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chapter 5-9「幻想からの解放」

 女王陛下も金髪の男も私のドレス姿を見て驚いている。


 本来であれば、私のような平民が着ることはまずありえない。


 ましてや女王陛下とお揃いだし、いつ不敬罪に問われても不思議じゃないけど、今はそんなことを考えている余裕はないみたいね。


 金髪の男は青を基調とした豪華な服装にマントを羽織り、それが彼の身分の高さを表しているみたいだけど、女王陛下を娘って呼んでいるってこの人は一体……。


「何故娘と同じドレスを着ているのだ?」

「これは同じドレスを着た者同士を巡り会わせるためのものです。女王陛下、私と一緒にこの幻想から帰りましょう。私はそのために来たのです」

「さっきから娘のことを女王陛下と呼んでいるが、そなたは何を言っておるのだ?」

「あなたこそ、女王陛下を娘呼ばわりするなんて何考えてるの?」

「そのお方は国王陛下よ。妾は王女エリザベス、少し早まりすぎではないか?」

「……えっ?」


 じゃあ……このお方が国王陛下だっていうの?


 確かに国王に相応しい威厳と落ち着きをお持ちだけど、何だか物凄い違和感だわ。


 話を聞いてみると、どうやら本当らしい。突然赤いブリキの兵隊たちが襲ってきたため、こちらも配下の兵隊たちで応戦しているんだとか。


「ご無礼が過ぎました。お許しください」


 私は頭を下げて許しを請うが、そもそもこのお二方は全く気にされていない様子。


「まあいい、今は戦争中だ。君の事情を聞こうか」


 あっさりと話を聞く気になってくれたようなので、私がここまでやってきた理由を正直に告げた。お二方はここが夢の中であると信じていない様子だけど、この状況じゃ無理もないわね。


 しばらくはここで黒いブリキ兵たちに守られながら国王陛下の事情をうかがった。


 何でも、今は隣国と戦争中であるらしく、無尽蔵に湧いてくる兵隊を抑えるので精一杯なんだとか。でもあの様子だと、いつ侵略されてもおかしくないわ。


 なのに赤いブリキ兵たちはいつも攻略寸前で撤退していくんだとか。


 まるで時間が戻っていくかのように。


「アリス・ブリストルでしたっけ? 一緒に紅茶を飲みましょう。せっかくの縁だから」


 女王陛下が私に1杯の紅茶を差し出し、高そうな椅子に座ることを促してくる。


 どうしてこんなに落ち着いていられるの?


 撤退することが分かっているとはいえ、敵というのはいつ裏切るか分からないものよ。なのに何でここまで安心していられるのか、私には全く理解ができない。


「国王陛下、さっきまで戦争中だったんですよ。兵士たちに労いの言葉をかけてあげないんですか?」

「そんなものはいらん。兵士たちが国を守るのは当然だからな」


 この傲慢さ、国王の器じゃないわ。まるで女王メアリーみたい。


 ――そういえば、女王陛下はメアリー女王を姉さんと呼んでいたわ。


 メアリー女王のことを聞けば何か分かるかもしれない。


「もう1人の王女様はどちらに?」

「何を言っている。王女はここにいるエリザベスだけだぞ」

「! そんなはずありません。もう1人姉がいたはずです」

「アリス、私は一人っ子よ。さっきから何を言っているの?」

「……こんなのおかしいわ」

「おかしいのはそなたの方だ。本来であれば平民がここへ立ち入ることさえおこがましいというのに、わざわざ茶会でもてなしてやっているんだぞ。王女はエリザベスだけで、()()()()なんて娘はここにいないんだ。分かったら早々に立ち去れ」


 そう言いながら国王陛下が私と女王陛下から離れていく。


 やれやれおかしな平民だと思っているのがハッキリ分かる。


 女王陛下もメアリー女王の存在を指定しているし、国王陛下も同じお考えだわ。


 それにしても――さっきからずっと私の脳裏を支配し続けているこの違和感、一体何なのかしら?


 私の意識は内側へと向き、今までの記憶を辿っていく。


 ――! ちょっと待って! 私、女王陛下を闇の魔力から解放しに来たことは話したけど、メアリー女王の話は全くしていない。


 もし……私の予想が正しいのだとしたら……確かめてみる価値はありそうね。


「おい、聞こえてるのか? 早く立ち去らないとお前を打ち首にするぞ!」

「……どうして名前を知っているんですか?」


 私は国王陛下からの威嚇とも受け取れる怒号に怯まず言葉を返した。


「名前だと?」

「私はこのお方に姉がいるという話はしましたが、具体的な名前までは言いませんでしたよ。どうしてその名前を知っていたのか、理由を教えていただければすぐに立ち去ります」

「どこにでもある名前をテキトーに言っただけだ。代名詞がないと不便だろう」

「いいえ、あなたは知っていた。何故なら……あなたが闇の魔力だからよ」


 私は国王陛下に化けた闇の魔力を指差しながら言った。


 相手はまるでジョークでも言われているかのような反応だけど、私の目は誤魔化せない。先代王はもうこの世にいないのだから。


 この夢そのものが女王陛下をその身に取り込むための幻想なのよ。戦力で圧倒しながらも途中で退却する兵隊、女王陛下が最も親しくしていた先代王、物静かな王族たちの部屋、全てが女王陛下を乗っ取ろうとするために見せていた一過程だとすれば、その全てに対して説明がつくわ。


「無礼者が、どうやら本当に打ち首にされたいようだな」

「それはあなたの方よ。さっさと女王陛下の中から出ていきなさい」

「この生意気な小娘がっ!」


 彼は長剣を抜き、刃を私に向けた途端、私に向かって襲ってくる。


 私はさっき奪った剣を素早く抜いて長剣を剣で振り払うと、長剣を持っている右腕を切り落とし、胸に向かって思いっきり剣を刺した。切り落とした個所や刺した個所からどす黒い液体がドバドバ飛び出してくる。


「があああああっ!」


 断末魔がこの黒い古城の中から空気を震わせるように響き渡る。でも誰も助けには来ない。そればかりか黒い古城が揺れ、段々と崩れていく。


 刺された場所から化けの皮が一気に剥がれ、その正体を現わすと共に元の姿へと戻っていく――私の違和感は正しかった。


 忘却の実に潜んでいた闇の魔力は、黒い液体に身を包んだ気味の悪い霊体だった。


「アリス……やっぱり助けに来てくれた。妾は信じていたぞ」

「記憶を取り戻したようで何よりです、女王陛下」

「ええ、もう大丈夫だ。全て思い出した」


 女王陛下は満面の笑みで喜び、私に近づいて抱きついてくる。


「おのれぇ! もう少しで憑依に成功するところでっ!」


 闇の魔力が怒りと悔しさが混ざり込んだ目で私を睨みつけた。

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