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chapter 5-6「女王奪還」

 オブリビオスとの交渉は意外にもあらぬ方向へと進んだ。


 自分たちに迷惑をかけずに連れだすというのであれば問題ないんだとか。


 それより問題なのは、忘却の実の効果を消すことよ。これさえどうにかすれば、歴史を元に戻すことができるわ。やるったらやる。それしかない。


「アリス、今その者を起こせば忘却の実による闇の魔力によって暴走しかねない。起こすのであれば、そなたらの世界へ帰ってからにしてもらうぞ」

「そうするわ。この黒薔薇の効果はいつまで続くの?」

「ここから離れてから半日ほどだ。それまでに闇の魔力を取り除かなければ世界が滅ぶ。元々はこやつの過ち故、どうなっても責任は取れんぞ」

「上等よ。今まで保護してくれていただけで十分よ」

「勝手にしろ」


 オブリビオスはその人骨姿を後ろに向けた。


 私はその間に黄袋に女王陛下を黒薔薇の入った棺ごと吸い込ませた。


 そういえば、この死神以外にも骨でできたモンスターたちがたくさんいたわ。もしかしてさっきの化石恐竜ってここのモンスターじゃないの?


 まるで狙ったように現れたけど、どうしてなのかが気になった。


「オブリビオス、さっき化石恐竜のようなモンスターと戦ったんだけど、もしかしてあれはここのモンスターだったりする?」

「ほう、そなた、ボーンレクスと戦ったのか?」

「ボーンレクス?」

「ここで一生を終えるはずだった恐竜だ。ここは死者の魂を弔う場所だが、時々魂の浄化を嫌がり、ここからの脱出を図る者たちもいる。恐らく逃げる時にそのゲートからそなたらの世界へ行ったのであろう。ならば我の管轄外だ」

「神様のくせに無責任なのね」


 結局見守ることしかできないのね。


 王宮の大臣たちと同じよ。自分たちは美味しいものを食べてばかりで、大変な仕事は全て平民に押しつけて一切の責任を取らない。私はそうはなりたくないわ。


 自分の運命を動かせるのは自分だけ。


 後でここからやってきた住民やモンスターたちを見つけてお掃除しておかないと。


 ずっと固定されたままの時空の穴へと近づいた。


「アリス」


 オブリビオスが後ろから私に声をかけ近づいてくる。後ろを振り返ると、オブリビオスの表情からは冷徹さを通り越して哀愁さえ感じた。


「ここに生者の居場所はない。分かったら……二度と来るな」

「――ええ、そうするわ」


 私はそう言うと、時空の穴を通ってネオアースの洞窟へと戻っていく。


 再び後ろを振り返ると、そこにはさっき見た結界がまた張られていた。


 ふぅ、どうにか女王陛下を取り戻したわ。あとは忘却の実による闇の魔力を取り除く方法だけど、一度エドに分析してもらう必要があるみたいね。


 私は辿った道を戻り、洞窟の外へ出た。


「うわっ! 眩しっ!」


 空からは満面の笑みを浮かべた太陽が私たちに日光を射してくる。これにはさっきまでオブリビオスに恐れおののき喋れなかったラットも思わず叫んでしまった。


「やっと喋ったわね」

「だってよぉ、あの死神めっちゃ怖いじゃん」

「でも凄く良心的だったわ。ちょっと無責任なところもあったけど」


 私は箒を召喚し、それに乗ってピクトアルバへと戻るところだった。


「あっ、いた! アリスー!」


 動物たちと共にここへやってきたエドたちに遭遇した。クリス様が真っ先に私に声をかけ、こちらへと近づいてくる。


 すぐに私を探しているのだと気づいた。


 クリス様は私に真っ先に飛びついてきた。両腕が必要以上に私の体を締めつける。苦しいから離してほしいんですけど。


「クリス、それにみんな、どうしたの?」

「どうしたも何も、あんたを心配してきたんじゃない。ハンナから全部聞いたわ。そこの洞窟に入って、深夜の騒動の原因を突き止めに行ったんですってね」

「原因は全て分かったわ。みんな、私の話をよく聞いてほしいの」


 エド、シモナ、ハンナ、クリス様、それに同行した動物さんたちが私に注目する。


 私はさっきまでの出来事を包み隠さず全て話した。


 時空の穴を通り、ダークデッドという闇の星へ行っていたこと、女王陛下を無事に保護したこと、女王陛下が忘却の実を食べてしまったことで、女王陛下にまつわる記憶が全て消え去ったことも。


 全員記憶を書き換えられていたこともあって、最初こそ信じられないと言わんばかりだったけど――。


「ふーん、何だか作り話のように聞こえるけど、アリスは嘘を吐くような子じゃないってことは知っているわ。だから私は信じるわ」

「ダークデッドか。確かこの世界のどこかに死者を弔う闇の星があると聞いたことがある。この前も妖精たちが住む遠い星まで行ったんだ。とても嘘とは思えない」

「つまり、その女王陛下がもう1人の王女様で、今は黄袋の中で寝ているわけね」

「ええ、半日以内に闇の魔力を除去しないと、全てを破壊し尽くすまで凶暴化するんだって、死神のオブリビオスが言っていたの」


 それを聞いた途端、私以外の全員が唖然とした。


 無理もない。エドたちはさっきまで周囲を荒らし回っていたダークデッドの住民やモンスターたちを倒したばかりであり、既に疲弊している状態だった。


 普通にやっつけようとしてもすぐに復活するため、クリス様の【刀剣(ソード)】によって作り出された【硫酸の剣(アシッドソード)】によって全員まとめてとかされた。


 私は魔力を吸い取ってから倒したけど、魔力があってもとかされた場合であれば復活は不可能。


 特に私を探し出すのに必死だったクリス様に躊躇はなかった。


「わたくしもアリスを信じるわ。それで、そのお方をどうすればいいのかしら?」

「まずはエドに女王陛下を【分析(アナリシス)】してほしいの」

「分かった。やってみるよ」

「わたくしの出番は終わったのね」

「クリス様の活躍のおかげでダークデッドの連中を葬れたんだから、それだけでも十分な貢献よ。だから元気出して」

「アリスぅ~」


 がっくりと落ち込むクリス様を励ますと、彼女がまた抱きついてくる。


 その間に黄袋の中へ入った女王陛下をエドが分析し、黄袋を持った私はエドの分析中に仲間たちとピクトアルバへ戻っていく。


 エドは眠る女王陛下以上に、この世のものとは思えない棺と黒薔薇に興味を持っている。


 黒薔薇の芳香で寝てしまわないように気をつけながら分析をしていくのだった。

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