表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/100

chapter 2-7「山を目指して」

 私が着替え終わると、エドに1つ訪ねてみたいことがあるのを思い出した。


「ねえエド、人の夢の中って【分析(アナリシス)】できる?」

「できるわけないだろ。夢は見るものではあっても分析するものじゃない」

「……そうよね」


 期待に沿えない返事に私は肩を落とした。


 正論で返されちゃった。結局、あの夢は一体何だったのかしら?


「――猫はいないみたいだな。はぁ~、リンネの交渉術だったら、質屋との交渉に一役買ってくれると思ったんだけどな」

「リンネならエドの部屋に戻ったわ」

「そうか、ありがとう」


 エドが礼を言って去っていく。


「ふわぁ~、よく寝たぁ~」


 ラットが欠伸をしながら手足を伸ばしてようやく目を覚ました。


 今日こそ家の材料の1つ、木造建築に適した木材を探しださないと。


 それにしても、ピクトアルバって北方に位置する割にそこまで寒くないわね。


 周囲は平原だけど、街から北へ行けば海、東へ行けば森、西へ行けば湖、南へ行けば山、どの方角へ行ってもここの産物を見ることができる。山を越えてさらに南へ行けば北方メルへニカで1番の大都市に辿り着く。ここの住民がお金に困った時はそこへ出稼ぎに行くという。


 道のりの多くは雪原特有の真っ白な世界。でも気温が高い時は辺り一面にとても美しい緑が広がるという。気温や天候によって姿を変えるなんて素敵ね。夜の星空もとても奇麗だし。


「あーあ、どっかに太いニンジンねえかなー」


 1階でエミの家事を手伝っていると、ロバアが頭を下に向けてぼやいた。


「王都にいた時はもっと太くて立派なニンジンがあったんだけどなー。段々懐かしくなってきた」

「じゃあ帰れば」


 カウンター席に座っているエドが開いた新聞と睨めっこをしながら冷たい返事をする。


 ピクトアルバは北方で作物が育ちにくいのか、どの作物も王都で採れたものと比べると、痩せこけていて味気がない。だから味つけをして少しでもまずさを誤魔化してるわけね。


 ここに来てからは太っている人を一度も見ていない。


 王宮には平民からむしり取った重税で太るほどたらふく食べている人たちがいたけど、あれを当たり前だと思っていた自分が恥ずかしいわ。孤児院を出てからは常に王宮住み込みのメイドだったし、変な常識がまかり通るのも無理はないわね。


 私はずっとおかしな環境に身を置いていたのだと、ここにきて初めて気づいた。エドもエミもメイドに暴力を振るうのは異常だって言ってたし。


 ここで生きていくためには、まず『食糧難』をクリアする必要があるようね。


「おいおい、俺はアリスの馬だぜー。ご主人様から離れられねえよー」

「贅沢な馬だ。ここじゃ満足に飯を食えるだけで恵まれてるってのに」

「まあまあ、きっと南の風土に慣れてるから、それでホームシックを起こしてるのよ」

「アリス、家の材料が集まったらとっととこの馬を引き取ってくれよ」

「分かったわ。じゃあ今日もついてきてくれるかな?」

「しょうがねえな。まっ、鉱石の1つでも見つかれば儲けものだ。この前アリスが採取した原石をエミが【加工(プロセス)】して作った宝石が質屋で高く売れたからな。それと言い忘れてたけど、質の高い木材だったら森よりも山に行った方が採取しやすいぞ」

「――もっと早く言ってほしかったわ」


 私は冷めた表情で言った。木材と言えば森というイメージで突っ走ったのは反省点ね。


 山だったらここから南だけど、私はずっと東の森まで採取しに行ってたから、今回は方角を変えた方がいいかもしれないわね。


 朝食を済ませると、私とエドはすぐにロバアに乗って南へと向かった。


 ラットは寝起きだったのか二度寝を始めてしまっていた。


 王宮にいた時よりもパンが硬いわね。下手をすれば歯が抜けてたかも。


「私も一緒に行かせてくれ」

「ハンナ、朝食を食べていたんじゃないの?」


飛行(スカイ)】によって空中浮遊をしているハンナが風を切り裂くような猛スピードで私たちに追いついた。


「ああ。あの後家事を手伝おうとしたんだが、全部お前と掃除道具たちが済ませてくれたから好きに過ごしていいと言われた」

「そうそう、だから全くやることなかったんだよなー。暇なら街の見学でも行ってくればって言われる始末だったし」


 ハンナのそばに浮いている【大空襲の翼(エアレイドウィング)】にラットがしがみついている。


「ラット! あんたまたついてきたの!?」

「俺を置いていこうなんざ100万年早いぜっ!」


 そう言いながら翼から私の頭に向かってジャンプする。


「アリスの唯一の友達なんだってな。大事にしろよ」

「あんた一体何を話したの?」

「何って、いつも王宮の庭で俺と愚痴り合ってたこととか、あのババアにこっぴどく叱られていたこととか、モンスターを討伐したのにアリスの報酬が1番安かったこととか――ふがっ」


 私は頭上のラットを捕まえると、その減らず口を両手で押さえつけた。


「んーっ! んーっ!」

「――今のは忘れて……もう済んだことだから」

「「……」」


 ラットの言葉は真実だけど……やっぱり私には残酷すぎるわ。


 私はようやく落ち着いたラットを頭上に戻すと、目からこぼれそうになった涙を拭き、平気なふりをしながら力強い目で南にあるピアン山を見つめた。


 しばらくしてピアン山のふもとに着く。私とエドはロバアから降り、目当ての木材を探すことに。


 平原に近いためか、山には多くの植物が生い茂っており、数えきれないほどの花が咲いている。


 私は木材の他に『寒冷耐性』を持った植物を探していた。とある目的のために。

気に入っていただければ下から評価ボタンを押していただけると嬉しいです。

読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ