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chapter 2-2「箒が持つ力」

 ピクトアルバにはまるで仕組まれたように不思議な人ばかりが住んでいる。


 もしかすると、私はここに来るべくして来たのかもしれないわね。


 鉱山の中を歩く途中、私はシモナに気になっていたことを尋ねた。


「シモナはどうして王国軍と戦っていたの?」

「結構長くなるわよ」


 シモナが説明を渋りながら私の方を向いた。彼女は王国軍から雪原の死神と呼ばれ、恐れられていた。


 やはり何かわけがありそうね。王位継承戦争のことは知っているけど、確か私がブリストル孤児院にいた時に終結したはず。


「ええ、構わないわ」

「今から10年も前の話よ」


 シモナが上を見ながら語り始めた。まるで遠い昔の出来事のように――。


 10年前に先代王が崩御すると、2人の王女が玉座を巡り、ここに王位継承戦争が始まった。


 王女メアリーはその圧倒的な兵力によってあっという間にメルへニカ全土を占領した。


 もう1人の王女は自らを慕っている者たちの協力を得て奮戦するも、1ヵ月もの激戦の末、力及ばず敗れた。


 この決着により、王女メアリーの軍が正当な王国軍と認められ、もう1人の王女の軍は反乱軍と呼ばれながら北方へと逃れた。


「そのもう1人の王女はどうなったの?」

「それが……捕まって処刑されるはずだったんだけど、処刑の日に突然行方不明になったのよ。王女メアリーはかんかんに怒って見張りを全員打ち首にしたそうよ」

「僕はもう1人の王女を探すために王宮の内外を探して回った。そんな時に魔法実験を見てしまってね。それでエミと一緒に追っ手から逃れてやっとここまできたわけさ」

「王女の名前はなんていうの?」

「――それが、思い出せないんだ。何かに阻まれているように」

「思い出せない?」


 私は首を傾げた。エドは深刻な顔で下を向いている。


 王女の名前を思い出せないって――どういうことなの? エドだったら一度見たものは【分析(アナリシス)】で全部分かるはずなのに。おかしいわね。


 思い出せないってことは、何らかの原因によって忘れているのかしら?


「シモナは知ってる?」

「それが、私も思い出せないの。王位継承戦争の時までは覚えていたはずなんだけど」

「他に知ってそうな人はいないの?」

「一応訪ねてはみたけど、みんな王女様の名前を知らなかったわ」

「おいおい、仮にも味方していた王女の名前を知らないなんて無礼にも程があるだろ」


 ラットが笑いながら言った。


 正論ではあるけど、とてもわざと忘れたとは思えない様子だった。


「忘れちゃったものはしょうがないでしょ!」

「不思議な現象ね。味方していた人の名前を全員が忘れるなんて、まるで最初っからいなかったことにされているみたいね」

「! ……最初からいなかった……!」


 エドが何かを思いついたように目を大きく見開いた。


「エド、あなた――」


 私がエドに尋ねようとした時、鉱山で大きな揺れが起こった。私たちは空が見える崖の下まで走って移動する。横に長い崖の壁には宝石の原石や鉄鉱石などが埋まっている。


「「「「「!」」」」」


 何事かと思えば、さっきまで壁だったはずの場所から鉱石で構成されたモンスターが現れ、大空が割れるほどの雄叫びを上げた。


 恐竜のような大顎と頑丈そうな黒い体に、私たちは反射的に距離をとった。


「これがクラン鉱山にいるモンスターね」

「うわぁ……でけぇ」

「こいつはグランディオンだ。普段は地中に住んでいるはずだが、最近ここに棲みついたらしい。こいつこそが鉄鋼の値段を上げていた犯人だ」

「早速倒すわよ。エド、準備はいい?」

「ああ、いつでもいいぞ、シモナ」

「アリスは下がってて」


 シモナがそう言って小銃を構えると、何発もの弾をグランディオンに向かって撃ち始めた。


 もう弾切れになってもおかしくないはずなのに、シモナの小銃は弾切れにならない。


 弾が次々とグランディオンに命中する。岩をも砕くその威力にたまらずグランディオンは反撃を開始する。口から光線を吐いたり、鉄鉱石でできた太く長い尻尾で私たちを攻撃してくる。


 私はロバアに乗ってのらりくらりと攻撃をかわし、エドとシモナは体操のような動きでグランディオンの攻撃をやり過ごした。


「くっ……あれだけ大きいんじゃきりがないわね。いくらこの魔銃(まじゅう)が強いとは言っても、このままじゃ長期戦になるわ」

「まるで鉄鉱石の塊だな。君の魔銃(まじゅう)でも倒すのは骨が折れそうだ。ここは一旦引くぞ」

「鉄鉱石の塊なら壊しちゃえばいいじゃない」

「「えっ……」」


 私はそう言いながら魔法陣から【女神の箒(ゴッデスイーパー)】を召喚する。


 2人とも目が点になったまま私の様子をジーッと見つめている。


「それ――魔箒(まほうき)じゃない! どうしてそれを持っているの!?」

「説明は後よ。まずはこの粗大ごみを掃除するわ」

「掃除?」


 シモナが首を傾げた。エドは笑みを浮かべながら様子を見守っている。


 構えた箒の力によって穂先から魔力の塊を生み出し、それを穂先でコントロールしながら段々と大きくしていき、グランディオンの頭に狙いを定めた。


「お掃除の時間よ。【爆破掃除(バーストスイープ)】」


 魔力の塊が穂先から勢いよく発射されると、それがグランディオンの頭に命中し大爆発を起こした。


「うわあああああっ!」


 ラットが驚きながら私の頭についている黒いリボンにしがみつき、爆風に吹き飛ばされようとするのを必死にこらえている。


 エドとシモナとロバアは呆気にとられた様子で崩れていくグランディオンを見つめている。


 グランディオンの体はバラバラになり、そこら中にグランディオンの体を構成していた鉄鉱石がボロボロと落下している。


「ふぅ、お掃除完了」

「あんた……何者なの?」

「私はただの掃除番よ。初めてモンスターのお掃除を命じられた時、これが目の前に現れて私を守ってくれたの。今となっては掃除の必需品よ」

「やれやれ、危うく吹き飛ばされるところだったぜ。アリス、ちょっとは手加減しろよ!」

「ふふっ、ごめんなさい」


 私はラットに注意されると、思わず頭に拳を当てながら舌を出して笑ってしまった。


「これでたくさんの鉄鉱石が採れたな」


 エドは鉄鉱石の1つを手に取ると、私の方を見つめながら言った。

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