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chapter x-8「メイドたちの末路」

 しばらくすると、1階の最も人気の少ない奥の方の部屋までジェームズ様の一行は進む。


 そこは広い王宮の最果てにある開かずの部屋であり、普段はここへの立ち入りは禁止されている。


 部屋の奥にある何の変哲もない白い壁には小さな鍵穴があり、ジェームズ様がその鍵穴にポケットから取り出した鍵を通すと、その鍵穴がパズルが崩れるように段々と広くなっていき、人が1人通れるくらいの闇に覆われた通路が現れた。


 ――王宮にまだこんな通路があったなんて。


 ずっとここに勤めてきたけど、まだこんな場所があったなんて。


 全然気づかなかったわ。メイド長の私ですら侵入を禁止されているくらいだし。


 ジェームズ様の固有魔法【火炎(フレイム)】により、彼の手の平に炎が灯されると、炎で通路を照らしながら暗い道を進んでいく。


「ここから先は階段になっているから気をつけるように」

「「「「「はい、ジェームズ様」」」」」


 一歩一歩足場を確認するようにジェームズ様とメイドたちが階段を下りていく。


 灰色の煉瓦が至る所に張り詰められ、まるで遺跡の中を探検しているような心境になっていく。


 最初こそメイドの訓練所にでも連れて行かれるのかと思いきや、段々とメイドたちの表情に焦りと違和感が募り始める。


「あの……ジェームズ様、私たちはどこへ向かっているのでしょうか?」


 不安に耐えられないのか、メイドの1人がたまらずジェームズ様に尋ねた。


「メイドの訓練所だ。もしそこでの訓練に耐えることができたら、メイド長に昇進させてやろう」

「本当ですか?」

「ああ。バーバラは本当に使えない女だ。命じられた仕事を他のメイドに命じてやらせることしか能がないともっぱらの噂だ」


 ! 嘘でしょ……ジェームズ様に今までのことがばれている。


 私は背中に冷や汗をかいた。そばにいることがばれたわけでもないのに。


 ていうかずっとそんな風に思われていたのね。でもいいわ。私の目標はあくまでメイド長じゃなく、王族か貴族に嫁いで一生リッチな生活をすることよ。それまでは決して諦めないわ。


 階段を下りた先には異様な空間が広がっていた。


 今までに戦力外通告されてきた多くのメイドたちが製造現場で働きづめの状態であり、そのそばには何人かの監視員が鞭を持ち、メイドたちを凝視しながら巡回している。


「お前たちは今日からここで働くことになる。ミスをすればあの鞭で叩かれる。作業ができなくなった者は処刑部屋へと運ばれるから気をつけるように」

「……そ、そんな」

「か、勘弁してください」

「お願いします。どうかご慈悲を」

「連れていけ」

「はっ!」


 ジェームズ様が冷たい表情のままそばにいた兵士たちに命じ、怯えているメイドたちが作業場へと連れていかれた。


 彼女らは自分たちがこれからどうなるのかを悟った。だが時すでに遅し、もう逃げることもできないまま作業に従事させられている。


 何か部品のようなものを手作業で作っているみたいだけど、あれは一体――。


「作業はどうなっておる?」

「!」


 私の目の前を見覚えのある顔が横切った。


 先ほど玉座の間におられた女王陛下がここまでこられた。


 すると、何やら1人のメイドがぎゃあぎゃあと騒ぎながら監視員に運ばれていき、奥の部屋へと無理矢理連行されていく。


「やめてっ! 嫌よ! 処刑されるなんて冗談じゃないわ! やめてぇー!」


 女王陛下とジェームズ様は無表情のまま作業場を見つめ、鞭で叩かれながら処刑部屋へと送られていく者を見ても顔色1つ変えなかった。まるで捨てられていくごみを見ているような目だ。


 私はこんなにも無慈悲な方々に仕えていたっていうの?


「ええ、今のところ順調です」

「?」


 順調ってどういうことかしら?


 2人の会話を聞く限りでは、ここは秘密裏に作られた兵器製造工場であるとのこと。


 メイドの中で最も無能な者たちを単純作業に従事させ、食事も休みも満足にとれないまま常に働かされてしまい、働けなくなった者は処刑部屋へと案内される。これじゃまるで昔の奴隷じゃない!


 そういえば、処刑部屋って何なのかしら?


 段々気になってきたわ。あのメイドには悪いけど、一度でいいから見て見たくなった。


 私の好奇心は留まるところを知らず、この異様な光景に恐怖しながらも全てを知ることを優先しようとしている自分がいる。今は透明だし、誰も気づいていないのだから覗いちゃおうかしら。


 そう思っていると、女王陛下とジェームズが処刑部屋の向かい側にある部屋へと向かい、そこにある窓から処刑部屋を見つめている。私は2人の後をつけ、同じ部屋へと入った。


 ――!? 何なの……これ?


 窓越しに見えるのは見たこともないモンスターが人間の作った武器や防具を装備している光景だった。


 ドラゴンのような禍々しい顔の二足歩行、5本の指を持つ強靭な腕と足、空を覆うような立派な翼には大砲のようなものが取りつけられており、両手の腕は鋭い剣へと姿を変えることができるようだった。


 そう言えば聞いたことがあるわ。王宮は秘密裏に兵器を作り、それで外国の侵略を狙っていると。ただでさえ強そうなこのモンスターに最新の兵器まで装備させるなんて、考えただけでぞっとするわ。


 その武器を持ったモンスターは処刑部屋へと入れられたメイドをニヤリとした顔で見つめた。


「きゃあああああっ!」


 空気を震わせるような悲鳴と共に、剣と化した腕でメイドの体が目にも止まらぬ速さでサイコロステーキのように切断されていき、バラバラになったメイドの死体をモンスターが食していく。


 その残虐な光景を前に、私は吐き気すらした。


 真っ先に頭に浮かんだのは逃げることだった。もし無能と見なされれば、私もいつこうなるか分かったものではないと確信していた。


 私は慌ててメイド長室へと戻り、その日は体調不良で休みをとるのだった。

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