chapter 4-3「猛毒の蜂軍団」
エドたちが私を待っている中、そんなことはお構いなしに私たちの会話が続く。
「アリス、私はあなたのことはよく分からないけど、あなたに友人がいないというよりも、あなたが人に対して心を開いていないように見えるわ」
「えっ? ……それ、どういうこと?」
「人間のお友達が欲しいなら、もっと周りの人たちを信じることね。当たり前のことを言うようだけど、人間は1人じゃ生きていけないのよ。だから信頼し合えるお友達が必要なの」
「周りの人たちを信じる――」
「アリスー! 早く行くわよー!」
シモナの呼び声が玄関からリビングにまで響き、それが私の足を急がせた。
「ごめーん、今行くねー。じゃあ私、帰るわね。これ、大事にするわ」
「いってらっしゃい。久しぶりにドレスの話ができてとても嬉しかったわ」
「私もよ」
ロージーがそっと微笑みを浮かべると、私はそのまま外に出てエドたちに合流する。
これを持って行ってしまえば、きっとロージーの記憶は書き換えられ、ホワイトスタードレスのことさえ忘れてしまうかもしれない。でも私は忘れない。
お店を閉めた後でも、あんなにボロボロになるまで捨てずにとっておくほどの想いがつまったドレスだもの。
でもまずはこのドレスの原料を見つけてドレスを直さないとね。まずはその原料の綿を持っているコットンシープを見つけないと――。
「アリス、さっきまで何を話してたわけ?」
「色々と世間話をしていたの。ところでエド、コットンシープって何?」
私以外の全員がずっこけそうになる。
ふふっ、てっきりみんな私がモンスターに詳しいと知っているものだと思っていたみたいね。名前からしてモンスターなのは分かるけど、やっぱりここら辺の知識には疎いわ。
大人しいモンスターだったらいいけど、凶暴そうなモンスターの場合はお掃除して素材を手に入れるまでよ。でもどこにいるのかしら?
「知らねえのかよ。コットンシープは草原に住む羊型モンスターの一種で、体の周りから綿の枝が生えているのが特徴だ。その枝から生えてくる綿はとても価値が高いから、主に高級な服の材料として使われている。でもコットンシープは数が少ない上に、この季節だと飼育されているコットンシープの綿は既に採取された後だろうから、手に入れる手段があるとすれば、野生のコットンシープを見つけるしかない」
「でもコットンシープって、希少なモンスターなんでしょ」
「シモナ、草原まで移動したら、コットンシープを探索で探してほしいの」
「分かったわ。任せて――」
用を済ませた私たちが草原まで移動しようとした時だった。
「きゃあああああぁぁぁぁぁ!」
「「「「「!」」」」」
突然、街の人の悲鳴が私たちの鼓膜に鋭く突き刺さった。
「きゃあああっ! モンスターよっ!」
声が聞こえた方向へと急いでみれば、森の方向から人と同じくらいの大きさを誇る蜂の軍勢が現れた。
黄色と黒のしましま模様の体色に長い脚、目にも止まらぬ速さで音を出しながら動く羽、銃口のような形の尻尾は数多くの敵を葬ってきたことを思わせる迫力を持っていた。
「あれ、ビーネットじゃない。何度か見たことあるわ」
「ビーネットは山や森に生息する蜂型の下級モンスターだ。集団で人や動物を襲う凶悪なモンスターで、あの尻尾から発射される猛毒針に刺さったらお陀仏だ。300匹以上はいる。気をつけろ」
街の人たちは逃げ惑い、その一部はビーネットの猛毒針によって全く動かないまま倒れていた。
しかもビーネットたちが私たちに気づくと、その俊敏な動きで私たちを取り囲んでしまい、青空が見えなくなっていた。一部のビーネットたちは市場の食物を漁っている。
逃げるつもりはなかったけど、いざ取り囲まれると厄介ね。
私たちはそれぞれの仲間に背中を預け、4方向を向いて武器を構えた。
私は【女神の箒】を召喚し、エドは【裁断の聖剣】を鞘から抜き、ハンナは【大空襲の翼】を肩の近くに召喚し、シモナは【無限の銃】を取り出し、それぞれが武器をビーネット軍団へと向けた。
小隊長にあたるビーネットが私たちに衝撃波のような雄叫びを上げてくる。
「抵抗する人間共は皆殺しだって言ってるぞ」
「ラット、モンスターの言葉分かるの?」
「ああ、この前までは口も利かずに襲ってくる奴ばっかりだったけど、こいつらは俺と話せるくらいの知性は持っているらしい」
「どうやら僕らが持っている武器を警戒しているようだ」
私は箒にブレードモードを命じると、穂先が鋭く真っ直ぐな剣へと形を変えていく。
そしてまたさっきと同じビーネットが雄叫びを上げた。
「10秒やるから武器をしまって立ち去れだってさ」
「――5秒やるから私の視界から消えろ」
ハンナが冷徹な目でビーネットたちに言い返した。事実上の宣戦布告だった。
そして5秒が経過しようとした時、1匹のビーネットの尻尾が動いた。
しかし、その尻尾から猛毒針が発射される前に、咄嗟に反応したシモナの銃弾が頭に命中し、撃ち落されると共に絶命した。その頭からは緑色の体液がドロドロと外へ漏れ出ている。
この銃弾を皮切りに戦闘が始まると、シモナは次々とビーネットたちにヘッドショットを決め、ハンナもシモナの店で買った二丁拳銃で応戦する。敵が怯んだところでハンナは空へと羽ばたき、約半数のビーネットがその後を追った。
地上ではエドが素早い動きでビーネットたちを聖剣で切り裂き、それを援護するようにシモナがエドを攻撃しようとするビーネットを打ち落とす見事な連携だった。
だったら私も応戦しなきゃね。1匹残らずお掃除してあげるわ。
私は箒の刃先をビーネットたちに向けた。
「お掃除の時間よ。【斬撃掃除】」
眩い光を放つ刃先から三日月のような形をした鋭い剣の波動が無数に飛び出し、それらがビーネットたちを次々と切り刻んでいく。
私はエドたちの様子を確認しようと後ろを振り返った。
「アリスっ! 危ないっ!」
「えっ――」
私は飛び込んでくるエドに抱きつかれ、彼と共にその場に転がり込んだ。
この時、私はとんでもないミスを犯したのだとようやく気づいた。
エドの足には1本の細長い紫色の針が刺さっていた。彼は気合で猛毒針を引っこ抜いて捨てたが、即効性の猛毒なのか、すぐに彼の表情に疲れと汗が見えた。
「エドー!」
私は思わず叫び彼に駆け寄った。あれほど警戒していた猛毒針を彼が受けるなんて。
「ちっ!」
シモナがエドに猛毒針を撃ったビーネットを撃ち落として駆け寄ってくる。
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