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chapter 2-5「解けぬ警戒心」

 ハンナは私を見つめたまますぐ近くに立っている。


 怪我は治っているはずなのに表情が優れない。まだ痛むのかしら?


 でもこの戦いは私の勝ちよ。さすがにもう一度満身創痍になるのを覚悟で戦うほど頭の悪い人ではないという確信はあるけど。


 私は箒をブルームモードへと戻してから異空間へとしまった。


「私の負けだ。まさか右足の古傷まで治してもらえるとは思わなかった。お前は本当に凄いな」

「だろー。アリスに喧嘩を売るからこうなるんだよ。もう懲りただろ」


 さっきまでハンナに怯えていたラットがロバアの頭の上から手の平を返すように威張っている。


 ホントに分かりやすい性格ね。私が倒した相手に対してすぐこれだし。


「アリス、お前を力尽くで連れて行くのは諦めよう。ポールには断られたと言っておく」

「やめておけ。アリスを連れてくるように言われてるのに、連れてこなかったら多分君は殺されると思うよ。王宮の連中を甘く見ない方がいい。あいつらは自分の過ちは必死になって隠そうとするのに、人の過ちにはこれでもかっていうくらい不寛容だ」


 エドが王宮へと戻ろうとするハンナに忠告する。


 私が勝ってしまった以上、ハンナはもう私を連れて王宮へ戻ることはできない。


 ハンナには悪いけど、こっちが勝った時の条件を飲んでもらうわ。


「――そんなことは百も承知だ。そう簡単に殺させはしない」


 ハンナが寂しそうな顔で言った。何故殺されると分かっていて戻る必要があるの?


 私には分からない。そこまで自分をないがしろにする組織のために生きる必要なんてないわ。


「ハンナ、あんた負けたんだからアリスのお願いを1つ聞いてあげたら?」


 シモナがハンナに目を合わせながら言った。さっきまでより警戒心は薄れているようだけど、まだまだハンナに対して心を許してはいない様子。それだけ今のハンナには落ち着きがあり、敵意は全くないようだった。


「それもそうだな。私だけ条件を突きつけておいてこのざまだ。言ってみろ」

「さっき手に入れた鉱石だけど、私たちの物ってことにしてくれないかな?」

「――分かった。本来であれば盗掘だが、見逃してやる」

「ついでに聞くけど、どういう経緯で私が許嫁(いいなずけ)に指名されたの?」

「話すと長くなるぞ」

「だったら今日のところはもうピクトアルバに帰ろう」

「そうね。話は帰りの道中で聞くわ」


 私とエドはロバアに乗り、ハンナはシモナを背中に乗せて帰ることに。


 エドが言うには、ハンナは固有魔法【飛行(スカイ)】によって空を飛ぶことができ、1人までなら人を乗せて運ぶこともできる。


 この【飛行(スカイ)】を持つ者自体はそれほど珍しくはなく、ほとんどが空軍か郵便の仕事になる。


 私は今までの事情をハンナにも話した。


 ハンナは自身が知る限りの事情を話してくれた。


 どうやらポールは私を取り戻そうと必死な様子であり、王宮のメイドたちは私がいなくなったことで大忙しになっているみたいだけど、そんなの私の知ったことじゃないわ。いい気味よ。


「つまり、アリスとハンナの話をまとめると、結論はこうだ。ポールはバーバラと組んでアリスを王宮から追い出し、そこをポールが救うことでアリスを惚れさせる作戦だ。だがバーバラはアリスを亡き者にすることでポールを独り占めにしようとした。それがポールの誤算だった。まさか遠いピクトアルバの地まで追放するとは思わなかったんだろうな。それで慌ててアリスを連れ戻そうとした」

「本当に迷惑な人たちね」


 私はあんな傲慢な人たちに追い出されたのね。


 でもそのおかげで人生に踏ん切りがついたわ。自分の生き方は自分で決めていいのよ。


 私はここでのんびり暮らしたい。ここは物価も低いみたいだし、生きていくだけだったら何とかなりそうだわ。そのためにはいくつか課題を解決する必要があるけど。


 平民は夢なんか見ちゃいけないって思ってた。


 でもここの人たちが――それは違うって教えてくれたわ。


 ピクトアルバの人たちは身分に関係なく、1人1人がその長所を生かしながら協力しあって伸び伸びと暮らしていた。


 あれこそ、私が日々夢見ていた光景よ。彼らは私に1つのヒントを与えてくれた。


「そんな事情があるとは知らなかった」

「ハンナ、アリスが生きていることはすぐにばれると思う。だからアリスを連れ戻せなかったとポール宛に手紙を送ってみろ。もし返事がなかったら、次なる追っ手が来るだろうな」

「……除名処分はかたいか」

「追っ手がやって来たらお掃除すればいいじゃない。さっき私がそうしたようにね。あっ、そうだ。ハンナもしばらくピクトアルバに住んでみたらどう?」

「アリス、ハンナは王宮からの使者なのよ。乗せてくれたことには感謝するけど、私はまだあんたを信用したわけじゃないから」

「……」


 シモナがそう言うと、ハンナはどこか申し訳なさそうな顔で押し黙った。


 かつての王位継承戦争の敗北がまだ受け入れられない様子ね。


 今でも北方には資格のない者が後継者として王位に就き、その圧政が人々を苦しめていると考える者が多かった。シモナもその1人として、王国軍や王宮の者に対しては警戒の目を強く光らせている。


 ピクトアルバに着くと、私はシモナと別れ、エドとハンナと共に家に入った。


 シモナは近所に住んでいるらしく、普段は武器屋を営んでいるんだとか。


 さっきまで家の留守番をしていたエミが夕食を作っている。ハンナが自己紹介を済ませると、事情を話して1階に泊めてもらうことに。


 エドもエミも王国軍出身のハンナに対して多少の警戒心があったものの、なんだかんだ言っても放っておけないのよね。


 後は木材だけね。これが揃えばエミに家を建ててもらえるわ。


 私だけの家――どんな家になるのか楽しみになってきたわ。

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