表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/46

東京に行く

 それからは、夕食、お風呂を済ませた。


 一日目に比べたら、圧倒的に平和だったので、とてもゆっくりできた。


 というか僕のことを匂いフェチ呼ばわりする女の子を、全く見かけない。

 

 まあ別に旅館はでかいし、会わなくても全く不思議ではないというか今まで絡みすぎていただけだなと思う。


 なので僕は特に不思議に思うこともなく、みんなどこかに行ってしまった自分の部屋でだらだらぬいぐるみ作りをしていた。


 と、その時、ノックの音がした。


 ノックするってことはここの部屋の人ではないから、美雨が美濃か……? 


 開けて見ると、女の子がいた。

  

 自ら匂いフェチの部屋に来て大丈夫ですか?


 もしかして突然信頼を勝ち取った?


「ぬいぐるみが、完成したんだけど」


 いろいろ考えていた僕に、女の子は唐突にそう言った。


「おお、良かったな」


「……あのさ、これ渡したい人がいるんだよね」


「なるほど」


 好きな人とかなのだろうか。


 で、仮にそうだとして、どうしてここに来たのだろう?


 しかしその疑問は解けることになる。


「その人ね、今東京にいるの」


「東京?」


「そう。私、東京に行こうと思って、あんたたちが帰るのと同時に」


「おお」


「でさ、あんたたちが帰ったらまた次の学校の人たちが来るし、お母さん達は忙しいわけよ。私もほんとは手伝わなきゃ行けないの。だから、こっそり行こうと思って」


「……いや、それ大丈夫なの? お母さんには言ったほうが良くない?」


「出発してから電話する。流石に忙しいから追いかけては来ないでしょ」


「……行動力すごいなあ」


 僕が中学生として、福岡から東京まで、一人で行こうと思うだろうか。

 

 そのぬいぐるみを渡したい人って、どんな人なのだろうか。


 女の子はお花のぬいぐるみを作っていた。


 なんの花かはわからないけど、ラッコのぬいぐるみの時と同じく、かなり繊細に作られているという印象だ。


 きっと何か想いがあるんだろう。


「でさ、東京ってすごいおおきいじゃん」


「……まあ」


「だ、だから東京怖いし、迷ったらやだから、あ、案内して!」


 なるほど。たしかに。迷いそうだなという気持ちはわかる。


「わかった、いいよ。けど、やっぱ、ちゃんとお母さんには言ったほうが心配かけなくていいとは思うけど」


 匂いフェチ認定された次は誘拐疑惑とか出たら困るし。


「わ、わかったよ。言うけど、頼むけど……ダメって言われそう。だって、たかがぬいぐるみ渡しに行くだけのために、東京に行くなんて」


「……たかがではないと思う。ぬいぐるみは」


 僕はそこだけは否定しておきたかったので、小さくそう言った。


「……ふふ」


 女の子は、僕の小さいその声を聞くと、少し笑った。


 



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ