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chapter 1-1「王宮のメイド」

初の女主人公作品です。

温かい目で見守っていただけると助かります。

一人称視点の物語です。

ざまぁ展開は敵視点で行います。

過度な期待や批判などは御遠慮ください。

 ここは、とても平和な魔法の国、メルへニカ王国。


 あまりにも平和すぎて軍隊が仕事をしない国と周辺国から揶揄されるほど。


 メルへニカの王都ランダンには多くの人々や品物が集い、市場では商業が賑わい、メルへニカにおける経済活動の中心地となっていた。


 そんな王都で平民が貧困から脱出する道は2つ。


 1つは王族や貴族に重用されるか寵愛を受けること、もう1つは王宮に就職して役人かメイド長に出世すること。


 幸いにも王宮はメイドを常時募集中だったので、必死に勉強して10歳の時にメイド試験に合格した私は、無事王宮に就職することができ、それなりに充実した日々を送っていたわ。


 あの理不尽なメイド長さえいなければ――。


 私はアリス・ブリストル。まだ15歳を迎えたばかりの、どこにでもいるしがない平民の子。


 数いる王宮メイドの1人に過ぎなかった私は固有魔法【掃除(スイープ)】を武器に、王宮全ての掃除はもちろんのこと、その他の雑用までを一手に引き受けていたわ。


 それもそのはず、私はメイド長に就任したばかりのバーバラ・サンドフォードといういけ好かないお局に目をつけられ、私にだけ過重労働を強いられていたのだから。


 ちょっとでも汚れが残っていたら全部やり直し。時々あのお局の取り巻きがわざと埃を巻き散らかして笑いながら去っていくけど、それで私がよく怒られたものね。役人たちに訴えても、メイドの問題はメイド長に言えの一点張りで、誰も取り合ってくれない。


「アリス、掃除はまだ終わってないの?」

「はい、これだけ部屋の数が多いと、1人では時間が――」


 突然、左のほっぺに激痛が走った。


 バーバラが私を思いっきり平手打ちしたからだ。


「言い訳なんて聞きたくないわね。ちょっと仕事ができるからって調子に乗ってるんじゃないわよ。本来なら今すぐにでもクビにしてやりたいところだけど、正当な理由がなきゃクビにできないからねぇ」


 この広い王宮の部屋で2人きりであるのをいいことに、バーバラが嫌みを言ってくる。


掃除(スイープ)】の魔法効果で雑巾や箒といった掃除道具に意思を持たせて拭き掃除をさせたたま、自慢げにピンクの髪をなびかせる彼女の前にポツンと立ち、従順さを示すように下を向いているしかなかった。


 人によって魔法の得手不得手があり、出せる魔法と出せない魔法は千差万別だ。得意な魔法については固有魔法と呼ばれ、苦手な魔法は仲間やアイテムで補われることが多い。


 そして私が何より得意としているのが【掃除(スイープ)】だった。これは掃除することに特化した魔法の総称であり、掃除にまつわることなら大体できたりする。


 私だって――仕事を選べる立場だったら、さっさとこの暴君からおさらばしたいわ。これだけの仕打ちを受けても、お給金が上がるわけじゃないもの。


「……申し訳ございません」

「それしか言えないの? もう何度目の申し訳ございませんなのかねぇ」

「……」

「だんまりとは情けない。ちゃんと今日中に全部終わらせてよね」


 バーバラはそう言うと、ロクに仕事もせずメイド長室へと去っていく。


 あなたと話している時間なんて全部無駄。1秒でももったいないくらいよ。


 私はそう思いながら機嫌よく飛び跳ねて去っていくバーバラを睨みつけた。柄にもなく両腕の拳を強く握ってしまったわ。


 きっとまた、貴族の人とデートでもするつもりなんでしょうね。私に全ての仕事を押しつけて。いいご身分だこと。あれで誰にも怒られないのだから不思議だわ。


 バーバラとは同期だった。


 私より一回り年上で、最初は仲も良かったけど、世渡り下手な私とは対照的に、彼女はあっという間に当時のメイド長に気に入られ、順調に出世コースを歩んでいた。彼女は自分に与えられた仕事をせず、事あるごとに理由をつけては私にばかり仕事をさせ、それを自分の手柄だと自慢していた。


 ――私は出世に興味はない。ただのんびり生活ができればそれでいい。


 メイド長となったバーバラは貴族の男に恋をした。


 でも貴族の男はバーバラではなく私に恋をした。そのせいでそこから歯車が狂い始めた。


 バーバラは貴族が私に好意を向けていることを知ると、あからさまに嫌がらせをするようになり、それは次第にエスカレートしていったわ。


 今は何とか耐え忍んでいるけど、それがあと何年持つことやら。


 私は掃除道具たちに仕事を任せて誰もいない時間帯の王宮の庭に出た。


 午後12時から1時までは王族も貴族もランチタイム。メイドたちの多くは私に仕事を押しつけて部屋で遊んでばかり。そんなわけで私以外は誰も庭に出てこない。


「アリス、何でそんなに落ち込んでんだ?」


 話しかけてきたのは、眼鏡をかけ紳士服を着た手の平サイズのネズミ。


 そんなネズミのラットは私の唯一のお友達。王宮の外に住んでいるちょっと生意気な子。いつも私が庭に来た頃を狙って、庭を囲んでいる煉瓦の壁の隙間から入ってきては私に話しかけてくる。普段何してるのかしら?


 彼はさっきから私を見上げながらお気楽そうにしている。ネズミはいいわね、人間みたいにくだらないことで悩まなくていいんだから。


「別に落ち込んでないわ」

「あれだろ? またあのババアに怒られたんだろ? もう中年だってのにあの男前な貴族の前だと乙女みたいな顔になるよなぁ。あっはっはっはっは! 婚期逃してるってことに気づいてねえんじゃねえの。あっはっはっはっは!」


 ラットは私の頭の上で腹を抱えながら上を向いて寝転び、意気揚々と笑いだした。


 この子は嘘を吐かない。人間のように誰かに対して気を遣うこともない。彼の言葉はいつも真実だけど、私にはそれが残酷に思えることがあるわ。


「ふふっ、それ本人の前で言っちゃ駄目よ」


 つい彼につられて笑ってしまった。これが私の数少ない癒しの一時。


「分かってるって。でもよくあんなババアの下で働いてられるよなー」

「他に仕事がないんだから仕方ないでしょ」

「貴族に生まれてのんびり生活したかったか?」

「そうね……私にはのんびりした生活の方が似合ってるから」


 いつか平民でも――のんびり暮らせる世界がやってくればいいのに。


 どうして神様は、平民にばかり辛い思いをさせるのかしら。


 この日も私はいつものように深夜まで働かされるのだった。

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読んでいただきありがとうございます。

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