chapter 1-2「無実の罪」
しばらくはあらすじに沿った展開になります。
拙い部分もあるかもしれませんがどうぞお楽しみください。
翌日、大変な事態になっていた事を私は知らなかった。
朝早くから深夜までの労働で疲れ果てていた私をよそに、いきなりバーバラがドアをどんどんと叩いて私たちを起こし、寝室へずかずかと入ってくる。
メイドは4人1組で1つの部屋にある2つの2段ベッドに泊まる。
いつも私が部屋に入る頃には、みんなぐっすりおねんねしている。起こさないようにそーっとベッドに入る毎日を繰り返したおかげか、足音を鳴らさずに歩くことさえできるようになっていた。
「アリス・ブリストル! あんたとんでもないことしてくれたわね!」
「どっ……どういうことですか?」
「とぼけてんじゃないわよ! あんた女王陛下の王冠盗んだでしょ!?」
「えっ!?」
大きく目を見開き口をぱっくりと開けたまま頭の中が真っ白になった。
言ってる意味が分からない。王冠なんて盗んだ覚えはないし興味もない。
私はすぐに事情もロクに知らないまま王族親衛隊の兵士たちに捕まり、ロープで両腕を後ろに繋がれたまま、女王陛下が政務を取り仕切っている玉座の間へと連れていかれた。
バーバラはそんな私の寝起き姿を見ていい気味と言わんばかりの笑みを浮かべている。
同じ部屋の同僚たちは私を見て可哀想な人を見るような目で私の後ろ姿を追っていた。
誰も反論しない。いや、反論できないのだ。
それほどにまでバーバラに逆らうリスクは高い。
メイド長は王宮の管理責任者、逆らえばただでは済まないから。
「して、この者が余の王冠を盗んだ犯人なのか?」
威厳ある風格を持った女王陛下こと、メアリー・メルへニカが赤を基調とした豪華な服に身を包み、その煌びやかで長い赤髪をなびかせ、玉座にどっしりと構えながら座っている。私はそんな女王陛下の前に投げ出された。
「はい、女王陛下。昨夜、ここにいるアリス・ブリストルが王冠を持って走り去っていく姿を見たという者が王宮内にいたのです」
「そんなことしてません!」
「黙りなさい! 女王陛下の御前よ!」
「――あなたって人は」
思わず本音がこぼれてしまった。
いつか本格的に貶められるだろうとは思っていたけど、まさかそれが今日だなんて。
このまま女王陛下の王冠を盗んだ罪に問われれば、私は良くて追放、悪くて死刑。そんなの冗談じゃないわ。何も悪いことなんかしてないのに、ずっと理不尽に耐えて一生懸命働いてきたのに。
私の真下にある大理石の床にポタポタと水滴が落ちた。
悔しい……ずっと王宮のために奉仕してきたのに……悔しいっ!
両腕の拳を強く握りながら内に秘めた無念を押さえつけようとする。でもそれに反して私の体はさっきから正直な反応だし、私もラットのこと言えないわね。
「バーバラ、アリスが盗んだという証拠はあるのか?」
「いえ、まだ王冠自体が見つかっておりませんが、私の固有魔法【指紋】を使えば、誰が犯人なのかは一発で分かります」
「そうか、では王冠が見つかることを祈るとしよう。それまではアリスを罪に問うべきではない」
「その王冠でしたら、これのことでは?」
玉座の間に入ってきたのは、いつも私をナンパしてくるキザ男、ポール・グリーンフィールド。
彼こそ、バーバラが執拗に嫌がらせをしてくるようになった要因。
その手には何種類かの宝石がはめ込まれている鮮やかな色彩の王冠が輝いていた。
王冠は戴冠式の時に使われる超高級な代物。あれ1つで一生食べるのに困らないだろうけど、人の物を盗むほど、私は落ちぶれていないつもりよ。
でもどうしてポールが王冠を持っているの?
「それは余の王冠ではないか。何故そなたが持っておる?」
「さっきアリスの部屋を調べた結果、引き出しから王冠が見つかりました」
「「「「「!」」」」」
――私の引き出しから王冠?
……そんなの嘘よ! ……ありえないわ。
だって私の引き出しには、いつもスペアの服しか入ってないんだから。
「なっ、何かの間違いです!」
「女王陛下、この王冠を【指紋】で調べさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「よかろう。アリスの指紋と照合してみよ」
「かしこまりました」
バーバラは私の腕を乱暴に引っ張り、私の指紋を手から出ている魔力の波動でスキャンしてから王冠についた指紋と照合した。
この時、バーバラの顔が緩んだ。
「――この王冠に着いた指紋とアリスの指紋が一致しました。犯人確定です」
「嘘です。触ってもいないのについてるわけ――」
「言い訳は見苦しいわよ。あんたが犯人だと分かった以上、私はメイド長としてあんたを見過ごすわけにはいかないわ。女王陛下、この度はうちのメイドがこのような恐ろしい事態を招いてしまい、申し訳ございませんでした。今後このようなことが起きぬよう、より一層精進することをお約束いたします」
「……そうか。ではアリスの処罰はそなたに任せよう。だが無事に王冠が戻ってきたのだから、死刑にはするな。みな下がってよい」
「お考え直しください。私じゃありません。己に誓ってそんなことはしておりません」
弁解も空しく、私は王族親衛隊の兵士にメイド長室へと連れていかれ、バーバラの裁きを待つことに。
死刑を免れたとはいえ、罪が確定してしまった以上、もう追放は決まったも同じ。
バーバラは嘘を吐いている。あの時の笑みは私を貶めている時の顔だから。
よりによってこんな人に裁かれるなんて――さっきの謝罪だって、謝る相手が全然違うわ。女王陛下に対して虚偽の報告をした行為こそ、罪に問われるべきじゃない!
でもここでは私の言い分なんて通用しないのね。ホント馬鹿みたい。
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