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chapter 3-1「住む家を持って」

 外観は三角の屋根にオシャレな窓がある2階建ての立派な一軒家。


 鉄鋼と木材以外にも様々な材料を採取していたのか、私が思っていたものよりずっと大きく頑丈な家になっており、玄関の近くには庭が広がっている。


 ご丁寧にロバアたちが過ごせるよう、動物たちの寝床まで作ってくれているのがありがたいわね。


「お~っ! ここが俺たちの家かぁ~!」


 すっかりハイテンションになっているロバアが飛び跳ねながら言った。


 エドとの契約が切れる一歩手前だったけど、無事に住む家を確保できてよかったわ。


 早速私が家に入ってみると、そこには私が希望した通りの広い間取、採取した木材と同じ色をしている木造のテーブルや椅子までついている。やろうと思えば店を営むこともできるわ。


 2階には私好みに作ったのかラブリーな寝室があり、ふかふかのベッドまで用意されていた。


 まだ最低限の設備しかないけど、ここから先は自分で揃えるしかないようね。


「ここが私の部屋なんだ」

「アリス、確かお前、のんびり生活したいって言ってただろ。夢叶ったんじゃねえか?」

「――!」


 頭の上から聞こえてくるラットの言葉に、私は休憩中の雑談を思い出した。


 そういえばそうね――私はずっと働きながらのんびり暮らすことを考えていた。お掃除の仕事も好きだけど、私は何者にも従わず、自らの意思で自由に人生を歩んでみたい。


 ここだったら……きっと夢を実現できる気がする。他の誰でもない、自分自身として生きられる。もう私を縛るものは何もないのだから。


「……いいえ、まだよ。私の夢はこれから。でもまずは収入源を見つけないとね」

「そうだなー。俺もナッツがないと生きていけねえし」


 私は思い出に浸りながらラットと話し、玄関から外に出た。


「アリス、ここでは馬が貴重みたいだからさ、俺はしばらく運び屋の仕事をやるぜ。ここに住まわせてもらうわけだから、その分仕事はしないとな」

「ふふっ、ありがとう」

「随分と豪華な家を持ったな」

「エド、どうしたの?」

「エミがお見舞いしてこいってうるさいから来たんだよ。アリス、引っ越しおめでとう。ここの住民を代表して歓迎するよ。今日から君は晴れてピクトアルバの住民になったわけだが、ちゃんとここのルールを守ってくれよ」

「ルール?」


 私は首を傾げた。どうやらピクトアルバには特有のローカルルールがあるらしい。


 エドは懇切丁寧にここのルールを一通り説明してくれた。


 いくつか例を挙げると、虚偽の噂を広めて街を混乱させた者は銅貨5枚の罰金というルールがある。ここは小さな街であるため、噂が発生すればすぐ街中に広まってしまうからだとか。


 侵入者やモンスターが街を襲った場合、住民は戦闘に参加するか避難するかを選ぶ義務が発生し、避難を選んだ者にはここから最寄りの大都市、ラバンディエまで通報する義務がある。


 そしていつでも迅速に戦闘と護身が行えるよう、外へ出る時は武器を持たなければならないが、決闘は禁止というルールもある。


 まだ歴史の浅い街ということもあり、不安定な情勢も手伝って住民たちの絆が強いように思えた。


「まっ、そんな感じだ。分かったか?」

「一応理解はしたけど、ラバンディエってどういうとこなの?」

「ラバンディエはここからずっと南にある北方メルへニカ最大の都市だ。僕が度々出稼ぎに行く場所でもある。王都ランダンとは積年のライバルで、昔はもう1つの王都と呼ばれていた」

「じゃあ、もう1人王様がいたってこと?」

「厳密に言えば、当時2人いた王女の内、もう1人の後継者候補である王女がそこにいたんだ。でも不思議なことに、みんな王位継承戦争のことは知っていても、誰ももう1人の候補のことは全く覚えていなかったんだ。名前も顔も。僕でさえ思い出せない。だからそれを不審に思って調べているとこなんだよ」


 エドは雲が漂う空を見上げながら言った。


 この摩訶不思議な現象とも言えるもう1人の王女の『忘却』を彼は怪しんでいた。


 私も前々からそのことを不審に思ってはいたけど、やはり何らかの魔法が関係していることに間違いはなさそうね。全員から特定の記憶だけを消し去るなんて、そう簡単にできることじゃないわ。


 もう1人の王女を歴史の闇へと葬り去る必要がどこかにあるとしたら――。


 私は白い髪の女性の夢を数日に1回は見るようになった。でも段々とその頻度が減り、白い髪の女性が見える時間が徐々に減っていくように感じた。


 一体どうしてなのかしら?


「おーい、アリスー、エドー、今から歓迎会やるからバーに来てくれー!」


 遠くから私たちを呼ぶ声がする。声が聞こえる方向を向くと、そこには活発そうな女性が手を振りながら呼んでいた。


 泥まみれの服装、細身の割に長身でスタイルのいい体、小麦色の肌に爽やかな笑顔とツインテールが特徴のボーイッシュな女性がこっちに向かって近づいてくる。


「やあ、私はニコラ・オクスリー。普段は農業をしながら薬師をやってるんだ。よろしくな」

「私はアリス・ブリストル。よろしく」

「ああ、君のことは知ってるよ。今街中で噂になってるからな」

「彼女の固有魔法は【豊穣(ファータイル)】だ。通常よりも早く作物を成長させる魔法だが、彼女の生まれ故郷には農業がなかった。それで居場所を求めてここまで引っ越してきたんだ」

「何でそこまで分かるんだよ!?」

「【分析(アナリシス)】の結果だ」

「こいつはおっかねえぞー。人を見ただけで過去が分かる」

「ふふっ、私もやられたわ」


 そんなこんなで私たちは街の中心にある『バー』へと赴いた。


 最初にここを訪れた時に一度見かけたけど、どうやらここが住民たちの交流場所みたいね。


 でも私お酒飲めないし――どうしよう。大人になってからの方がいいのかしら。

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