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chapter x-7「不審な募集」

 クリス様が行方不明になって数日が過ぎた。


 メイド部隊を再編制したまでは良かったけど、以前より練度が下がっているわ。


 戦闘なんて一度もやったことがないのがすぐに分かった。


 このままじゃモンスターがやって来た時にまた私の責任が問われちゃうじゃない。だったらいっそのこと、最初からメイド部隊の隊長に全権を与えた方が良さそうね。


 そう思っていた頃、ポール様が困った顔でメイド長室へと入ってくる。


 足音には以前のような覇気がなく、いつもより大人しい様子。アリスがなかなか戻ってこないために苛立っているみたいね。こっちはこっちでアリスがいないとまずいから分かるわ。


「ポール様、一体どうなさったのですか?」

「クリス様が行方不明になったことがスカンディア王国にばれた」

「! それで、王室は何と?」

「すぐに行方を捜し、見つけ次第報告しろとのことだ。もしクリス様に万が一のことがあれば、メルへニカとの国交を断絶するとのことだ。王室からの使者1人まともに管理できない国とはつき合う価値がないとのことだ。女王陛下もかんかんにお怒りだ」

「ただいまスーザンとセシリアを探しているところです。あの2人さえ見つかれば、クリス様も見つかるかと――」

「メイドのことなどどうでもいい!」

「!」


 ポール様が感情の赴くまま私に向かって怒鳴った。


 まるで口から火を噴くような勢いでその焦りを私に示した。


 たとえメイド2人が犠牲になっても、クリス様さえ助かればそれでいいのね。たとえクリス様のお供が私であっても――。


「ではラバンディエの者たちにピクトアルバを探させてはいかがでしょうか」

「もうとっくに手配は済ませた。なのにまだ見つからないんだ」

()()()からは手紙はどうなっているんです?」

「アリスが次々と住民を助け、今やピクトアルバに馴染んでいるそうだ。せっかく許嫁(いいなずけ)に指名したというのに、何というざまだ」


 ポール様は両腕を激しく握り、憤りを前面に出しながら髪を逆立てている。


 どうにかしてアリスを連れ戻さなければいけないわ。


 でないといつまで経っても王宮の混乱は収まらないわ。この綻びから生じた穴を塞がない限り、いつ女王陛下から死刑宣告を受けるか分かったもんじゃないわ。


「それと、女王陛下がメイドを募集中だそうだ」

「まだ外からメイドを募集しろと仰るのですか?」

「そうじゃない。今この王宮で働いているメイドたちの中で、最も役に立ちそうにないメイドや、引退を目前に控えているメイドを探し、明日までに10人以上連れてこいとのことだ」

「……かしこまりました」


 わけも分からないまま返事を済ませると、ポール様がメイド長室を後にする。


 今日のところはもう用済みってことね。最近はポール様の心情が手に取るように分かるようになってきたわ。こんなに想っているのに、どうして彼は見向きもしないアリスなんかを……。


 それにしても、引退を目前に控えているメイドならともかくとして、何故最も役に立ちそうにないメイドまでを連れて行かないといけないのかしら?


 とりあえず10人ほど、役立たずと評判の者、もしくは60を過ぎてあまり仕事をしなくなったメイドたちを集めた。


 あまりにもメイドが多いから、少し()()()()()ということでしょうけど、それなら何故こんなにもメイドを雇う必要があるの?


 数を減らすくらいなら、最初から雇う必要なんてないはず。


 これは原因を突き止める必要がありそうね。


 どうしても気になって仕方ない私は策を講じた。メイドたちを女王陛下の元へ連れて行き、こっそり後をつけてその真相を確かめることに。


 翌日――。


「ふむ、こやつらがそなたの選んだメイドだな?」

「はい、女王陛下」

「もうよい。そなたは下がれ」

「かしこまりました」


 赤く染まった玉座の間には条件に見合ったメイドたちが10人ほど縦2列横5列に並んでおり、他にはジェームズ様意外は誰もいない不自然な状態であった。


 いつもであれば他の大臣たちや側近たちが揃っているはずなのに。


 前にもこんなことは何度かあったけど、今回ばかりは彼女たちの行方が気になった。


 以前も役立たずのメイドと老人のメイドを連れてくるよう言われ、いつも連れてきた直後に私が退場を命じられ、その後のことは知らぬ存ぜぬままだった。


 私は誰もいない廊下で透明薬を飲み、聞き耳を立て、しばらく様子をうかがうことに。


 透明薬により、私はしばらくの間、周囲から認識されなくなる。


 買い出しに行った時、万が一の場合に備えて買っておいた甲斐があったわ。使った時点での服装ごと透明にできる高級品だけど、手に入れるのは苦労したわ。


 そんな私の違和感を遮るように、女王陛下は音もなく立ち上がると、彼女らの周囲を歩きまわりながら口を開いた。


「お前たちは王宮内で居場所がないであろう。そのような無能を置いていても仕方ない故、そなたらには訓練を受けてもらう。なに、すぐに終わる。ジェームズ、彼女らを連れて行け」

「はい、女王陛下」


 名を受けたジェームズ様が玉座の間の扉を開けると、メイドたちと共に歩いていく。私はその後をこっそりついていった。


 ジェームズ様は何故こんなにメイドを雇っているのかを教えてくださらなかった。隠すということは知られてはいけない何かがある。私はそれを敏感に感じ取っていた。


 もし私が見ていると知れたら――いや、考えたら負けよ。


 メイド長たるもの、王宮内で行われている事全てに目を通す必要があるわ。


 女王陛下が何をお考えなのかは分からない。でも私にはそれを知る権利があるはずよ。何か分かれば儲けものよ。これはポール様にもお伝えするべきね。


 ジェームズ様たちの一行は歩みを止めず、そのまま1階まで下りるのだった。

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