chapter 4-9「謎に包まれたゲート」
私はエドたちに感謝するも、いつの間にか妖精たちに囲まれていることに気づく。
周囲には見たこともない妖精たちがたくさんいる。コットンシープのように体から植物の生えた動物、周囲の木々の溶け込めそうな体の妖精たちがこちらを見つめている。
やはりコットンシープはこの星からあの巣穴を通してやってきたのね。
「そなたら、先ほどの助太刀、誠に感謝する」
フェアリウスが頭を下げた。私たちは自己紹介をし合った後で事情を話し合った。
エドが言うには、メルへニカを中心に今まで見たこともない動物やモンスターがここ数百年の間に何度も目撃されるようになり、ここに来たことでその現象の正体が掴みつつあるという。
彼はしばらくこの場所を【分析】を使いながら調査していたらしく、さっきのドラグノスの巣穴も既に分析済みなんだとか。
何らかの強大な魔力が働き、通常であれば交わることがない惑星同士を繋ぐゲートのようなものが所々にできており、人の手ではとても探せなかった。
昼間はそのゲート自体が結界で目立たない状態だったし、夜は出かけないのが通例である上に結界を破らないと通れないから、それで見つからないままだったのね。
「ふむ、そなたらの事情はよく分かった。まさか惑星同士を繋ぐ現象が起きているとは」
「ていうか結界を破れる人ってそうそういないからね」
「ああ、結界は何度か見つけたことがある。だが私でも破れなかった。全く大した奴だ」
「でもこれでコットンシープの綿は何とか手に入ったわ」
「一時はどうなるかと思ったけど、アリスの執念にはひやひやさせられるぜ」
目的は達成したけど、もう少しだけここを見てみたい自分がいる。
まだゲートが閉じていないようだったら、今度遊びに来ようかしら。
「先ほど我らを助けてくれたお礼だ。ここの資源の採取を許可しよう」
「それはありがたいけど、もう帰らないと」
「そうか、ではこれを持っていけ。きっとそなたらの助けになる」
フェアリウスが私たちに差し出してきたのは大きな植物の種だった。
説明によれば巨木の種らしく、とても不思議な果実が育つんだとか。
私はその種を青袋に詰め込むと、私はシモナを箒の後ろに乗せ、ハンナはエドを背中に乗せてドラグノスの巣穴を通っていく。
しばらくして巣穴を通り抜けて後ろを振り返ると、そこにはまた結界が復活していた。
「――あれっ、また結界が復活してる」
「恐らく形状記憶結界だ。一度消してもしばらくすればまた復活するよう、周囲の空間に魔力が施されている。かなり高度な魔法だ」
「でも内側からは通り抜けられるみたいね」
「あれなら他の人に侵入されることもないだろう。ドラグノスは結界を無視できる上級モンスターだから通り抜けられた。まさかあそこから珍しいモンスターが漏れ出ていたとはな。もしこの現象の原因が分かれば、世紀の大発見になるかもしれないぞ」
「でもあの場所を公表なんてしたら、フェアリウスたちに迷惑がかかるわ」
「まっ、ばれたところでアリスがいないと侵入できないけどな」
そんなこんなで、私たちはノース峡谷からピクトアルバまで戻ってきた。
しかし、この時にはまた記憶の書き換えが進んでおり、ビットだけじゃなく、タビーやリンネまでもが記憶を書き換えられていた。
いくら王位継承戦争のことを話してもおとぎ話のように受け取られてしまう。
事態は確実に深刻化していた。
これで元の歴史を知る者は、私、エド、シモナ、ハンナの4人のみ。全員が元の記憶を失えば、世界が丸ごと変わってしまう。
ホワイトスタードレスは手に入れたし、それを治す手段も確保したけど、これを手に入れてどうしろっていうのよ。手がかりはこれしかないけど、一体どうすれば――。
しばらく仮眠を取ってから昼を迎え、私は掃除屋としての活動を始めた。
しかし、一向にお客さんが来ないまま夜を迎えた。そこで、暇潰しにドレスを直すことに。
「アリス、コットンシープの綿を手にしたのはいいが、それでどうやってドレスを直すんだ? ロージーさんの元へ行って直してもらった方がいいんじゃないか?」
「多分――もう記憶が書き換わってると思うわ。このドレスの記憶がなくなったら、もう治すこともできないと思う。でも心配はいらないわ。これを使えばね」
「緑袋をどうするつもりなんだ?」
「まあ見てて」
私は緑袋にボロボロのホワイトスタードレスとコットンシープの綿を入れた。
そして袋の口を閉じると、それを何度も振ってみせた。
緑袋に食材を入れれば料理になるけど、ボロボロの服と服の材料を入れた場合は――。
「……ホワイトスタードレスが……完全に修復しただと」
ハンナが関心の目で傷1つないホワイトスタードレスを見つめている。
緑袋の錬金魔法には驚くばかりね。元々はキッチン用のごみ袋として箒の魔力で作ったのだけど、食材同士を合わせてみたらあらビックリ、料理が完成したのを見てから緑袋の便利さに気づいたのよね。
周囲の動物さんたちもみんなこの出来栄えに驚いている。
残念なのはそれを始めてみたかのような反応であったこと。それはつまり、名もなき女王陛下を忘れていることを意味していた。
「そのドレスが直ったのはいいが、それでどうやって名もなき女王陛下を見つけるんだ?」
「ロージーが言うには、これを着ていると同じ服装の人に会えるっていう言い伝えがあるんだって」
「だったら一度着てみたらどうだ?」
「ええっ! 私がこれを!?」
「アリスならきっと似合うと思うぞ」
「……しょうがないわね」
私はハンナに言われるままホワイトスタードレスに着替えた。
鏡に映る私を見てみる。純白のドレスに身を包む少女。まるで私じゃないみたい。思わず惚れ惚れしそうになるこの美しさ、やっぱりこのドレスには何かあるように感じるわ。
結局、この日は誰も掃除の依頼に来なかった。
私はドレスを着たまま明かりを消すのだった。
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