chapter 4-10「夢の中で交わした約束」
窓越しに見える星空がとても奇麗ね。
まるでこのホワイトスタードレスみたい。今だったらあの星空に手が届きそうな気がする。
これを着ていれば同じドレスを着た人に会えるって聞いたけど、名もなき女王陛下がここにやってくる様子はない。やっぱり自分で探すしかないのかしら。
「ラット、本当にこれを着ていたら、名もなき女王陛下に会えるのかな?」
「言い伝えだろ。迷信かもしれねえぞ。でも案外近い場所にいたりしてな。ふわぁ~、なんか眠くなってきたから寝るわ。じゃっ、お休み」
ラットはそう言いながら寝てしまった。全く、ホントに気ままな子ね。
「……お休み」
私は再び大の字でベッドに横たわり、またしても天井との睨めっこが始まる。
名もなき女王陛下に会いたい。会って居場所を聞き出したいという想いが募っていくばかり。一体どうすれば会えるのかしら。
今日行った別の惑星には楽園のような光景が広がっていた。
人間が1人もいない惑星に住む生物たちは本当に自由奔放で楽しそうだった。あそこだけじゃなく、ゲートを通して色んな惑星に繋がっているのだとしたら。
あれこれと考えている内に段々眠くなってくる。
私は眠気に従い意識を睡魔に飲まれていった――。
「アリス……アリス……」
「――! あなたは……」
目の前には白い雲が広がり、大空に包まれているかのような空間が広がっている。
そしてあの白い髪の女性が私に微笑みながら柔らかい口調で話しかけてくる。
とても色白で奇麗。しかも私と同じくホワイトスタードレスを着ている。やっぱりあの言い伝えは本当だったのね。確かに同じドレスを着ている人と会えたけど、それは夢の中だったのね。
「妾はエリザベス・メルへニカ。もう1つの王都、ラバンディエで即位したメルへニカ女王である」
「……女王陛下……あなただったのですね」
「まさかそなたが妾の元へ辿り着いてくれるとは思わなかった。アリス、やはりそなたこそがこの世界の救世主。妾の予知に間違いはなかった。まだ見ぬ救世主に、ずっと夢を通して祈りを届け続けていたが、なかなか届かなかった。だがそなたは妾に会うための手掛かりを探してくれた。感無量である」
「女王陛下、あなたが処刑の日に行方不明になった話を聞きました。今どこにいるんですか?」
「……それは妾にも分からぬ。アリス、あれを見るのだ」
私は女王陛下と共に空の上から見覚えのある地上を眺めている。
当時の女王陛下がドレスを着たまま地上を走って逃げている。追ってくるのは収容場所を見張っている牢番たち。
そして驚くべきことに、牢番たちの後ろにはまだ幼き頃のエドが立っていた。
どうしてエドがあの場所にいるの?
これは女王陛下が私に見せている幻ね。それは分かったけど。
「妾は王位継承戦争の末に敗れ、姉に捕らえられて処刑の日を待つばかりであった。妾はどうにか逃げ出そうと隙を見て牢番から鍵を奪い外へ出た。そして遠くにある洞窟へ避難したまではよかったのだが、そこから先の記憶がないのだ。だが妾の本体は今もどこかで眠り続けておる。それだけは確かだ。アリス、どうか妾を、そしてこの世界を救ってほしいのだ」
落ち込み気味の表情のまま顔を下に向けて女王陛下が言った。
「はい、女王陛下」
やっぱり王女は2人いた。そしてメアリー女王が戦いに勝利して王位を継承し、敗れた女王陛下は処刑の日に行方をくらました。
処刑の日にいた場所、そして逃げ込んだ洞窟を特定すれば、女王陛下に会えるってわけね。
でもあの地形はどこかで見たことがあるわ。近くには大きな湖、そして女王陛下はそのすぐそばにある洞窟へと駆け込んだ。
「アリス、そなたならきっとこの世界を救える。そなたは選ばれし者なのだから」
「女王陛下、私――!」
さっきまで女王陛下がいたはずの場所に顔を向けるが彼女の姿はない。
どうやら消えてしまったらしい。夢で私と会える時間は限られていた。もっとたくさん話したいことがあるのに、もうこれ以上は駄目だっていうの?
「アリス、アリス、朝だぞ」
「!」
気がつくとベッドの上にいた。目の前には私を起こそうと掛布団の上に乗っているラットがいる。
外の星空は姿を消し、入れ替わるように日光が部屋の仲間で差し込んでいた。
「アリス、そう言えばお前、何でそんな格好で寝てるんだ?」
ハンナが物珍しそうな光景を見る顔で私に尋ねてくる。
「何でって、それはエリザベス女王陛下に会うためよ」
「エリザベス女王陛下? 何を言っているんだ? 女王はメアリー女王しかいないはずだぞ」
「そうだぜ、お前はポールからの求婚を断ってこっちへ来たんだろ」
「何言ってるのよ。女王陛下は2人いて、メアリー女王がもう1人の女王陛下を倒したのよ」
「作り話か。全く、アリスは本当に発想が豊かだな。いっそ作家でも目指したらどうだ?」
「!」
嘘でしょ……みんな昨日までのことを忘れているっていうの。
王位継承戦争のことも訪ねた。でもハンナはそんな戦争はないって言うし、ラットたちもおとぎ話のような感覚で私の話を聞いている。
急いでエドの元へ行って同じことを尋ねた。でも結果は同じだった。シモナも同様に記憶を書き換えられている。
突然の周囲の変化に、私は心にぽっかりと穴が開いたように涙する。シモナは慌てて私を慰め、エドはため息を吐きながら逃げるように2階へと上がっていく。これじゃさっき夢で見たエドのことなんて聞きようがないじゃない。
まさか、私以外は全員元の歴史を忘れたっていうの?
もう私だけなのね――だったら私だけでも、この世界を救ってみせるわ。
女王陛下と交わした大切な約束だから。
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