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chapter 1-10「定住宣言」

 数時間後、エドとエミの家は外観から内装までの掃除が終わっていた。


 掃除が終わった後の部屋は全てがピカピカに輝いているように見える。やっぱり掃除が終わった後はすっきりするわね。


 私は固有魔法【掃除(スイープ)】によって早くも2人からここの掃除番として認められた。


 いつもより掃除面積が圧倒的に狭いためか、まだ魔力に余裕があるわね。もっと他に仕事はないのか聞いてみようかしら。


「もう仕事はないの?」

「うーん――掃除の後はもうないわねー」

「一応洗濯ならあるけど、その前にエミの固有魔法を紹介してやったら?」

「そうね。せっかくお兄ちゃんが宝石の原石を買ってきてくれたことだし」


 ――そういえば、エドは宝石の原石を加工するとか言ってたわね。


「エミの固有魔法は【加工(プロセス)】だ。原石とか木材とか鉄鋼とかがあれば、それらを加工して家とか船とか宝石とかを作ることができる」

「私はお兄ちゃんが掘り出してきた本物の材料と【分析(アナリシス)】したものを【加工(プロセス)】して、それを質屋で高く売ったり、家を建てたりして生計を立てているの。だから私の職業は加工職人なの。じゃあ、今からやってみせるわね」


 エミはそう言いながらエドが持ち帰った宝石の原石を目の前に置いた。


 そしてエミの【加工(プロセス)】により原石が次々と奇麗にカットされていき、見る見るうちにお店で売っているのと変わらないくらいの立派な宝石へと変わっていった。


 それらはまるで宝石職人がカットしたかのような眩い光沢を放っている。


「……凄く奇麗……この家もエミが建てたの?」

「ええ。近所にある家は全部私の【加工(プロセス)】で建てた家なの。材料は全部引っ越してくる人に集めてもらったものを使うことになってるから、その分料金が安くなっちゃうのが玉に瑕だけど」


 エミが笑いながら言った。そんな創意工夫があるなんて知らなかったわ。


 つまりこの兄妹はお互いの固有魔法を駆使して生活しているわけね。


 私もその方法なら生活ができるんじゃないかしら。それにエミは材料があれば家を建ててくれると言っていたわね――!


 そうよ! その手があったわ! どこかこの近くで空いている場所に家を建ててもらって、そこで生活をすればいいのよ! そうすればわざわざ旅をする必要もないわ。


「エド、エミ、私この街に住みたい!」


 私は目をキラキラと輝かせながら言った。故郷がないなら作ればいいのよ。


「それはいいけどさ、家を建てるんだったら自分で建てるか材料をエミに渡す必要がある。木材と鉄鋼が一定数あればそれで家を建てられるわけだし」

「そうね。アリスだったら歓迎するわ」

「だが期限はここに置いてやれる1週間だけだ。残りの6日間で材料を見つけてこい」

「お兄ちゃん、そういう言い方ないんじゃないの?」

「これは僕とアリスの契約だ。それにこの家の持ち主は僕だ」

「はぁ~、やれやれ……アリス、そういうわけだからごめんね。家の建築費用は初回無料ってことにしておくから、材料だけ期限内に見つけてきてくれるかな?」

「ええ、分かったわ」


 エミがため息を吐いた。エドは私たちの心情も知らないまま2階へと上がっていく。


 どうやらエミでもエドには逆らえないようね。


 あの偉そうな態度は気にくわないけど、言っていることはごもっともだわ。掃除番をただで引き受けているとはいえ、1人と1匹と1頭の面倒を見るのはこの家にとって大きな負担だろうし、それなら期限内に自分の家を建てろと言うのも筋が通っているわ。


 このまま見つけられないと、また昨日までの野宿生活を送ることになるわね。


「アリス、家を建ててもらうとは言っても一体どうすんだ?」


 ラットが困った様子で私に尋ねた。ここら辺に土地勘はないし、手探りでやるしかないわ。


「どうするもこうするも、やるしかないでしょ」


 私の回答はただ1つ。やるしかないのよ。エドは私の覚悟を試しているに違いないわ。とりあえず洗濯だけやっておこうかしら。


 この家にある洗濯物を集めると、私は洗濯物袋を召喚し、洗濯物を汚れた状態のまま洗濯物袋の中へと丸ごと投入する。


「一体どうするつもりなの?」


 様子を気にしているエミが私に訪ねた。


「まあ見てて。洗濯くらいならすぐに終わるから」


 私は自信満々の表情のままそう言うと、洗濯物で丸くパンパンになった洗濯物袋を【女神の箒(ゴッデスイーパー)】の魔力によって宙に浮かせた。


「お掃除の時間よ。【浄化掃除(クリーニングスイープ)】」


 箒の魔力によって洗濯物袋の周りに聖なる光が発生し、それが洗濯物袋を飲み込むと同時にあっという間に洗濯物についた汚れが吹き飛ばされるように浄化されていった。


 そして聖なる光が消滅すると共に乾いた状態の洗濯物袋をその手に取った。


 中の洗濯物も水分がなくなった状態となっており、干す必要すらなくなっていた。


「――凄い。干した後みたいになってるわ」


 私は毎日同様の手段で服を着たまま体ごと【掃除(スイープ)】している。


 だから毎日着続けたとしても新品のようにその清潔さを保てるし、聖なる光は体の表面に対する浄化作用もあるから、服を着たままの浄化によってお風呂がなくても体の清潔さを保てるわ。


 これはラットもロバアもここに来るまでに毎日見ていたから驚かないけど、さすがにエミは初見だから驚いたみたいね。


「エミ、何もすることがない時は、家の材料集めに行ってもいいかな?」

「ええ、今日はもうアリスの仕事はないから自由にしていいわ」

「分かったわ。じゃあ早速鉄鋼と木材を集めに行こうかな」

「それならクラン鉱山がお勧めよ。頑張ってね」


 どうにか自由行動の許可を貰った。あとはどうやって家の材料を集めるか――ね。

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