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chapter 3-2「酒場での歓迎会」

 私の目の前には浮いているように見える縦幅が短い扉がある。


 看板にはオルディアレスと書かれており、それがこの店の名前であることを示していた。


 エドもニコラもここへ当たり前のように入っていく。


 私は酒場に入ったことがない。だからそれもあって子供ながらに心臓をバクバクさせながら恐る恐る扉を開いて入っていく。


 中にはここの住民たちがのんびりとビールやカクテルなどを飲みながら過ごしている。


 昼間っからお酒を飲むなんてよっぽど暇なのね。


「いらっしゃい。あれっ、エドがここに来るなんて久しぶりじゃない?」

「ああ、しばらく彼女の家を建てるためにお手伝いをさせられていたからね」


 エドが慣れた口調で話している相手はここのマスターらしき人物。清楚な服装に陽気で快活な印象の青色で後ろに髪をまとめたシニヨンヘアーの若そうな女性が笑顔で立っている。


 長身でスラッとした大人の女性のような感じで、歳を聞かなくても私よりひと回り年上であることがすぐに分かった。


「あっ、もしかしてこの子が噂の?」

「ああ、アリス・ブリストル。不思議な不思議な掃除番だ」

「そんなに強調しなくてもいいじゃない」

「あたしはエレナ・オルディアレス。よろしく。普段はここでバーのマスターやってるから、暇な時はいつでも来てね」

「歓迎してくれるのは嬉しいけど、私はまだ未成年よ」

「ここにはソフトドリンクもあるから未成年も大歓迎よ。ご飯もあるから食べる時に来てもらってもいいし、お酒が飲めなくてもだいじょーぶ」


 エレナがウィンクをしながら優しく微笑んで言った。


 未成年のお客さんに対する彼女なりの心遣いに私は感心した。何故ここのお店が繁盛しているのか、私にはすぐに分かった。


 こんなに美人で社交性のあるお姉さんがいたら、そりゃみんな行きたくもなるわね。


 この街で唯一のバーということもあって、お客さんには事欠かないみたい。


 早速席に座ってお勧めのランチセットを注文すると、ようやく店内を見渡す余裕ができた。


 他にも知り合ったばかりのシモナやハンナがおり、彼女らはまだ打ち解けていない様子。シモナはともかくとして、ハンナはこれからどうするんだろう。


 ここのランチセット、意外とリーズナブルなのね。


 ――ん? ……価格? ……あっ!


 一瞬肝が冷えた。私は財布すら持たないまま流れで注文してしまっていたことに気づく。このままじゃ無銭飲食じゃない。家を持って早々捕まるなんて冗談じゃないわ。


「エド……私お金ないんだけど」

「心配すんな。今日は君の歓迎会なんだから、好きなだけ食っていけ」

「あぁ~、よかったぁ~」


 私は安堵からカウンターテーブルに突っ伏してしまい、両腕を枕にしたままジト目になり、存在感を押し殺すように空気と一体化している。


 すぐ流されちゃう癖、早い内に何とかしないと。


「エドの言う通りよ。今日はサービスしておくから。この頃街が平和なのもアリスのおかげだし、ちゃんとお礼がしたかったの。ねえアリス、お金がないってどういうこと?」

「あっ、そっか。みんなには事情を説明してなかったよね」


 私はここまでやってきた経緯をバーにいるみんなに伝えた。


 みんな酷く驚いた様子で私を見つめている。


 どうやら私の言うことが証拠なしには信じられないらしい。


 なので早速赤袋を用意し、みんなの注目を集める中で【自動掃除(オートスイープ)】を命じると、オルディアレスの店内に落ちているごみが地面を歩くようにしながら赤袋に吸い込まれていく。


 みんなが自ら赤袋に入っていくごみを何度も目で追いながら見つめている。


「――とっても便利な魔法ねー」

「便利なのは分かったけどよ。これが戦闘にどう役立つってんだ?」

「いずれ分かるよ。彼女の【掃除(スイープ)】は僕の【分析(アナリシス)】ですら計り知れない。他の人の魔法なら一度見れば分かるが、アリスの魔法は様々な分野に応用が利くから底が知れない」

「その赤袋って、どこで手に入れたの?」


 エレナが感心した様子で私に尋ねると、私は証拠を示すために箒を召喚する。


「それはこの【女神の箒(ゴッデスイーパー)】の力で作ったごみ袋なの。赤袋は処分用、青袋は保存用、黄袋は寝床用、緑袋は料理用なの。他にも雑巾とか洗濯物袋とか手袋とかを召喚できるわ」

「なるほど、言わばアリスの掃除道具ってわけだ」

「ねえ、その掃除道具、いくらで譲ってくれるの!?」


 さっきまで少し離れた席にいたシモナが真剣な表情で私に詰め寄ってくる。


 いつの間に距離を詰めたのかしら。これはお掃除が苦手な人の顔ね。


「掃除道具は私の固有魔法の一部だから、私の魔力じゃないとうまく機能しないの。だから貸すことはできないわ。ごめんね」

「ちぇっ。もう掃除せずに済むと思ったのにー。あっ、そうだ。アリス、時々でいいから、私の家に来て掃除してくれない?」


 近い近い近いって。まあでも、バーバラよりはずっとマシね。


 凄くいい香りだし、どんな香水を使ってるのかしら?


「あはは、か、考えておくわ……」

「シモナ、アリスが困ってるでしょ。それに掃除の依頼をするんだったら、ちゃんと料金を払わないといけないのよ」

「それだったらエレナだってさっきやった分の掃除代をアリスに払うべきじゃない?」

「あっ!」


 シモナが悪そうな顔で言うと、エレナがしまったと言わんばかりの青ざめた表情になった。


 ふふふふふっ! 思わぬ形でブーメランになっちゃったわね。でも、エレナのこういうお茶目なところも結構好きかも。


「ふふっ、墓穴を掘ったわねー」

「分かったわよ。ちゃんと払えばいいんでしょ!」

「あれは証拠を示すためにやっただけだから、別に大丈夫よ」

「そういうわけにはいかないわ。あたし、人にあげるのは好きだけど、人から貰うのは好きじゃないの」

「じゃあ、今度来た時の料金から引くっていうのはどう?」

「うーん、まあそれならいっか。分かったわ。次回もサービスするわね」


 エレナが人差し指を顎に当てながら考えた末、掃除代の支払いが決まってしまった。お金を取るつもりはなかったけど、こうなったらしょうがないわね。


 ――ん? これ、ビジネスになるんじゃないかしら?


 そうよ! 掃除番よ! お掃除の依頼を受けて指定された場所へ出向く掃除番になればいいのよ。これなら私の取り柄を活かせるし、生活費も稼げるじゃない!


 これが私の……新しい生き方なんだわ。

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