小学生を誘うと不機嫌になるのはなんで?
「あの、二人はお付き合い中ですか?」
大野さんがぬいぐるみを抱き上げるようにごく自然に訊いてくる。
「ち、ちがうし!」
美雨が一瞬で自分で起き上がるタイプのぬいぐるみのように元の姿勢に戻った。顔が赤い。変な体勢をしていたからだろうか。
「よし、活動するよ優!」
「あ、私ぬいぐるみ作りをしたことがないので教えて欲しいです」
「もちろん私たちが教えまくります!」
美濃が張り切っている。
美濃、だれかに教えるの得意だもんな。
僕はよく勉強(主に英語)を教えてもらっている。
で、それはそれとして、そろそろぬいぐるみ作りを教わりに三人が……。
「うゆゆー」
「きたよ〜」
「ひさしぶりだね」
来た! 辺り一帯のぬいぐるみがかすんでしまうほど可愛い女子小学生三人。三人とも小学三年生。
よし、ぬいぐるみ大好きロリコンだと思われないように、今からしっかり三人の紹介をするから。
読み飛ばさないでね。
まず、今日は一つ結びで、秋も終わりの方なのにTシャツの上には何もはおっていず、元気な声で僕を呼んでくれた根間やまね。
「うゆゆ」というのは、僕の名前の羽有優を短く言って生まれたあだ名。
そして、少し中学生っぽくも見える大人びたベージュのスカートをはいているのは摺場りす。
今日はいつもとは少し違う雰囲気の格好で、おどろいたとともに、小三の成長を感じた。
三人目は、お気に入りのピンクのワンピースを身にまとった、コスモス畑にいる妖精のような女の子。柴崎えりか。
少し前まで学校に行けていなかったけど、今は元気に通っているみたいだ。
三人とも僕が作ったぬいぐるみを大切にしてくれていて、僕も、三人からもらったぬいぐるみをとても大切にしている。
美雨と美濃と僕、小学生三人と美雨と美濃ももちろん同じ関係だ。
みんなぬいぐるみの絆で結ばれている。
うん、すごくいい関係だよな。
「……痛い!」
なぜか後ろから美雨がチャコ鉛筆で僕の背中を攻撃して来た。
おい、ぬいぐるみの絆はどこに行った。
「なんで三人を誘ったの?」
「……ぬいぐるみを一緒に作るためだよ」
「……ぬいぐるみ大好きロリコンじゃん」
「なんで誘っただけでそう決めつけるの?」
今日の美雨は赤くなったり不機嫌になったり、いろいろ変わる。
うーん。僕が好きなのは実はその美雨だからな……。
それを伝えればぬいぐるみ大好きロリコン疑惑等が解決するかもしれないが、小さなぬいぐるみが自力で階段を上るくらい、とてもハードルが高いことだ。