後輩、お風呂、ベッド
「あの、ゆー先輩、ぬいぐるみ部は普段はどのような活動をしているのでしょう?」
「ああ……普段はぬいぐるみを作ってて、毎週火曜は児童館に行って、小学生に向けてぬいぐるみを使った劇をしたり、ぬいぐるみ作りを教えたりする感じかな……」
やっと状況が布団にいい感じに埋まったぬいぐるみのように落ち着いてきた頃。
大野さんがしてきた質問に僕は答えた。
「ああ……それでぬいぐるみ大好きロリコンに……」
「それ信じないでね」
「信じていいよ」
僕の直後に美雨の声が飛んでくる。
もういいや。諦めた。
「ゆー先輩、安心してください。私とゆー先輩の付き合いは、なんだかんだいって私が三歳、ゆー先輩が六歳くらいからです。ゆー先輩を普通の人に分類することが可能なような気も人によってはたまにすることくらいはわかってます」
それほとんど普通に分類できてない……。
「え、雫ちゃんと優ってそんな幼い頃から……」
あっという間に雫ちゃんと呼ぶようになった美雨は、せっかく作ったぬいぐるみから綿が飛び出てきた時のようにショックそうな顔をしている。
「つまりゆー先輩とは幼馴染ということができます」
いや、幼馴染って……ほとんど喋ってないぞ少なくともここ三年くらいは。小さい時は知らないが。
「幼馴染って……! 朝起きたらおはよーとかいってベッドに飛び込んたりする関係のあの幼馴染ですね! そ、そんなことを優くんに雫ちゃんがしていたとは驚きです」
美濃の中の幼馴染のイメージが、ここ一カ月に読んだ本が全てテンプレラノベですみたいな人のと同じだ。
「そうですね。確かに私は昨日も同じベッドでゆー先輩……と寝て、この間はゆー先輩……と一緒にお風呂も入りました」
小さな嘘を風船とするなら大型飛行船ほどの大嘘。ま、でもさすがに冗談だってことで信じないよな。
……ってどうした美雨?
隣に座っていた美雨が倒れそうになりながら僕にもたれかかってくるとともに頭突きしてくる。
メンタルが死にそうな中頑張って攻撃する人みたいになってるけどどうした。
「優……さいてい、ばか、つぶれたぬいぐるみ」
「まさか信じてるのか美雨! 嘘だ嘘」
「嘘じゃないです。私は昨日ゆー先輩のぬいぐるみと一緒に寝て、この前、ゆー先輩のぬいぐるみと一緒にお風呂に入ったんです」
「……さっきぬいぐるみって言ってなかったよな」
「言いました。ちいさめの声で」
なんだよその幼稚なひっかけみたいなの。ていうか絶対美雨を焦らせようとしてわざと「ぬいぐるみ」のところだけ小さく言ったよな。
安心したのか美雨は柔らかすぎるぬいぐるみのようにふんにゃりと力が抜けていた。
くすぐったい感じで、美雨の身体が僕にくっつく。
美雨は離れようとしないし、早くぬいぐるみ作りを始めるべき時なのに、僕はなぜかそうは思えずにぼーっとしていた。