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chapter 2-3「王宮からの使者」

 目の前にはたくさんの鉄鉱石が落ちており、その1つ1つをエドが【分析(アナリシス)】によって入念に調べる作業をひたすら繰り返している。


 シモナは小銃の手入れをしながらロバアと楽しそうに話しており、自らが持つ固有魔法や小銃のことも教えてくれた。


 彼女がいつも装備している魔銃(まじゅう)無限の銃(インフィニティオス)】は使用者の魔力を吸い取る代わりに、魔力の続く限りいくらでも銃弾を自前で作り、自動装填ができるため弾が尽きない。


 自分で弾を作る銃なんて初めて聞いたわ。便利になったものね。


 そして彼女の固有魔法である【探索(サーチ)】により、探している人や物の現在位置を特定することができる。


 ただし、対象が探索圏内にいなければ現在位置を特定できない。


「エドはいつもどんな武器で戦ってるの?」

「僕はこの聖剣【審判の聖剣(ジャッジカリバー)】で戦ってるよ。このごろずっと誰かさんが先に敵を倒しちゃうせいで全然使ってないけど」

「あはは」


 エドが聖剣の鞘を私に見せながら言った。私は愛想笑いで返すしかなかった。山賊に襲われた時の余裕はそれがあったからなのね。


 さっき撤退を宣言したのは長期戦を避けるためみたいだけど、どうしてエドは長期戦を避けようとしたのかしら?


「グランディオンの持っていた鉄鉱石はどれもかなりの純度を誇っているようだ。こいつが各地にあった鉄鉱石を食い荒らしたせいで鉄鋼の値段が上がっていたんだ。これなら頑丈な家が作れるぞ」

「本当に?」


 私は目を輝かせながらエドに尋ねた。


 これなら予定よりも早く家の材料が揃いそうね。


「ああ、間違いない。調べたところ、7割が鉄鉱石で、3割は宝石の原石だった。原石はピクトアルバに持ち帰れば質屋でお金に換えることもできるよ」

「それはいいけど、こんなにある鉱石をどうやって持ち帰るわけ?」

「ほーら、言わんこっちゃない。だから荷台を持って行った方がいいって言ったのに」


 ラットがため息を吐いた。そんなことしなくったって大丈夫なのに。


 資源の採取は歴代のメイド長に言われて何度もこなしたことがあるわ。


 確か()()()の採取を頼まれたことがあるけど、一体何のためにあそこまで集めているのかしら?


「それなら心配ないわ」


 私はそう言いながら青くて可愛いごみ袋を召喚する。この青袋も私の必需品よ。


「これは吸い取ったごみを消化してしまう赤袋じゃないのか?」

「あっちの赤袋は処分用で、こっちの青袋は収納用だから消化することはないわ。【収納掃除(ストレージスイープ)】」


 私が青袋に命令すると、その小さなごみ袋が山のように積まれていた鉱石を次々と飲み込むように吸い込んでいく。中は無限に空間が広がっているから、好きなだけアイテムを詰み込みできるわ。


 エドたちはその光景を見ながら呆気にとられていた。


 回収しているだけなのに、何をそんなに驚いてるのかしら?


 鉱石を吸い込み終わると、私は青袋を異空間にしまい、そこから立ち去ろうとする。


「そこの小娘、勝手に鉱石を持ち運ばれちゃあ困るなぁ」

「「「「「?」」」」」


 振り返ってみると、崖の上に軍人らしき格好の女性が立っていた。


 背中にまで届いている清楚で長い黒髪、堂々とした表情で腕を組み、禍々しい緑色の両翼が彼女の背中近くで浮遊していることからも、彼女が飛行能力を持っていることが一目瞭然だ。


 彼女はその威圧感を放ちながら高い崖から飛び降り優雅に着地すると、そのままゆっくりと私たちに近づいてくる。


「どうして持って行っちゃ駄目なの?」

「そもそもこのクラン鉱山は王都管轄下にある。つまりここにある鉱石は全て王都のものだ。今すぐさっきの青袋を渡せ」

「おいおい、名乗りもしないでいきなり人の物を寄こせとは、今時の王都の軍人さんはマナーがなってねえなー」


 半ば呆れ顔でロバアが言った。ラットは彼女が怖いのか、私の頭についている黒いリボンを両手で掴みながら押し黙っている。


「私はハンナ・ルーデン。メルへニカ王国空軍大佐だ」

「ハンナ・ルーデンですって!?」


 シモナが青ざめた様子で過剰反応する。


 一体この2人に何があったのかしら?


 とてつもない因縁を感じるわ。2人ともさっきからずっと睨み合ってるし。でもロバアの言うことはもっともね。


「知ってるの?」

「ええ、彼女は――」

「ハンナ・ルーデンは王位継承戦争で王国軍の一員として戦い、反乱軍の一個軍団を1人で壊滅させた最強の兵士だ。あの【大空襲の翼(エアレイドウィング)】は抜群の飛行能力に加えて強力な爆撃を行える殺戮兵器だから気をつけろ」

「もうっ! 勝手にしゃしゃり出ないでよー!」


 自分の台詞を取られたかのように、シモナが猛獣のような顔でエドを叱った。


 ということは――この人は王国軍の人なの?


 しかも一個軍団を1人で撃破って……相当強い人なのね。


「さっきの戦闘の一部始終を見させてもらった。まさかお前がアリス・ブリストルだとはな」

「私のことを知っているの?」

「知っているも何も、私は上の命令でお前を王宮まで連れ戻しに来た。悪いことは言わん。その鉱石が入った青袋と一緒にアリスを渡してもらおうか」


 ハンナが片腕を私に向けながら淡々とした表情で言った。


 王宮まで連れ戻しに来たですって。一方的に追い出しておいて随分身勝手な言い草ね。


「私は王宮から追放された身よ。なのに連れ戻しに来た理由は何?」

「ポールがお前を許嫁(いいなずけ)に指名した」

許嫁(いいなずけ)ですって!」

「しかも相手はポールか。どうやら君はポールに好かれたらしい」

「そんなの絶対に嫌よ!」


 あんな自分のことしか考えられない人と一緒になったって、幸せになんかなれないわ。


 私の人生は私が決める。もう誰かに生き方を決められるのは真っ平御免よ。


 せっかく手に入れた自由をここで手放すほど私は馬鹿じゃないわ。ここにやってきたのも何かの縁、きっと私に人生をやり直すためのチャンスを神様が与えてくれたのよ。


 私の選択は1つ、彼女をお掃除して、帰るべき場所へ帰るまでよ。

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