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chapter 5-5「死神の星」

 薄気味悪い洞窟の中では夜行性のモンスターが潜んでいる。


 でも襲ってくる様子はない。今はそんな場合じゃないのね。もっと別の深刻な事態が起きているから、巣を守るために夜でも洞窟にこもるしかない。


 しばらく進むと、まるで蜂の巣のようにたくさんの通路を発見する。


 女王陛下がこの道を通ったのだとすれば、一体どれを選んだのかしら?


「道がかなり枝分かれしてるわね」

「これ、進んだら最後、ずっと帰れないんじゃねえか?」

「その時は最悪穴を掘って地上に出るわ。出口がないなら作ればいいじゃない」

「アリスが言ってたもう1人の女王陛下が通りそうな場所ってどこなんだろうな?」

「ここじゃない?」


 私の目に入ったのはボロボロになっている白いリボンだった。


 表面は長年放置され続けたことで黒くなっていた。すぐに【浄化掃除(クリーニングスイープ)】でリボンを真っ白に洗濯すると、純白を取り戻したリボンはそのオーラを発しながら私に訴えかけてくるようだった。


「すげえ奇麗なリボンだなー」

「これはきっと女王陛下のリボンよ。後から来た人が分かるように目印をつけたのよ。このリボンには魔除けの魔法がかかっているから、それでどのモンスターも近寄れなかったのよ」

「なるほど、これをつけていれば襲われないってわけだ」


 私たちはリボンが落ちていた通路を真っ直ぐ進んだ。


 少し遠くにある崖の上に黒い魔法陣のようなものを発見する。


「あれってこの前見た奴と同じ魔法陣じゃねえか?」

「でも色が違うわ。きっとあの先よ。ここを登るわよ」

「ここじゃ箒を使っても引っかかっちまうぞ。どうやって上るんだよ?」

「任せて」


 私は手袋を召喚すると、その手袋を手にはめてから岩にペタペタと手をつけながら昇り始めた。


 この手袋にはごみを吸着する機能が備わっている。


 いつもであればこの手袋を【自動掃除(オートスイープ)】で動かし、細かいごみの吸着掃除をさせているのだけど、これを手にはめれば、その吸着力によって急斜面を登るための道具としても使うことができる。表面についたごみは浄化されて消滅する。


「あったまいいなー。これなら壁でもすいすい登れるってわけだ」

「あともう少しよ」


 よじ登った先には先ほど下から見えていた黒い結界があり、結界には禍々しい悪魔の顔のような紋章が描かれていた。


 私は再び箒を召喚し、結界を解除してから奥へと進むことに。


「【解除掃除(スクラップスイープ)】」


 箒から魔法陣が出現し、それが黒い結界と重なり合い消滅する。


 ここまで進んでしまったら、もうエドたちでも来られないわね。でもあんなモンスターたちがピクトアルバを襲ったらとんでもないことになるわ。


 私は吸い寄せられていくように穴の奥にある一筋の光へと向かって走った。


 その光を通り抜けると、私の目の前には時空の穴のようなものがあり、そこから先は異空間であるとすぐに自覚した。


 この穴――確かこの前、別の惑星へ来た時にも見たことがあるわ。以前は明るすぎて一瞬しか見えなかったけど、今回は周囲が暗いこともあってハッキリ見える。


 その穴を通ると、薄暗い異様な空間が広がっていた。


 そこはまるで城の中の大きな一室であり、天井がとても高く、何かを大切そうに保管している部屋のようであると感じた。


「――! 女王陛下!」


 部屋の奥の棺には女王陛下がホワイトスタードレスを着たまま眠っており、その周囲は気味の悪い黒い花に覆われ、彼女は永久凍土の如くその場から動かない。早く助けださないと。


「お前は誰だ?」


 何もなかったはずの空中から灰色のマントを着た人骨の体を持つ者が現れ、その場で浮遊しながら直接私に話しかけてくる。


「私はアリス・ブリストル。あなたは誰?」

「我はオブリビオス。この闇の星、ダークデッドを管理する死神なり。そなた、何をしに来た?」

「そこで眠っているエリザベス女王陛下を返してほしいの」

「ほう、こやつの名はエリザベスと申すのか。だがそれは無理な相談だ」


 この死神、女王陛下の名を知らないのね。死神自身が彼女を忘れてしまったのか、それとも一切の会話をしなかったのかは分からない。


 1つ確かなのは、この死神が女王陛下を何らかの事情で管理しているということ。


「どうしてなの?」

「この者は何かの手違いで別の星からここへ来たのだ。その時空の穴は我でも閉じること叶わず、後から入り口を塞ぐのが精一杯であった」

「それと女王陛下を返さないことと何の関係があるの?」

「10年ほど前、何も知らずにやってきたこやつは禁忌を犯した。死神の儀式の供物として供えられていた忘却の実を食べたのだ」

「忘却の実?」

「さよう」


 死神は地上へスタッと降り立つと、何かを嘆くように下を向き、淡々と忘却の実がどんなものかを説明してくれた。


 何でも、このダークデッドにしか生えていない貴重な木の実らしく、ひとたびそれを食べれば、闇の魔力を得ることができるが、その代償として食べた者の歴史を自分以外の全ての人が忘れてしまう。


 しかも目を覚ましてしまえば、闇の魔力の影響によって自分ではコントロールの利かない状態となり、世界を破壊し尽くすまで暴れ回るほど凶暴化するため、オブリビオスは女王陛下を起こしてしまわないよう、睡眠作用のある黒薔薇で覆っているのだという。


 つまり、起こさなければ忘れ去られたまま永久に目覚めない。起こせば闇の魔力により暴走し、手がつけられない状況となる。


 ここの住民たちやモンスターは死者の魂を食べて生きている。


 食べられた魂は浄化され、再び命をもった生命としてどこか別の星へと転生するが、ここが乱されれば魂の循環が止まり、やがて全ての星の生命が邪悪な心を持ったまま歪んでしまう。


 確かにこの場から動かすのは危険ね。


「オブリビオス、このお方はとても大切なお方なの。それこそ、一国の命運を左右するほどの存在で、真に国を背負うべき女王陛下なの。だからせめて、眠ったまま移動だけでもさせてほしいの」

「そんなことをすれば黒薔薇は枯れ、忘却の実の副作用で、そなたらの世界は滅びの道を――」

「私も女王陛下もネオアースの人間よ。こっちのことはこっちで何とかするわ」


 私は覚悟を決めた。今を逃せば女王陛下を永久に取り戻せなくなると感じたから。

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