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chapter 1-5「風変わりな変人」

 この豪雪地帯に長居は無用ね。さっさと突っ切ってしまわないと。


「アリス、お前すげえな!」


 ラットがドン引きしながらも感心した目で私を褒め称えている。


 モンスターの気配はすっかりと消えていた。どうやらさっきのお掃除にビビったみたいね。


「そう? モンスターのお掃除って普通じゃないの?」

「いやいやいやいや! 普通に考えてあんなでっかいモンスターを1人で倒せる人間自体、遭遇できたらラッキーってレベルだぞ!」

「俺たちはラッキーだったみてえだな」


 えっ……みんな何言ってるの?


 モンスターくらい簡単にお掃除できなきゃメイド長にはなれないって言われてたくらいなのに……歴代のメイド長たちはさぞ多くのモンスターをお掃除してきたんでしょうね。


 だから一人前のメイド長になるために【掃除(スイープ)】を鍛えてきたのに――。


 でも追放された今となっては、一体何のための固有魔法か分からないわね。せいぜいどこかの家の掃除番として雇ってもらって、【掃除(スイープ)】を使ってご奉仕するくらいかしら。


 でもそれだとお給金も安いだろうし、もう王宮メイドにも戻れそうにないわ。


「――私、昔っから世渡り下手でね、それが元で歴代のメイド長たちに目をつけられては色んな無理難題(おしごと)を押しつけられてきたの。そこで【掃除(スイープ)】を駆使して色んな課題を乗り越えてきたのよ」

「その課題をこなした時、みんなはどんな顔してた?」

「さっきのあなたたちみたいに呆気にとられた顔をしていたわ。あれを見る度にスカッとしたものよ」


 私はその光景を思い出しながらたまらず笑ってしまった。


「……やっぱアリスには笑顔が似合ってるな」

「俺もそう思う。さっきは助けてくれてありがとな」

「俺からも礼を言うぜ」

「どういたしまして。ロバア、もしまたモンスターが出現したら私がお掃除するから、悪いけど、ピクトアルバまでは同行してくれないかしら?」

「ああ、いいぜ。ていうか俺だけじゃ冷凍肉にされちまいそうだからな」


 こうしてロバアがピクトアルバまでついてきてくれることに。


 でもどうしてピクトアルバの場所が分かるのかしら?


「ねえ、ロバア」


 素朴な疑問を持った私は荷台を引いているロバアに声をかけた。


「何だ?」

「どうして行ったこともないピクトアルバの場所を知っているの?」

「詳しい位置までは分からねえよ。ただ、北へ行けば自然に辿り着くって言われたから、それで道なりに北へ行ってるだけだ」

「……あんたってホントにテキトーなのね」

「生き方なんてテキトーでいいんだよ。真面目に生きようがテキトーに生きようが、ここまで生きてきた過程全てが宝物だ」

「その考え方は素敵だけど、仕事くらいちゃんとこなしてよね」

「へいへい」


 ――何だか心配になってきたわ。


 道も知らないのに、よくタクシーなんて務まるわね。


「お客さんに怒られなかったの?」

「道は全部お客さんに案内してもらってた。だから俺は報酬が安いんだよ」


 足を見られてたからこんな無理難題(おしごと)を引き受けたわけね。


 しかも行き先がどんな場所であるかも分からない。だからまんまと利用された。


 ロバアにも色々と問題ありだけど、1番の問題はバーバラよ。ラットがいなかったら、今頃私はロープで腕を封じられたまま、ロバアと一緒に冷凍肉にされていたのだから。


「おやおや、ここまでやってくるお客さんとは珍しい」


 休憩を繰り返しながら森を抜け、途中で何度か捕まえた牛や魚のモンスターを焼いて食べ、何日もかけて山を越え平原に辿り着いたかと思えば、いきなり背後から可愛げのある声で呼びかけられた。


 振り返ってみると、そこには私と同じくらい低めの背丈で痩せ型の少年が立っていた。


 髪は私と同じくらいの長さかしら。まるでガンマンのような茶色のジャケット、背中まで伸びているサラサラとした銀髪に大きめの帽子、腰には長く太い立派な剣、少年なのに女性のような顔立ちで声もちょっと可愛い。


「あなた、ここに住んでるの?」

「いや、ここから少し先にあるピクトアルバって場所に住んでるよ。さっきまで都市部に出稼ぎに行ってたんだけど、今その帰りなんだよね」

「私はアリス・ブリストル。あなたは?」

「僕はエドワード・カレドニア。エドでいいよ」

「エド、私たちはそのピクトアルバまで行く予定なんだけど、もしよかったらピクトアルバまでの道案内をしてもらってもいいかな?」

「いくら出す?」

「えっ……」


 もしかして、お金を取るつもり?


 どうしよう……お金は全部バーバラに没収されたばかりだし……今さら取りに戻る気力もないし、財布ごと没収されてしまったから、もう中身は残ってなさそうね。


「人に何かをしてもらうなら、働いた分の報酬を払うのは当然だろ。王宮で何年もメイドやってたくせにそんな常識も分からないわけ?」

「! ……どうして私が王宮でメイドをやっていたことを知っているの?」

「簡単だよ。今君が着ているその青と白の制服、王宮のメイドがいつも着ている制服だ。そしてその典型的な金髪碧眼の顔立ちとブロンドのロングヘアー、王都に住むメルへニカ人によくある特徴だ。財布も持たずにここにいるのは追放されたからだ。メイド長か役人に嫌われたんだろう。基本的に王宮のメイドはこんな辺境の地まで来ないからね。結論、君は王宮から追い出されてここまで運ばれてきた。違うか?」

「「「……」」」


 エドは突然早口で私の特徴を全て言い当ててみせた。


 私たちは凍りついたようにビックリしながら黙ってしまった。


 半分は感心、もう半分は恐怖かしら。


 この人――何者なの?


「ぐうの音も出ないか? なら教えてやる。これは僕の固有魔法【分析(アナリシス)】だ」

「【分析(アナリシス)】?」

「人や物を見ただけでその特徴を分析できる。そこから得た情報をもとに今の君のおおよその状況を言い当ててみたんだよ」

「すげえ固有魔法だな! これじゃ誰が相手でも丸裸ってわけだ」


 ラットがやれやれと言わんばかりの顔で本質を突く一言を放った。


 ちょっとムカつくけど、今はこの人に頼るしかないわね。


 これが……私とエドの出会いだった。

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[一言] 「――私、昔っから世渡り下手でね、それが元で歴代のメイド長たちに目をつけられては色んな無理難題おしごとを押しつけられてきたの。そこで【掃除スイープ】を駆使して色んな課題を乗り越えてきたのよ」…
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