」

「ポール様、無駄な抵抗はおやめになられた方がよろしいかと。女王陛下、ポール様が王冠室へ侵入することを防げなかったのは、メイド長である私の落ち度でもあります。申し訳ございませんでした。今後の対策として、メイドの昼休みを2つに分け、交互に部屋の監視を任せようと考えております」

「バーバラは健気であるのう。ポールもバーバラを見習っていれば、こうはならなかった。その腕を見込んでいただけに無念である。連れていけ」

「「はっ!」」

「違うっ! 僕はバーバラにはめられたんだ! どうか私を信じてください! 女王陛下あぁー! 女王陛下あぁー!」


 ポール様は終始私のポーカーフェイスを睨みつけ、2人の親衛隊たちによって処刑場へと連れて行かれてしまった。


 城の奥まで女王陛下たちと同行すると、そこには四方を高い城壁に囲まれた庭があり、ポール様がその庭へと放り出されていた。


 すると、庭の端っこにある鉄格子が上へと開いていき、この前見たあのモンスターが現れた。


「皆の者よ。あれこそが我が最新の兵器、エクスロイドだ」


 エクスロイド……この前メイドを一瞬でバラバラに切り刻んだ圧倒的な強さを誇るモンスター、しかもエクスロイドは女王陛下にだけは従順であり、目の前に用意されたご飯に耐えながら女王陛下からの命令を待ち受けている様子だった。


 これが我が軍の最新兵器だったのね。見ているだけで肌がピリピリするわ。


 だからどの大臣たちも……女王陛下に逆らえなかったのね。誰1人として。

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