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chapter 3-9「不穏な距離感」

 数日後、私はハンナや愉快な動物さんたちとの新生活に馴染みつつあった。


 ピクトアルバにある店舗や一軒家などから掃除の依頼が来るようになったのは嬉しいけど、部屋のお掃除だけでなく、度々やってくるモンスターのお掃除も任されることに。


 ただ、みんなに錬金魔法のことが知れ渡ってしまったのか、一部を除く住民からは初対面の時よりも警戒の目で見られるようになったのが気にかかる。


 エレナは今まで通りに接してくれているけど、オルディアレスに行きづらい日が続いた。


「アリス、家の掃除頼みたいんだけど」


 私がハンナと一緒に庭の掃除をしていると、そこにいつもと変わらない様子のシモナが現れた。


 肩に届かないくらいのブロンドの短髪をなびかせ、いつ戦闘になってもいいように背中のホルスターに小銃を持ち、小さく細身の体にフィットする白を基調とした動きやすくて可愛い服装。


 見た目は凄くチャーミングで愛嬌もあるし、とても1000人以上を射殺した人とは思えないわ。


「いいけど、うちに来て大丈夫なの?」

「大丈夫よ。確かにみんなアリスのことを警戒しているみたいだけど、アリスが錬金魔法を悪用するような人じゃないことくらい知ってるわ。エドも彼女は大丈夫だって言ってたし。ほーら、いこっ!」


 シモナは私を安心させようとニコニコしながら私の手を引っ張ってくる。


「なら私も行こう」

「あんたは来なくていいわ。アリスだけで十分よ」

「ボディガードとしてついていくだけだ」

「なーにがボディガードよ。この前までアリスを連れ戻そうとしてたくせに」

「あれは昔の話だ。今とは事情が違う」


 敵をむき出しにしたまま弾き飛ばすような声でシモナが言った。


 ハンナは腕を組みながら冷静に反論するが、シモナはそれが気に入らないみたい。まさに犬猿の仲って感じの2人だけど、このままじゃとても仲良くはなれそうもない。


 私に対する友好的な態度とは裏腹に、ハンナに対してはまだ警戒心を持っているみたい。


「やれやれ、あの2人は相変わらずだな」

「そうね。いつか仲良くなってくれるといいけど」


 ここの人たちは元々反乱軍と呼ばれた人たちばかりで、王都の軍人に対しては心を許せない。私が警戒されているのは、ハンナと一緒に住んでいるからでもあった。


 家の中では動物さんたちが楽しそうに会話をしながら楽しく過ごしている。そんな彼らに出かけることを伝え、私たちは出かけていく。


 私の左隣にシモナ、頭の上にはラット、その後ろをハンナが背後霊のようについてくる。


 シモナの家はここから割と近い場所にあり、箒を使うまでもなかった。


「エレナが心配してたわよ。最近全然来てくれないって。ニコラもアリスの活躍を話したことを後悔してたみたい。でも悪気はなかったみたいだし、アリスのお仕事を宣伝するためだから許してあげてね」

「別に恨みなんてないわ――でも何だか行きづらいの」

「そんなに気にしなくていいわよ。私はあんたより長く生きてるんだから、相談くらい乗るわよ」


 そう言いながらシモナが私の左腕に掴まって寄りかかってくる。


 ここの人たちって、凄く距離が近いっていうか、王都の人たちにはない温かみがある。場所はとても寒いけど。


「ありがとう。じゃあお言葉に甘えて頼りにさせてもらうわ」


 私はすっかり仲良しになったシモナに白い髪の女性の件、そしてその手がかりがラバンディエにある件を話した。


 シモナの家に着く頃には、彼女もすっかり事情を飲み込んだ様子。


 背の低い雑草ばかりの道を辿り、少し古びた一軒家へと辿り着く。


 中には数多くの銃や剣といった武器が壁に立てかけられており、その種類の豊富さからもここの品揃えの良さが分かる。武器屋っていうより武器庫ね。所々に色んな種類の銃弾も揃ってるし。


 元々北方を拠点にしていた反乱軍の武器庫だったこの場所を買い取ったんだとか。


「なるほど、私たちが味方していたのは白い髪の王女様だったってことね。分かったわ。私をこの前の箒で運んでくれるんだったら、明日にでもラバンディエまで同行してもいいわよ」

「本当!?」

「ええ、どうせ店にいても常連の人がたまーに来ることがあるくらいだし。エドから聞いたわよ。今まで自分の箒が飛べることを知らなかったんだってね。ふふふふふっ!」

「もう、別に笑うところじゃないでしょ。お掃除専門の相棒だって思ってたんだし……」


 私は呆れながら口を膨らませた。


 他の人が当たり前のように知っていることを知らず、他の人が当たり前のようにできることがなかなかできなかった。


女神の箒(ゴッデスイーパー)】の力もまだまだ自分のものにはできていないし、こうしてみると、私って本当に未熟ね。


 でもそれは私にしかできないことができるということでもある。


 その最たる例が【掃除(スイープ)】であることも、錬金魔法であることも知った。


 私は私にしかできない方法でみんなに貢献するわ。たとえみんなが私を認めてくれなくても――私は確かにここにいる。


「アリス、私、今そこまで持ち合わせがないの。だからその……家の掃除の代金は明日の同行でチャラってことにしてほしいの。お願いっ!」


 シモナが顔を下に向け、両手を合わせて懇願する。


 はぁ~。金貨1枚どころか、まだ銅貨1枚すらロクに稼げてないというのに。


 今のところは家の材料を集めるために採取したアイテムを質屋でお金に換えた分、あと1週間くらいの余裕はあるけど、このままだとまた採取に行くことになりそうね。


 ご飯は緑袋で作るパンだけでどうにでもなるけど、そのためには小麦粉が必要だし、どの道採取に行かないと駄目ね。


「……はぁ~。分かったわ」


 私はそう言って雑巾を大量に召喚し、その次に赤袋を召喚する。


「お掃除の時間よ。【自動掃除(オートスイープ)】」


 赤袋が床に落ちたごみだけを吸い込み、数多くの白い雑巾が床や壁や天井、そして部屋の中にある武器や他の部屋も一斉に掃除し始めた。


 シモナもハンナもその様子を感心した様子で見守っている。特にシモナは目をキラキラと輝かせながら私の雑巾たちを見つめている。


 あっという間にピカピカになった家の中は新築のような輝きを取り戻した。


「ふぅ、お掃除完了。今度はちゃんと料金払ってよね」

「はわぁ~、やっぱアリスの掃除道具欲しいぃ~」


 私はシモナの店で紅茶を飲みながら、しばらく雑談をするのだった。

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