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chapter 2-8「狭めていた可能性」

 ピアン山で採取が始まると、私は青袋を召喚して植物を優先的に摘み取っていく。


 木材は木の枝が必要分あれば家の木材として【加工(プロセス)】できるみたいだけど、それでも一軒家を建てるんだったらかなりの木材が必要になりそうね。


 そこには多くのモンスターがいたものの、そのほとんどは小さく、戦闘能力も低かった。


 私は花や葉っぱのモンスターたちをお掃除しながら山を登っていく。


「エド、寒さに強い植物を集めたいんだけど、分かる?」

「それなら、山の8合目以降に生えている植物を採取するといい。標高の高い場所に生えているのは寒さに強い証拠だ。でも何で?」

「ふふっ、後で分かるわ」

「なるほど、サプライズのためか。じゃあそろそろ僕も暴れさせてもらおうかな」

「暴れる?」

「ああ、下がっててくれ」


 エドがうずうずしている様子で言いながら【審判の聖剣(ジャッジカリバー)】を鞘から抜いた。


 そして聖剣を構えながら目の前にある大木を見つめた。


「【聖剣裁断(セイントブレード)】」


 エドが目にも止まらぬ動きで目の前の大木を一瞬で薪のサイズにカットしてしまった。


 たくさんの木材が地上に散らばり、樹皮とそれ以外の部分に分けてから、それらを私が青袋に命令して回収していく。青袋が木材を次々と飲み込んでいく光景にハンナは感心していた。


「エドも凄いが、それ以上に凄いのはアリスの掃除道具だな。ここまで自主的に動ける掃除道具なんて見たことがないぞ」

「珍しいのは確かね。掃除道具に意思を持たせて命令する人なんて、私以外には全く見たことないし、周囲からはメイドの仕事以外には使えない固有魔法って言われたけど、なんだかんだで凄く役に立ってる。どんな能力がどこで役に立つかなんて、きっと誰にも分からないわ」

「掃除道具以外のものには意思を持たせて命令できるのか?」

「できることはできるけど、あくまでも【掃除(スイープ)】に該当する行動しかしないから、掃除をする前提の道具じゃないと効果がないの。本に拭き掃除をさせるわけにはいかないでしょ」

「確かに」


 私たちはエドとハンナの協力もあり、順調に木材を集めていった。


 そしてエドの【分析(アナリシス)】によって、ようやく家の材料として使える木材であると認められた。材質が良くなければ頑丈な家は作れない。


 いかに【加工(プロセス)】が優秀であっても、対象となる材料の質に全てが左右されてしまう。


「ふぅ、これで残りは高嶺の花だけね」

「アリス、前々から気になっていたんだが、君が持っている【女神の箒(ゴッデスイーパー)】も魔箒(まほうき)だったらそれに乗って飛行できるんじゃないか?」

「箒に乗って飛行するっていうの?」


 ハンナが私に箒の使い道を指南する。


 確かに魔箒(まほうき)ではあるけど、これで空を飛ぼうなんて思ったこともないわ。


 そもそも空を飛ぶ行為自体、あくまでも飛行であって掃除ではない。箒がどこまで用途に耐えられるか分からないけど、試してみる価値はありそうね。


「いいからやってみろ」


 私はハンナに言われるまま【女神の箒(ゴッデスイーパー)】を召喚し、穂先を背にして箒にまたがると、箒に飛ぶよう念じた。


 すると、不思議なことに箒が重力に反して思い通りにふわっと浮いた。


「「「「「!」」」」」


 全員が一斉に黙ったまま驚いた。さっきまで地面についていた私の靴が吊り下げされるように浮き、私が体重をかけた方向へと自由自在に動いている。


 まさか本当に浮くとは思わなかった。


 私の箒に――まだこんな可能性があったなんて。


 きっと――空を飛ぶなんてできないという思い込みが、この箒の可能性を狭めていたのね。


「なるほど、その魔箒(まほうき)は自ら持ち主を選ぶようだ。そして持ち主の気持ち次第でどこまでも成長する生きた箒だ……って聞いてねえし。もうあんなとこまで飛んでるよ」

「ふふっ、まったくあの子は不思議な子だ。あれだけの力を持ちながら、真っ直ぐで、人に優しく、まだ伸び代を残しているんだからな」

「全くだ。あいつにはいつも驚かされるよ。僕の【分析(アナリシス)】を持ってしても、彼女が持つ無限の可能性までは分析しきれないくらいだ」


 2人とも、下で何を話しているのかしら?


 まあいいわ。こうして空を飛べるって分かっただけでも収穫よ。これで移動も採取もさらにしやすくなったわ。


 しかもすっごく動きやすい。まるで自分の手足みたいに。


「ハンナ、ありがとう。ふふっ、空を飛べるって、こんなに楽しくて気持ちいいのね。うふふふっ、あはははっ!」


 私は箒と体を完全に一体化させ、歓喜を表すように鳥たちと共に大空を飛んでいる。空飛ぶ箒にはずっと強い憧れを持っていた。それだけにとても嬉しくて興奮が収まらない。


 そして今、それが私の手中に納まった。いいえ、最初から持っていたけどそれに気づかなかった。


 私は翼があるのに飛べないと思い込んでいた小鳥だったのね。


「アリスっ! よけろっ!」

「えっ! ――きゃっ!」


 突然、エドが私に向かって叫んだ。


 咄嗟の判断で反射的に高度を下げると、私の真上を少し大きめの木の実が通過していき、それが少し遠くの岩にぶつかると爆発を起こした。


 恐る恐る箒の向きを反転させて後ろを振り返ってみると、そこには両腕を生やした巨木のモンスターが威嚇の表情で佇んでいる。巨木の中段には鋭い眼光と大きな口、アフロヘアーのように見える葉っぱの生い茂った頭には、さっき私に向けて飛ばしてきたたくさんのカラフルな木の実が生えている。


 またモンスターが現れたのね。


 根っこの部分がいくつもの足の役割を果たし、そのままうねうねと私たちに近づいてくる。


 エドとハンナは既に戦闘態勢になっていた。

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