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chapter x-6「行方不明の王女」

 私はメイド部隊の再建を担当しつつ、アリスの行方を探すことに。


 アリスの追い出しを担当させたスーザンとセシリアの2人を連れてくると、どのようにして追い出したのかを問いただした。


「何ですって! アリスを1頭の馬の荷台に乗せてピクトアルバまで送ったぁ!?」

「はい。2人で相談して、気絶しているアリスを何も知らなさそうな馬に頼んだんです。途中でモンスターに襲われても逃げられるように、馬用の防具を装備させて行かせました――」


 震えた声で説明をするスーザンのほっぺを反射的にバチッとはたいた。


 信じられない。馬1頭に任せて自分たちは行かなかったっていうの?


「どうしてアリスと同行しなかったわけ?」

「……ピクトアルバには凶悪なモンスターが多く生息していると聞いたので――」


 今度はセシリアのほっぺにバチッと衝撃が走った。


 要するに自分の手を汚したくなかったから一緒に行かなかったわけね。どうりで戻ってくるのが早かったわけね。


 2人が言うには、人気のない場所で1頭の馬にアリスを任せた後、ピクトアルバまで同行したと見せかけるために厚着の格好で外に出かけた。


 そしてアリスが凍死しないように分厚い毛布までかけたという。


 余計なことをしてくれたわね。でも凍死していれば私がポール様に咎められていたわけだから、ここは咎めるべきではないわね。


「あなたたち、今すぐピクトアルバへ向かい、アリスを連れ戻してくるのよ」

「「ええっ!」」

「そんな……いくら何でも無茶ですよ。2人であんな辺境の地まで行けだなんて」

「アリスを連れ戻すまでは戻ってこなくて結構よ。期限は1ヵ月以内、それで連れ戻せなかったら除名処分よ。いいわね?」

「「はい……」」


 スーザンとセシリアが下を向きながら返事をする。


 2人はアリスと一緒に行かなかったことを後悔しているようだった。


 この2人はアリスと比較的仲が良かったはず。連れ戻せたら私の株が上がるし、連れ戻せなければこの2人のせいにして次のメイドを送ればいい。


 これだけでも私がアリスを連れ戻そうとした努力は伝わるし、これでしばらくは時間を稼げるわ。


 ただ、問題はアリスが戻ってきたら、もうこの前みたいな扱いはできないわね。


 スーザンとセシリアはこの日の内に渋々ピクトアルバへと出発した。


 だが王宮の混乱は収まらなかった。


 数日後――。


「それは……本当ですか?」


 私はジェームズ様からの突然の報告に舌を巻いた。


「本当だ。クリス様が行方不明になった。どうしてちゃんと見ておかなかったんだ?」

「申し訳ございません。クリス様には専属メイドがついていたはずなのですが――」

「その専属メイドがピクトアルバへ行くと言うから、興味を持ったクリス様も一緒に行くと手紙を残し、そのまま誰にも気づかれずに王都を飛び出したんだぞ!」

「!」


 一瞬、私の中の時間が止まったように思えた。


 ジェームズ様はそんな私の正面に立ちながら厳しい表情を向けてくる。


 しまった! あの2人はクリス様の専属メイドだったことを忘れていたわ! メイドたちの中でも全然仕事ができなかったグズ共だけど、世話係ならできると思って任せていただけに迂闊だった。


「クリスはスカンディア王の娘で、ゆくゆくはメルへニカの王族に嫁いでもらうため、ここで宝のように大切に預かっていたのだ。彼女はメルへニカとスカンディアを結ぶ懸け橋だ。もしクリスに万が一のことがあれば、スカンディア王国との国交断絶は免れぬ。そうなれば……ただでさえ周辺国との仲が悪くなっている我々は、国際社会からの孤立を余儀なくされるのだぞ!」


 物凄い剣幕でジェームズ様が怒鳴った。


 宰相がここまで怒るということは相当追い詰められているということ。


 まだ外に情報は漏れていないものの、既に女王陛下の耳には入っているため、ジェームズ様は一刻も早いクリス様の連れ戻しを急かされる格好となっている。


 まさかクリス様がピクトアルバに興味を示すだなんて――。


「ただでさえメイド部隊再建のためにアリスを連れ戻さねばならんというのに、もう1人追加で連れ戻す必要が出てきた。私からも使者を送ろう。それとラバンディエにも連絡をしておかねばな。それにしても何故クリス様のメイドたちはピクトアルバへ行くと言い出したのだ?」

「――実はスーザンとセシリアが以前からピクトアルバに興味を持ち、いつか旅行で行ってみたいともっぱらの噂で、おそらくそれがクリス様のお耳に入ったのでしょう。悪いのはその2人です」

「なんということだ。クリス様に辺境へ行くことを示唆するとは。クリス様は好奇心が旺盛で、思い立ったらすぐ行動する性格でいらっしゃるというのに。とにかく、このことは内密にな」

「承知しました」


 ジェームズ様がメイド長室から立ち去っていくと、1人になった私はホッと胸をなで下ろす。


 ふぅ、これで私が咎められることはなくなったわ。ここんとこずっと心休まる日がないわ。まだ夕方だというのにもう疲れてきた。アリスは朝早くから深夜まで働いても全然へこたれなかったわね。


 早くメイド部隊の招集を始める必要があるわね。


 アリスを連れ戻したら、メイド部隊の隊長に就任してもらって、また色んなメイドの仕事に従事してもらうしかないわね。


 またモンスターでもやってきたら、女王陛下の前で顔から火が出そうだわ。


 アリスが王宮メイドの中でも重要な位置を占めているとは思わなかった。


 彼女は固有魔法【掃除(スイープ)】によって、掃除、料理、洗濯、戦闘、回復、採取といった仕事をこなし、貴族たちから人気があった。


 私はそれが心底気に入らなかった。あの子さえいなければとどれほど思ったか。


 でも彼女はこの王宮に必要だった。本当に馬鹿なことをしたわ。

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