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chapter 1-3「辺境への追放」

 どうして……どうしてこんなことに……。


 バーバラに裁かれるなんて、どう考えても追放確定じゃない。


 彼女は私を追い出したがっていた。王宮を混乱させかねない事態をずっと待っていたんだわ。こんなことになるって分かってたらもっと早く手を打てたのに。


 メイド長室で私とバーバラの2人きりになる。


 部屋の中は貴族たちからお情けで貰った貢ぎ物が飾られている。恋愛対象だと思われてないのに、戦利品のせいで自分がモテていると勘違いしているのが滑稽ね。


「アリス、本来であればあんたは死刑になっているところよ。でも女王陛下は寛大なお方だから、さっき仰られていたように、あんたを死刑にする事はないそうよ。感謝なさい」

「メイド長、私はポールには興味がないと言ったはずですけど」

「あんた、この前ポール様を振ったんだってねぇ。かなり怒ってたわよ」


 バーバラは椅子の後ろにある窓の外を見た後、縛られたままの私に近づいてくる。


 私がポールを振ったのは興味がないというだけじゃなく、彼をバーバラに譲るためだったのに、それが2人を逆上させることになるなんて。


「――まさか、あなたポールと結託して――」

「罪を免れたいからって話作らないでくれる?」

「話を作ったのはそっちじゃないですか。何故そんなに私が気に入らないんですか?」

「掃除ができるくらいで調子に乗ってるあんたが悪いのよ。あんたさえいなければ、私はポール様と結ばれていたはずなのよ。それを……あんたが……あんたが邪魔したせいでっ!」


 急に気性の荒くなったバーバラが憎しみに満ちた顔で私を睨みつけ、机を拳で殴りつけた。


 一体どれほど私を憎んでいるのかしら。


 私が王宮の掃除をしている時、ポールがバーバラを始めとしたメイドたちに声をかけまくっていたのは覚えているわ。


 確かその時から私にばかり話しかけるようになっていた。でも私はあの人をすぐに女たらしだと見抜いたから、お近づきになるのはよそうと思ったのだけど、私だけ距離を置こうとしたのがかえって気に入られたらしい。


 その時からだった……バーバラが私に嫌がらせをするようになったのは。


「いずれにせよ、あんたが王冠室から王冠を盗んだことに変わりはないわ」

「王冠は厳重に保管されていたはずです。ですので、王冠を盗める人は限られています」

「何でそんなこと知ってるわけ?」

「いつも誰かさんに全ての部屋のお掃除を任されていましたから」

「ということは、チャンスがあればあなたにも王冠を盗むことは可能だったってことじゃない!」


 バーバラが得意げな顔で腕を組みながら言った。


 言ってることが滅茶苦茶ね。この女は一度自分の傲慢さを思い知るべきよ。


「王冠室はメイド長の管轄下のはずです。そこから何者かによって王冠が盗まれたということは、王宮の管理責任者であるあなたの責任ですよ」

「あなたは王冠室の掃除も担当していたわ。うちは現場主義よ。現場の判断が最も尊重される。つまりそれは、王冠を守る義務の最終責任が現場にあることを意味しているわ」

「だったら何のためにメイド長がいるんですか!?」

「はぁ?」


 威嚇するカバのように口を開け、顔を至近距離にまで近づけてくるだけでも十分嫌なのに、このおばさんくさい香水のにおいが私の嗅覚を執拗に攻撃する。こいつが上司じゃなかったら突き飛ばしてるところよ。


 どうせ裁かれるんなら、ここで言いたいことを全部言ってやるわ。


 今までこんな女のために遠慮していた自分があほらしくなってきた。


 もしかしたら私にも……ラットみたいな生き方が合ってるのかも。もっと自分に正直に生きればよかったと心底思った。もう迷わない。もう譲らない。


「王宮内で管理にまつわる問題が発生した時、真っ先に責任を取るのがメイド長のはずです。なのに全く関係のない私に濡れ衣を着せて、自分だけ責任を免れようとするなんて間違ってます。責任の取れない管理責任者に何の意味があるんですか?」

「この減らず口がっ!」


 部屋中にパンッと音が響いた。


 私の左のぽっぺは赤く腫れあがっていた。


 それでも懲りないのか、バーバラは烈火の如く燃え上がるような怒りを私に向け、私の胸ぐらを引っ張りながら怪物の表情だわ。


「うっ!」


 バーバラがその殺意に満ちた手にハンカチを持ち、私の顔に押しつけてくる。


 私は全身の力が抜けていくようにその場に倒れ、段々と意識が遠のいていく――。


「悪いわね。しばらく眠ってもらうわ……スーザン、セシリア、入りなさい!」


 バーバラが扉に向かって偉そうな命令口調で呼びかけた。


 外で待機していた同僚の2人が怯えた様子で静かに入ってくる。入ってきたのはすっかりバーバラの言いなりになっているオレンジ色の三つ編みが特徴のスーザン・ドネリー、そして薄紫色のショートのツインテールが特徴のセシリア・オルニーだった。


「この生意気な小娘をピクトアルバまで追放なさい。縛りつけたままそこの平原に放り投げたら、すぐに帰ってくるのよ」

「ピクトアルバって、確かあそこは辺境の地で、凶悪なモンスターがたくさん棲んでいるっていう危険地帯ですよ! そこに放置なんてしたら、モンスターに食べられちゃいますよ」

「私たちが直接手を下したわけじゃないから、たとえモンスターに食べられても死刑ではないわ。これはあくまでも追放よ……いいわね?」

「「は、はい……」」


 バーバラが念を押すように言った。当然だが逆らう事はできず、2人のメイドが気絶した私を引っ張り、メイド長室から引きずり出されていく。


 こうして私は王宮から追放され、遠い遠い辺境の地へと運ばれていくのだった。

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