chapter 5-8「黒い古城とブリキの兵隊」
私が目を開けると、そこには壮絶な光景が広がっていた。
空は全て雲で覆われ、日光が入る余地などどこにもなかった。周囲の草木は枯れ果ててしまい、私はすぐに森の危機を悟った。
――ここは一体どこなの?
「おい、お前は一体誰だ?」
私の疑問を遮るように木でできたお馬さんに赤い軍用服を着たブリキの兵隊が話しかけてくる。
「私はアリス・ブリストル。ここは一体どこなの?」
「見ての通り戦場だ。分かったらさっさと逃げろ。巻き込まれても知らんぞ」
随分と高飛車な兵隊ね。何だかエドによく似ているわ。
「あなたたちはどうして戦っているの?」
思わず素朴な疑問をぶつけずにはいられなかった。私には何が何だかさっぱり分からないし、少しでもここがどんな場所であるのかを知っておきたかった。
私は女王陛下を助けに来たけど、肝心の女王陛下がいない。
でもエドは黄袋の外にいるし、起こしてはくれないと思っていい。彼は私を信じてくれている。だから起こす気はない。
たとえこの空間に女王陛下がいなかったとしても。
「どうしても何も、あの城にいるエリザベス女王を捕らえるためだ」
赤いブリキ兵が前方を指差した。
少し遠くには真っ黒な古城が立っており、その威厳と神々しさについ見惚れてしまった。
「! 女王陛下がいるの!?」
「そうだ。エリザベス女王を捕らえればこの戦争は終わる」
「そんなの許さないわ! 女王陛下こそが王位継承に相応しいお方よ!」
「なに! 貴様我が軍を愚弄するというのか!? おい、こいつを捕らえろ」
「上等よ。あなたたちなんてお掃除してあげるわ――あれっ?」
私は【女神の箒】を召喚しようとするが、一向に召喚される様子はない。いつもであればもう私の手に掴まれているはずなのに。
まさか……ここでは箒が使えないっていうの?
まずいわ。このままじゃ捕まっちゃう。どうすれば。
すると、空高くそびえ立つバルコニーから黒いブリキの兵隊がこちらに向けて銃弾を飛ばしてきた。
「ぐうっ!」
「――かかれぇ!」
銃弾は赤いブリキ兵に直撃し、その場に倒れたまま動かなくなる。代わりに指揮を執ることになった別の赤いブリキ兵が指揮を執り、銃弾を皮切りに銃撃戦が始まってしまった。
森の中に潜んでいた赤いブリキ兵たちが一斉に黒い古城に向かって突撃を始め、さっきまで殺風景極まりなかった周囲が一気に騒がしくなり、瞬く間に銃の音や剣を打ち鳴らし合う音が全方向から私の鼓膜を抉った。
さらに私の後ろからは、突撃した赤いブリキ兵を援護射撃するために設置されたであろう、かなり大きなカタパルトが前進してくる。そこに設置された爆弾が黒い古城の城壁へと投げ込まれた。
その迫力はすさまじく、あっという間に城壁の一部が壊された。
壊れた場所からは流水の如く赤いブリキ兵たちが雪崩れ込んでいき、城壁の向こう側にいた黒いブリキ兵たちと白兵戦となった。
私は先ほど銃弾に倒れた赤いブリキ兵から剣と軍用服を奪うと、そのまま攻城する軍に混ざる形で黒い古城を目指し駆け足で歩いていく。
「どりゃあああああっ!」
赤い軍用服を着た私を敵と思ったのか、黒いブリキ兵が襲ってくる。
私は軽い身のこなしで相手の剣をかわすと、そのままエドの剣術を思い描いた。
すると、不思議なことに、まるで誰かに操られたかのように、私はエドと全く同じ俊敏な動きで黒いブリキ兵の細長い首をスパッと切断した。
私の後ろには首がなくなったブリキ兵が剣を持ったまま壁を刺した状態で静止している。
「女王陛下、待っていてください」
私に迷いはなかった。一刻も早く女王陛下を探しだして、闇の魔力を取り除かないと、私はあのお方を倒さなくてはならなくなる。それだけは絶対に阻止するべきだわ。
蛇のように曲がりくねった螺旋階段を見つけると、そこから疲れも気にせず一心不乱に昇っていく。上の階で待ち構えていた兵士たちが襲ってくると、私は勢いよくジャンプして黒いブリキ兵の盾を踏み台にしていった。
そのまま黒いブリキ兵たちの真後ろにスタッと降り立った。
黒いブリキ兵たちは唖然とした顔で下から私を見つめている。
「悪いわね、お遊びにつき合ってる暇はないの」
私はそう言いながら1番上に入る黒いブリキ兵の盾を思いっきり蹴飛ばした。
「「「「「うわあああああっ!」」」」」
蹴飛ばされた黒いブリキ兵はそのまま後ろに入る黒いブリキ兵たちにぶつかりm連鎖的に押し倒されていった全員が階段からボールのように転がり落ちていった。
私は女王陛下がいらっしゃるであろう最上階を目指した。
夢の中なのか、疲れを全く感じない。
このまま突っ走れと私の脚が叫んでる。
下の階ではブリキの兵隊同士の戦いが続いて騒がしいものの、戦いだというのに上の階に上がるほど静かになっていく。周囲の階に兵士はいない。さっきまでの戦闘がまるで嘘みたい。
ついに最上階へと辿り着くと、そこにはホワイトスタードレスを着飾った女王陛下がいらっしゃる。
「女王陛下!」
「――あなたは!?」
私に気づいた女王陛下が目を大きく見開きながら私の名を呼んだ。
「娘には指一本触れさせんぞ」
いきなり横から髭を生やした金髪の男が長く立派な長剣で私を攻撃してくる。間一髪のところで持っていた剣を咄嗟に振るい、その長剣を払いのけた。
「待って! 私は敵じゃないの!」
「だったら何故その軍用服を着ているのだ!?」
「紛らわしい格好でごめんなさい」
私は慌てて剣を鞘へと納めると、敵対心を煽らないよう、赤い軍用服をその場に脱ぎ捨てた。そして女王陛下とお揃いのホワイトスタードレスが露わとなった。
その姿を見るや否や、金髪の男も戦意をなくして長剣を鞘へと納めた。
ふぅ、どうやら分かってくれたみたいね。
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