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chapter 3-6「掃除屋開業宣言」

 翌日、私は掃除番として依頼を受けるため、仕事の宣伝をすることに。


 ベルの質屋であるヴィンチで採取したアイテムをお金に換え、そのお金で財布を購入するヴィンチには世界中から集まった品も揃っている雑貨屋でもあり、私はそこで可愛らしい財布を購入する。


 財布がないと本当に不安だし、お金がないと不便だから助かったわ。クラン鉱山でたくさんのアイテムを集めたことで、命じた通りのアイテムだけを青袋が吐き出せることを知った。


 自分の情報なのに、案外知らないことが多いわね。


 この前の箒の件もそう――私の箒が飛べるなんて知らなかったし、もっとちゃんと自分のことを知らないと駄目ね。


「まいどありー。また珍しいアイテムが手に入ったらよろしくね」


 ベルがウィンクをしながら言った。


「ええ、贔屓にさせてもらうわ。じゃあね」


 私は手を振ってヴィンチを後にすると、掃除番の仕事を宣伝するべく、昼食も兼ねてオルディアレスへと赴くことに。


 そこは人の出入りが多いこともあり、事実上のギルドとしての顔も持っていた。


 掲示板には様々なクエストが張り出されており、モンスターの討伐から求人募集や仕事の宣伝といった内容のものばかり。


 キッチンでは魔法によって透明人間が皿洗いをしているような光景が見られ、それがこのバーの客回りを象徴しているようだった。売れているお店ほど皿洗いが忙しくなり、そこに貴重な魔力を費やすことになる。王都のキッチンを手伝わされていたからよく分かるわ。


「いらっしゃい。アリス、何か食べてく?」


 看板娘でマスターでもあるエレナが気さくに声をかけてくる。


 奥の方には料理人やウェイトレスもおり、みんなとても奇麗で仕事に精を出していた。


「ええ、いつもの。それと、あそこに張り紙を張ってもいいかな?」


 私はカウンター席に腰かけながら真後ろにある掲示板を指差して言った。


 以前来た時に掲示板の説明をしてもらっていたから、ここなら確実に仕事の宣伝ができると思ったのだけど、まだ子供の私が仕事をしてもいいのか分からなかったので聞いてみることに。


「いいけど、仕事でも始めるの?」

「私、掃除番の仕事がしたいの。私以外はあんまりお掃除が好きじゃないみたいだから、色んな人たちからお掃除の依頼を受けて、それで生計を立てようと思ってるの」

「ふ~ん、まだ若いのに偉いわねー。じゃあそこに紙があるから、隣にある羽ペンを使って。張り紙は1枚につき銅貨1枚よ」

「分かったわ」


 私は羽ペンで紙に掃除屋の仕事内容を書いた張り紙を掲示板に張り、張り紙代をエレナに支払った。ここは王都と違って王族や貴族ばかりを優遇する政策がまかり通っていない。


 だから平民も特に不自由することなく商売を行うことができる。


『掃除番の仕事受け付けます。何でもお掃除します。依頼はピクトアルバノースゲート3丁目2番まで』


 ふぅ、これでどうにか仕事を始められそうね。


 あとはクライアントを待つだけ。でもそう簡単に来るのかしら?


「アリス、報酬が書かれてないけど、報酬はどうするの?」

「掃除の範囲とか毎回違うと思うから、一律にするよりも交渉した方がいいかなって思ったの」

「分かった。じゃあみんなに宣伝しておくね」


 私はランチタイムが終わるとすぐに帰宅する。


 仕事を始めたのはいいけど、今まではずっと雇われの身でお給金も勝手に定められていた。でも今は自分で決められる。交渉の内容にもよるけど、月に銀貨2枚も稼げば以前と変わらない生活ができるわ。


 いや、どうせなら金貨1枚を目標にするわ。


 一軒家のお掃除1回で銅貨30枚ってとこかしら?


「アリス、このまま掃除番としてやっていくのか?」

「今のところはね。ラットは王都に戻らないの?」

「俺もここが気に入ったから戻らねえよ。元から男一匹だし、それにアリスと一緒にいるとめっちゃ面白いから、ずっとついていくぜ。アリスの唯一の友達としてな」

「友達だったらすぐできるもん」

「あれだけたくさんメイドがいる中でずっとぼっちでい続けられるって相当だぞ」


 やれやれ、ラットの言いたいことしか言わない病気は死ぬまで治りそうにないわね。


 確かに私には誰かと協調するなんて、まるで向いていなかった。


 でもここの人たちは、みんなに合わせているような様子は微塵もなかった。誰もが言いたいことを言ってそれを尊重される。王都にいた時よりもずっと生きやすい。


「うわーっ! やめろぉー!」


 少し遠くにある場所から絹を裂くような女性の悲鳴が聞こえた。


 この声――確かニコラの声だわ。何かあったのかしら?


「アリス、あっちの方から聞こえるぞ」


 頭の上のラットが西の方向を指差した。


 確かあっちには畑があったはず。


「ラット、しっかり掴まってて」

「お、おう……なんかやな予感――うわあああああぁぁぁぁぁ!」


 私は箒を召喚してから急いで悲鳴が聞こえた方向へと飛んでいく。ラットが私の黒いリボンをしっかりと掴んでいるのが分かる。


 ラットの後ろ足が宙に浮くぐらいのスピードで建物の上を飛びながら西へと向かうと、そこには大きな野菜畑があった。


 10匹のダイブモールと呼ばれるモンスターが野菜畑を荒らしており、そのすぐそばでニコラは慌てふためきながら大声で助けを呼んでいるところだった。


「ニコラ、危険よ! 下がって!」

「! アリスうううぅぅぅ!」


 ニコラが私に気づくや否や、いきなり私の胸に飛びかかってくる。


「うぅ~、もう終わりだぁ~」


 早速掃除番としての出番みたいね。

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