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魔法少女全滅スイッチ  作者: 君涙
2/2

Target No.010 黒金 赤(2)




 アタシがクロウに出会ったのは、冬の真夜中。

 すごく寒いのに、雪なんて降る気配のない快晴の暗がりだった。



 「なに? これ……」



 『散歩』からの帰り道で、思わず目についたのは、変な形をした……壊れかけのまんま機械な感じの鳥っぽい何か。

 全く見覚えのないソレは、何故かアタシの事を知っているみたいに、そのプラスチックみたいな瞳を、真っ直ぐアタシへと向けていたのがキモかった。



 「っ!!」



 だからアタシは、ソレを迷わず車道へと蹴り飛ばす。

 ただでさえムシャクシャしていたし、目の色が半端なくキモいかったから、当て付けに車に轢かせようとしたのだ。



 「ヒドイ! ヒドイ!」


 「ひぃ!?」



 なのに、投げ捨てた筈のソレは、ムカつく事にアタシを驚かせてくれた上に……まさかのまさか、このアタシを危うく車にも轢かれそうにもさせてくれた。



 「ユー、トクベツ!」



 そんな、酷くつまらない一言を聞かされたがために……






 その日から、アタシは魔法少女なんてものになってしまった。

 学校では、軽めにヤンキー染みた事をやってハブられているアタシが、まさかの魔法少女とかってマジでキモいとは思う。


 しかも、魔法少女に変身した姿も、安直に黒と赤で可愛くないし。

 というかアタシは、この名前が大嫌いなのにふざけんなって話だ。

 

 ……だけど、この圧倒的な『トクベツ感』は、アタシを何処かへ連れて行ってくれそうな気がして、不思議と辞める気にはならなかった。

 致命的にダサいとは思うけど、確かに魔法少女のアタシは強くて、必死にやるだけの価値もあったからだ。

 まぁせめて、このゲームの責任者がいっぺん死んでくれたら許していいかもしれない。






 それからのアタシは、毎日毎日ダイバーワールドへと入り浸っていた。

 一応最初に、そこはゲームの世界とかではなくて、歴とした現実世界で、死ねば命を落とす事になるのも聞いている。


 だけど、傀儡とか言う化け物は、そんなに強くもなく、アタシの創り出したナイフで簡単に倒す事が出来る程度。

 まだまだ簡単な世界だと、機械鳥は言うけれど、これくらいの怖さならアタシは全然平気だったし、日頃の鬱憤を晴らす場所としては、そこは最適に過ぎた。

 遠慮なく戦えて壊せる悦びは、アタシにとっての蜜の味だった。



 「ネームプリーズ!」



 そんなある日、機械鳥がそんな事を宣った。

 だからアタシは、いつも通りに機械鳥を踏みつけて、あんま調子乗んなと嘯く。



 「ヒドイ! ヒドイ!」


 「酷くない黙れ!」



 この鳥は、たまにマジでウザい。

 索敵が得意と言いながら、傀儡発見はいつもエンカウントの直前。

 機械的過ぎてコミュニケーションがド下手。

 この前なんて、アタシの攻撃の邪魔するためとしか思えない位置取りをしてきて、危うく傀儡を逃しかけた事もあった。

 誰がそんな役立たずに名前なんて付けてやるかと思う。



 「はっ! お前なんてポンコツで充分だっての!」


 「ノー! ポンコツノー!」



 ったく、何がノーだ。

 どっかの子供みたく中途半端に言葉を知ってやがって。

 悔しかったら、まずは一丁前に役に立ってから文句垂れてみろっての。



 「ネームプリーズネームプリーズ!」


 「ああもう! うるさい!」



 アタシは、いつものように機械鳥を蹴飛ばしてやる。

 するとようやく諦めたのか、機械のくせに微妙にしょんぼりした風にして、その日は名前をつけずに終わった。

 何で名前なんて欲しがるのか、アタシにはさっぱり分からなかった。






 それからまた暫くして、ヤバめのピンチに遭遇してしまう。

 敵は、アタシの苦手な遠距離タイプ。


 しかも、銃なんてあっぶない物で武装している上に、なかなか距離を詰めさせて貰えない難敵スナイパーだった。


 アタシの武器の難点は、近距離と中距離でしか攻撃が出来ない事。

 金属生成が出来るんだから、銃の一つでも作れたら良いのに、残念ながらアタシにはちょっと複雑な形状の武器を作る才能がなかったらしい。

 責任者はマジで死ね。



 「ガンウツマエ、ウッタアト! ムーブスロウ!」


 「んなの分かってる! それでも近づく前に逃げられてんの!」



 言われるまでもなく、確かにソイツは銃を撃つ前後に動きが鈍る癖があった。

 けれど、それが分かっていても弾丸を避けている内に動きがまた早くなり、アタシが射程距離に辿り着く前に逃げられてしまうのだ。

 これでは、まるで手が出せない。



 「ノーストップ、アカ! ヨケズニススメ!」


 「はぁぁぁあ!? アンタついにアタシに死ねって言いたいわけ!?」



 何の策もなく突撃なんてしたら、速攻死ぬっての!

 誰がやるもんかっての!



 「ノー! カンガエ、アル!」


 「は? お前如きが、考え?」


 「アル! シンジテ!」


 「信じてって、お前……」


 「アカ、しん、ぢて?」


 「…………」



 機械鳥の、何故か真剣に見えてしまったプラスチックな眼差しに、アタシは思わず口籠る。

 まるで信じられる要素なんてなかったし、言葉のイントネーションも違った気がするけれど、どうしてなのかそのプラスチックみたいな黒目に、その時のアタシは思わず怯んでしまっていた。

 ふと、昔の嫌なことがリフレインしたのも間が悪い。



 「……1度だけ、よ?」


 「オー! オーケー! シンパイシッパイノー!」



 機械鳥は、何やら嬉しそうに翼をバタつかせる。

 アタシはと言えば内心戦々恐々なのだが、一度信じるかと決めた以上は、アタシは考えを翻すつもりはなかった。

 一応は、それなりに場数はこなして来たのもあるし、ポンコツにだって、1度くらいチャンスがあっても当然だと思ったのだ。


 アタシは、恐怖を振り切って突撃を敢行する。

 それにどうせ、このままじゃ追い詰められるだけで終わり。

 だったらポンコツの考えとやらに賭けてみるのも吝かではない。

 これは、アタシ達が生きるための戦いなのだから。



 「死んだら絶対許さないから!」


 「ノーシンパイ! ノーシッパイ!」



 アタシは、銃の傀儡向けて一直線に走り出す。

 すると、当たり前のようにその銃口がこちらを向いて、狙いを定めるようにチラチラと動いている。


 怖い……


 だけどきっと、あのポンコツが何とかしてくれる!


 アタシは全速力でフィールドを駆け抜けつつ、最近愛用するようになったダマスカスナイフを創り出す。

 接近できさえすれば、このナイフに仕込んだ金属糸で、敵の動きを止められる筈だ。

 

 そして遂に、敵の銃口から放たれる一発の弾丸。

 けれど、アタシはそれでも構わないと走り続ける。

 ポンコツが言っていた通りに走り続ける!



 「アカ! テキヲタオセ!」



 そこに突然、アタシの進路を塞いでくるポンコツ機械鳥。


 それは、またもアタシの目の前。

 敵とアタシとを繋ぐ、丁度弾丸が通る筈の一線上にだ。


 はっ? と思った次の瞬間には、ポンコツは敵の銃撃によって、弾かれるようにアタシの前からいなくなっていしまう。

 一瞬にして、相棒がアタシの目の前から消えてしまう。



 一瞬、思考が停止した。



 何で?

 何でポンコツが身代わりに?

 まさかあのポンコツ、最初から自分の身を犠牲にするつもりで?

 まさか、前の時もそうだった?


 ほんと、マジ馬鹿なの?

 馬鹿すぎて笑えない。

 有り得なさすぎてふざけてる。


 それにそんなの、アタシは認めてない。

 認めてない。

 認めてない。

 認めてない。

 認めてない

 ……そんなの絶対、認めない!




 「クゥゥゥロォォォウゥゥ!!」




 アタシは、考えておいたポンコツの名前を叫びながらも走り続けていた。

 だって、クロウが敵を倒せと言っていた。

 なら大丈夫。

 クロウは、ノー心配と言っていた。

 だから大丈夫。

 クロウは、ノー失敗とも言っていた。

 だから大丈夫。


 アタシは今日も!

 クロウと一緒に、敵と戦って勝利する!






 戦闘後、フィールドの瓦礫の中から、クロウは最初に出会った頃みたいに、アタシにプラスチックの瞳をぶつけてくる。

 対してアタシは、あの日みたいに蹴り飛ばす事はなく、そっと、その機械機械している体を抱きかかえていた。



 「アカ、ウィン?」


 「馬鹿」



 良かった。

 本当に大丈夫だ。

 一応、銃撃の跡を確認するも、当たったのは胴体の角で、見た目の損傷も酷くない。

 無駄に硬くて可愛くないマシンボディが、今日のところは役立ったらしい。

 本当に、良かった。



 「アカ、ネーム、サンキュー」


 「……馬鹿」



 名前なんて有難がるクロウと、涙ぐむアタシ。

 偶然出会ったアタシ達は、馬鹿みたいなゲームに身を投じ、化け物と戦って、いつも通りに勝って何とか生き残っていた。

 でも、少し苦戦したその日に、アタシ達2人は、ようやくパートナーになったんだと思う。


 以降、ダマスカス双剣とクロウのコンビは、ダイバーワールドに、少し名前が知られるようになっていった。




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