妖精さんと道徳の教科書
「……うゆゆ」
「あ、はい! はい、なんでしょう?」
「ここのところの縫い方のコツ教えて欲しいな〜」
「あ、うん。わかった」
りすによって縞パンから目覚めた僕。
魔法をといてくれる妖精さんかな。
「あ、私も教えてもらうよー」
「うゆゆ、私もだよ」
完全に目覚めた。妖精さんすごいなあ。
三人の女子小学生は、あっという間に僕の周りに来て、やっぱり女子小学生可愛いな……って思っていたら、美雨がすごい睨んで来るのに気づいた。
まあはっきり言って、美雨は睨んでる顔してても可愛い。だから美雨も妖精さん認定できるかなと思う。まあ胸のあたりが重そうで飛びづらそうだけど。
早速りすに教え始めた僕を見て、
「あ、うゆゆ忙しくなりそうだから私みうみうに教えてもらうー」
やまねはそう言って美雨の方に移動した。
女子小学生三人と美雨はとても仲良し。
美濃とももちろんそう。
前に言った通り、ぬいぐるみの絆で結ばれている。
今は、美濃は大野さんに教えているところで、美雨と小学生三人は僕をはさんで反対側の位置に座ってたから、僕の周りに小学生たちが集まって来たわけであって、別に僕が小学生から人気なわけではない。
りすとえりかに縫い方を教えて、ちょっと美雨の方を見てみれば、やまねは美雨の膝の上に座って美雨に寄りかかっていた。
ぬいぐるみよりも柔らかそうな背もたれだ。
僕も小学生くらいの身長になってやまねと同じように……じゃなかった。とてもいい光景だ。
ていうか、僕が小学生を膝の上に乗せたら絶対不機嫌になってチャコ鉛筆攻撃とかしてくるくせに、自分は堂々と小学生を乗せてるんだよな。おかしいね。
「うゆゆ、向こう見てる」
えりかにそう言われて、僕は慌てて視線を元に戻した。
「そういえばね、今日道徳の教科書でお話読んだんだよ」
「おお……どういう話だったの?」
「男の子と女の子がいてね」
「うん」
「元々隣の席だったんだけど」
「おお」
「席替えがあって遠い席になって」
「なるほど」
「でもね、席が遠くなっても、男の子は女の子を見てるの」
「なるほど……」
「それはね、女の子のことを男の子が好きなんだからだようゆゆ〜」
「あっ、最後の大事なところだけ言わないでよりすちゃん」
「……」
どこに道徳的な要素があるのかよくわかんないな。
「で、うゆゆは見てたよね」
あ……。なるほど。つまりえりかは、僕が美雨の方を見てたから、僕が美雨のことが好きなんじゃないかって思ってるわけだ。
まあ……適当にぼかすか……。
「うゆゆ、好きなの? やまねちゃん」
「ノーコメントってことで」
あれ? 今なんかミスった?
次の瞬間、頭に衝撃が。頭の中でぬいぐるみがぱーんと弾けるほどの。
「いてててててててててて!」
美雨がふんっと、チャコ鉛筆を僕の頭に振り下ろしていた。
腕まくりした美雨の右腕は、めちゃめちゃ力が入っていて、前に見た柔らかい二の腕なんでどこかにさようならしていた。突然やわらかさを失うぬいぐるみかよ。
美雨思ってたよりは筋肉あるな……。
そんなことを考えている場合じゃなかった。崖っぷちのぬいぐるみ。
僕はどうしようと思い、とりあえず、美濃と大野さんに助けを求めようとしたが、二人はにやにやしてこっちを見ていた。
二人ともにやにや同好会にでも入ってるのかよ。
全く助けてくれなさそうだ。困ったな。
お読みいただきありがとうございます。
ここまでまったりゆっくりと話が進んでいますが、次の次の話くらいから、物語を展開させていこうと思います。